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サッカーマガジン 1995年10月11日号

ビバ!サッカー

ヴェルディ好調の秘密 

 Jリーグの後期、ニコス・シリーズは、ヴェルディが好スタートを切った。首位争いは激烈だし、この先、何が起きるかは分からないが、他のチームにも優秀なプレーヤーが入り、チーム力をあげてきている中で、ヴェルディの優位が、なかなか揺るがないのは、なぜだろうか。

☆チームのスタイル
 Jリーグ3年目のニコス・シリーズは、ぼくの予想どおりに展開している。つまり首位争いは激戦で、その中でもヴェルディが有力だろうと開幕前に書いたとおりである。
 ヴェルディは、前期のサントリー・シリーズでは出足でつまずいた。そのヴェルディが、後期はうまくいくだろうと思ったのは、チームのスタイルを取り戻しつつあったからである。どんなスタイルかは、試合を見てください、とも前に書いた。
 ヴェルディのスタイルのいいところの一つは、攻めでは、ひとりひとりのアイディアが、のびのびと生かされていることである。
 右サイドの石川康が攻め上がる。中盤から北沢が、ディフェンダーの間を通すスルーパスを、敵の守りの裏側のスペースに出す。そこへ武田が走りこむ。こういうチーム・プレーが、それぞれのプレーヤーの自由な発想の組合わせで生まれてくる。そこんところが生き生きとしていておもしろい。ひとりひとりのプレーヤーが、頭脳と身体を、それぞれリズムを合わせて働かせている。
 他のチームにも、同じようなプレーはある。しかし、多くのチームでは、アイディアを出すプレーヤーが決まっている。
 多くの場合は外国人プレーヤーである。特定の外国人プレーヤーの発想に合わせて、他のプレーヤーが走っている、いや走らされている。頭脳と身体が別である。
 ヴェルディは、みながそれぞれ頭を使うから、ラモスがいなくても、カズがいなくても、チームはリズムを作れる。そこがいい。

☆カズのプラス度は?
 三浦カズが、イタリアから戻ってきた。これもニコス・シリーズのヴェルディの新しい要素である。
 しかし、カズがいなくても、ヴェルディはスタイルを取り戻していた。これは、前期サントリー・シリーズの後半に復活ヴェルディが、すでに走り出していたことを思い出せば明らかである。
 それでは、復帰したカズは、どれほどのプラス・アルファになっているのだろうか。
 今シーズンのヴェルディは、中盤でダイレクト・パスを次つぎに回すことが多い。
 これはヴェルディの比較的新しいスタイルである。というのは、かつての読売クラブ時代のスタイルは、中盤では、じっくりとボールを持つところに特徴があったからである。ダイレクト・パスを使うのは、ゴール前の敵の密集をワンツーで突破するときだった。
 現在、中盤でダイレクト・パスを回す場面が多くなったのは、敵が中盤に人数を集中して、厳しくプレッシャーをかけて守ってくるからである。敵につぶされる前に、すばやく他の味方に渡して、プレッシャーをかわそうとするわけである。
 そういうなかで、カズの役割はちょっと違う。カズのいちばんの持ち味はドリブルにある。
 ダイレクト・パスの多い中で、敵の守りをかわしたあとに、すばらしいドリブルが出る。そうなれば効果的である。
 復帰したカズは、そういう場面でプラス・アルファになっている。

☆あらかじめ見る能力
 ダイレクト・パスをつなぐとき、まず重要なのは「あらかじめ見る」能力である。
 敵が中盤で激しくプレッシャーをかけて守ってきた場合、ボールが来てから味方を探す余裕はない。ボールが来る前に周囲の敵味方の配置を見ておき、次の展開を読んで、ボールが来たら、すばやく味方にパスしなければならない。パスを受ける方が、いい位置に出てやることも重要だが、パスを出す方は、いい位置に出てくれることを、あらかじめ予測しておかなければならない。
 ヴェルディのプレーヤーは、この「あらかじめ、すばやく見る」点で他のチームのプレーヤーより一歩進んでいる。
 このような個人の戦術能力を、ヴェルディでは若手のプレーヤーでも身につけている。広長も、長谷部も、戸倉も、菊池利三も、そういう点でちょっと進んでいる。これが、ヴェルディの若手が活躍している理由だと思う。
 かつてのヴェルディの若手は、クラブ育ちが売り物だったが、現在は、高校や大学のサッカー部で育って来たプレーヤーが多い。それでもクラブ育ちと同じように、チームのスタイルに、なじんでいる。他のチームにも高校出や大学出のすぐれた素材が入って活躍しているのだが、個人の戦術能力が伸びている点では、ヴェルディがいちばんである。
 よみうりランドの丘のうえに、アイディアを伸ばし、能力を伸ばす風が吹いているんじゃないかと思うが、どうだろう。


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