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サッカーマガジン 1995年11月1日号

ビバ!サッカー

女子高生にサッカーを!

 スポーツの秋。あちこちの学校で生徒たちが元気いっぱいに飛び回っている。そのなかで女子高校生が授業でサッカーをしているのを見た。生徒たちは、とっても楽しそうだった。高校の女子生徒たちにとって、サッカーは、非常にすてきなスポーツなんじやないか。

☆被災地の女子高生
 兵庫県加古川市にある大学のアパートに単身赴任で住んでいる。アパートの傍のグラウンドには、1月の阪神・淡路大震災で倒壊した須磨の女子高校が、プレハブの校舎を建てて移ってきている。暑いさなかをプレハブ校舎で過ごした女子高校生たちは、しのぎやすい秋を迎えて、ほっとしたところである。
 新学期から生徒たちは、体育の時間にサッカーをはじめた。これは面白い。いったい女子高校のサッカーの授業は、どういうふうにやるんだろうかと興味深く観察した。
 最初の時間は、グラウンダーのキックだった。40人あまりのクラスが二手に分かれて15メートルほどの間隔でパスをしている。それで40分ほどの授業が終わった。
 次の週は、インステップのパントキックだった。手に持ったボールを落とし、地面につく前に足の甲でけって、相手に渡す。そのけりあいで授業が終わった。
 その次の週は試合だった。グラウンドの大部分は仮設校舎が占めているから、体育に使えるスペースはきわめて狭い。ゴールもホッケー用くらいの小さいのを使っていた。
 狭い場所だけれど、人数は11人対11人である。サッカーは11人でやるものだと教えようとしているのだろうか。それとも生徒たちが、フィールドは狭くても、正規の人数で試合をしたがるのだろうか。
 理由は分からないけれども、狭いスペースで、芋の子を洗うように、ひしめきあいながら、ボールを追い掛けていた。

☆ゲームが面白い
 興味深かったのは、試合をやっているときの生徒たちのはしゃぎようである。
 ほとんどの生徒が満足にボールを扱えない。パスは、ほとんどつながらない。それでも、生徒たちは大喜びで、きゃあ、きゃあ叫びながら楽しんでいた。
 2チームが試合をしているとき、残りの生徒たちは観戦しているのだが、見ている生徒たちも、ため息をついたり大笑いしたりして興奮している。
 他のスポーツの授業のときは、こんなことはなかった。またキックの練習のときも、生徒たちはあまり楽しそうではなかった。しかし、試合になると芋の子サッカーをしながら夢中になっている。
 サッカーは、やっぱりゲームが面白い。男の子がやっても、女の子がやっても面白い。上手でも下手でも面白いと、改めて感心した。
 もう一つ、感心したことがある。
 初心者集団だからパスはつながらないのだが、ドリブルはけっこうやることである。
 チームのなかに2〜3人は、ちょっとスポーツ・センスのいい生徒がいる。多くの生徒は、ボールが来ると、すぐけり返そうとするが、センスのいい生徒は、ドリブルを試みようとする。狭いところに、芋の子のようになっているのだから、なかなか難しいのだが、切り返してかわそうとしたり、抜いて出ようとする。
 これは中学で、ちょっとでも、やったことがあるのか、あるいはテレビなどで見て、見よう見真似でやっているんじゃないかと思った。

☆楽しい授業を!
 思い起こせば1年前、ぼくは同じグラウンドで、女子短大生を相手に、やはりサッカーの授業をした。
 そのときは、地震の前だからグラウンドは、広びろと使えたのだが、そのどまんなかを20メートル×30メートルくらいに区切って、ホッケー用のゴールを使って試合をした。
 高校の授業は1回40分くらいのようだが、短大は90分授業だったから、たっぷり時間を使うことができた。
 まずビデオを見てからグラウンドに出て、基本のテクニックの練習をした。毎回、ちょっとフェイントを入れたドリブルをやってみた。インサイド・キックとインステップ・キックの基礎的な形も練習した。
 試合は、最初から毎回、必ずやった。というより試合をするのが授業の目的だった。「楽しくなければ授業でない」という考えだったから、試合で学生たちを、きゃっ、きゃっと言わせたわけである。
 試合は5人対5人ぐらいの少人数同士でした。試合時間は、せいぜい10分ハーフくらいにした。少人数の方が、全員がボールに触るチャンスが増える。少人数で、しょっちゅうボールが来ると休んでいる暇がないから、結構、疲れる。だから試合時間は短くして、入れ替わり立ち替わり交替した。
 高校生の授業よりも、ぼくのやった短大の授業の方が良かった、というつもりはない。それぞれ一長一短だろう。
 ともあれ、若い女性にとって、サッカーの授業が楽しいことは間違いない。


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