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サッカーマガジン 1995年12月6日号

ビバ!サッカー

ヴェルディ優勝のあとに

 Jリーグの二コスシリーズでヴェルディが優勝を決めた。3年連続、みごとなものである。だけど、このあと、フロントは頭が痛いんじゃないか? スター選手を抱えて、優勝のごほうびに、さらに給料をあげてやっては、クラブの財政がもたないんじゃないかと心配である。

☆カズと武田の活躍!
 ヴェルディが二コスシリーズ優勝を決めた夜、ぼくは山形県の天童市にいた。あの将棋の駒とさくらんぼで有名な天童である。
 山形県の高校の体育の先生方の研修会が開かれていて、翌朝に、ぼくが講演をすることになっていた。
 ヴェルディとレイソルの試合が行なわれている時間は、夜のにぎやかな「研修会」のまっさいちゅうだった。お客として招かれている立場だから、中座するわけにはいかない。それに教育の現場の先生方の腹蔵のない話は非常に貴重だから、やはり、しっかり懇談をしておく必要があった。
 というわけで、懇談が終わって大急ぎでホテルの部屋に戻って、テレビのスイッチを入れたら、すでに試合は後半だった。ヴェルディが1対0とリードしていたが、レイソルも元気よく反撃して、ヴェルディの方がたじたじとなっていた。
 しかし後半35分、カズが相手の守備の間を縫うように走り出て、渡辺のパスを受けダイレクトでけりこんで2点目。これで決まった。
 ぴたりとボールを合わせた渡辺のパスも良かったが、渡辺の前に走り出たカズの動きがすばらしかった。すばやく状況を判断し、自分自身の動きで、チャンスを作り出したプレーだった。
 試合が終わったあとのVTRで見たのだが、前半18分の武田の先制ゴールも見事だった。ボールがこぼれ出るところに位置をとっていて、うき球をボレー・シュート。武田らしいゴール前の位置どりのカンと運動能力が発揮されていた。

☆武田が移籍する?
 武田とカズのすばらしいゴールを見て「うーむ。ヴェルディは、これからがたいへんだな」と思った。
 というのは、高校の先生方との懇談会の席上で、ある先生から「Jリーグのクラブは、いまのやり方で続くんですか? 財政的にやっていけるんですか?」と鋭い質問を受けていたからである。
 ヴェルディのプレーヤーの給料は、他のクラブに比べて断然高いという噂である。カズや武田は人気スターだから、報酬はトップクラスに違いない。
 優勝したのだから、見事な活躍で貢献した花形プレーヤーの報酬は、ますます高くなるのだろうか?
 観客動員もテレビの視聴率も、一時のブームは去って落ち着いてきたというのに、プレーヤーの報酬だけは上がり続けるのだろうか?
 それでクラブは、いやJリーグは、やっていけるんだろうか?
 こちらは経営者ではないけれども、いささか心配になってきた。
 さて翌日、スポーツ新聞を買い込んで、帰りの東北新幹線のなかで読んでいたら「武田移籍」という記事が目についた。武田修宏の「爆弾手記」まで載っていて「このままならヴェルディを離れて、グラウンドに立つチャンスをくれるチームに移った方がいい。本当にそう思っている」と書いてある。
 ヴェルディは、カズ、アルシンドとストライカーが過剰で、武田はすばらしい能力を持ちながら出場の機会が少なかった。だから他のチームに移りたい、というわけである。

☆選手の報酬の水準
 「常時出場したい」という武田の気持は本当だろうと思う。
 また、才能を活用するために移籍を活発に行なうことには大賛成である。もしヴェルディが、武田をベンチで飼い殺しにするのなら、武田の故郷の静岡のチームに譲るのがいいと思う。
 しかし武田が、ヴェルディのプレーヤーとして現在得ているだけの収入を、新しいチームで得ることが可能だろうか?
 Jリーグの各クラブの収支のバランスを想像すると、武田に突出した報酬を払うのは難しいんじゃないかと思う。
 ヴェルディの方は、高額プレーヤーを、たくさん抱えるのは苦しいから、武田を割愛することを選択肢のなかに入れるかもしれない。
 そういうふうにして、日本のプロのプレーヤーの報酬の水準も、やがては落ち着くべきところに落ち着くのだろうか?     
 天童市での講演で、ぼくは「この町にもプロのサッカーチームをもつスポーツクラブがあるといい」という話をした。
 天童の町は美しかった。遠くの山はうっすらと雪化粧し、近くの山は五色の紅葉に色どられていた。
 この町には山形国体の会場になった立派なスタジアムがある。ヨーロッパや南米なら、サッカーのプロチームがあっても、おかしくない町である。
 でも、いまの日本のプロ選手の給料の水準のままでは、財政的には、だいぶ難しそうである。 


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