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サッカーマガジン 1995年11月29日号

ビバ!サッカー

またも、ヴェルディはなぜ強いか

 「ヴェルディは、なぜ強い!」をテーマに書くのは何回目だろうか。Jリーグ3年目の二コスシリーズ。またも元読売のヴェルディの優勝らしい。しかもチャンピオンシップの相手は元日産のマリノス。日本リーグ時代の両雄の対決である。Jリーグの3年間はなんだったのか?

☆またも読売対日産!?
 「Jリーグの3年間は何だったのか?」と思うのは、ヴェルディの前身の読売クラブとマリノスの前身の日産が、Jリーグの前身の日本リーグで、優勝争いの常連だったからである。この二つがチャンピオンシップを争うのでは、日本リーグ当時と同じではないか?
  読売クラブも日産も、以前からプロ体制をとっていた。それで強かったチームが、プロ公認の時代になって、ますます強くなるのは不思議ではない。問題は「企業チーム」だった他のクラブである。
 たとえばジェフ。前身は古河電工である。Jリーグの川淵三郎チェアマンは元古河の社員選手である。 
 日本リーグが企業チームで構成されていたころ、古河電工は有力チームの一つだった。レッズの三菱、レイソルの日立もそうだった。三つとも本社が東京の丸の内にあったから「丸の内御三家」と呼ばれていた。 
 その御三家が、1980年代になってクラブ組織のチームに押されてきた。まず読売クラブが台頭し、日産が追い付き追い抜いた。この両チームは、その当時からプロ体制だった。 
 社員選手の企業チームではプロ体制のクラブに太刀打ちできない――企業チームのそういう「危機感」がバネになってJリーグが誕生したのだと、ぼくは思っている。 
 ところが、全チームがプロのクラブになった新体制でも旧企業チームは、ぱっとしない。相変わらず読売対日産では「Jリーグは何だったのか?」ということになる。

☆自由奔放な伝統!
 Jリーグは、日本のサッカーに大きな貢献をしたし、現在もしつつある。これは疑いない。「Jリーグの3年間は何だったのか?」という疑問は、旧企業チームについてだけのことである。
 旧企業チームも、いまはプロのクラブになったのだから、ヴェルディやマリノスと変わりはない。
 選手を採用するのに、入社試験を受けさせる必要はないし、外国人選手を入れることもできる。会社の厚生福利の一環ではないから、他のスポーツ部との予算のバランスにしばられることもない。ハンディキャップはなくなったはずである。
 にもかかわらず、ヴェルディ、マリノスを追い越せないのはなぜだろうか。
 ぼくの考えでは、企業チームだったころからの伝統が、足かせになっているんじゃないかと思う。
 つまり就業規則による社員の規則正しさが、いまでも、ふんい気としてチームをしばっているのではないか。
 マリノスとヴェルディでは、成り立ちに違いがあるが、ヴェルディを例にとると、ヴェルディは読売クラブとして26年前に創設されたときから自由奔放が伝統だった。
 自由奔放というと聞こえはいいが当時は「だらしがない」「お行儀が悪い」と非難されたものである。
 だらしがないのは困ったものだが、しかし、自由な雰囲気は選手たちの自主性を伸ばすのに役立った。選手たちは先輩と後輩の関係や社員としての規律にしばられずに、自分のサッカーを主張できた。

☆柱谷哲二の殊勲!
 かつての読売クラブのプレーヤーは、高校や大学のサッカー部の経歴がなく、子どものころからクラブでボールを蹴っていた者が多かった。
 いまのヴェルディのプレーヤーはそうではない。規律正しい高校、大学のサッカー部の出身者が多くなっている。それでも、ヴェルディにきてから、その良さがぐんぐん伸びている。これは、自由奔放の伝統が、規律の下に隠されていた良さを引き出しているのではないか。
 ニコスシリーズがヴェルディの独走態勢になりはじめたころ、つまり10月下旬から11月上旬ころの試合で、ヴェルディが相手の守備ラインの裏側をついて得点する場面が、なんども目に付いた。
 その中の一つに、11月4日に等々力で行なわれたエスパルスとの試合の前半2分の先取点がある。
 柱谷のあげたボールが、前へ出掛かったエスパルスの守備ラインの裏のスペースに落ち、武田が身をひるがえして、マークをかわしてすり抜けてゴールをあげた。
 ヴェルディのプレーヤーの、一人一人の判断力とテクニックの良さが、チームプレーに見事に結びついた場面だったが、とくに柱谷の戦術的読みの確かさが光っていた。
 柱谷哲二は、京都商、国士大、日産と規律正しいチームを経てきたプレーヤーである。もともとすばらしいベテランだが、ヴェルディヘきてまた、その良さを伸ばしている。
 ぼくは、二コスシリーズのMVPとして柱谷を誌上表彰することにしたい。


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