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サッカーマガジン 1995年10月4日号

ビバ!サッカー

Hリーグ結成の勧め

 Jリーグが大接戦で面白い。試合の内容も良くなってきた。プロ化による刺激効果は予想以上である。このJリーグ効果を、全国各地に及ぼすために、都道府県単位のリーグを活性化する方法はないだろうかと考えた。たとえば広島県でHリーグを作るのはどうだろうか?

☆広島アジア大会の遺産は?
 9月に入って広島県下をひとまわりする機会があった。東奔西走ならぬ西奔西走で忙しい、と言いたいところだが、実はサッカーのためではなく、勤めている大学のPRのための高校めぐりだった。
 それはともあれ、広島は前年の10月にアジア競技大会の報道サービスのお手伝いをして1カ月の間、お世話になった土地である。高校を回っている途中に、アジア大会の会場だった各地のスポーツ施設を見て、なつかしかった。
 案内をしながら車を運転してくれた地元の方が言う。
 「立派な体育館やプールができましたがのう。そのあと、どんなふうに使われているのやら」
 「でも広島市郊外のビッグ・アーチは、サンフレッチェの試合会場でよく使われてるでしょうが…」
 「まあ、サンフレッチェが使うてくれてるのは、いいが、交通の便が悪いけん、なかなか行かれん」 
 「でも、ほら、モノレールみたいな乗り物があるでしょう」 
 「アストラム・ラインか。あれは、あかんな。広島駅から出ないで町の中から出るけん、県外から来た人には乗り場所も分からん。それに終点はビッグ・アーチだから、サッカーの試合のある日はいいが、普通の日には利用者が少ない。この1年間で30億円の赤字という話じゃ」 
 「県知事は、アジア大会は大成功だと言っていたけれど…」 
 「とんでもない。大失敗ですよ」
 どうも広島アジア大会の遺産は、評判がよろしくないようだ。

☆イベントのための施設か?
 広島市の北の郊外にビッグ・アーチを中心とする広島広域運動公園がある。ここには陸上競技場兼用のスタジアムの他に球技専用のサッカー場がある。山陽新幹線沿いの尾道と福山にも立派なサッカー場がある。いずれも1年前のアジア大会の時に男子と女子のサッカー会場として使われた場所である。
 会場の付近には、新しい看板が飾られていた。
 「平成8年の広島国体を成功させよう」
 豪華な施設は国民体育大会のために保存してあるのだろうか?
 2度と開くことはないであろうアジア大会のためにスポーツ施設を作り、さらに、その施設を使うために国体を呼ぶ。県知事さんは「オリンピック開催を考えたい」とも言っていた。オリンピックは、大阪、横浜も招致運動をしていて、広島はとても無理だと思うが、大がかりな、その場限りのお祭りイベントを次つぎに計画するのは、自転車操業みたいな考えである。国体だって都道府県単位で開催されているのだから一つの県には、50年に1度しか回ってこないはずである。
 外国の例を考えてみた。
 サッカーのワールドカップは、いつも使っている施設を改修したものが、ほとんどである。新しく建設するのは、以前から使っていたものが老朽化したから建て直すケースである。1994年のアメリカでも、1990年のイタリアもそうだった。
 つまりワールドカップは、ふだんの活動の上に成り立っている。

☆県内リーグは出来ないか?
 広島、尾道、福山と瀬戸内海沿いを走り抜けながら考えた。
 この立派なサッカー場を毎週のリーグ戦で満員にできないだろうか?
 ヨーロッパのサッカー・スタジアムは、毎週土曜日あるいは日曜日ごとの国内リーグのためにある。
 日本の場合は、めったにない国際大会のためにスタジアムが出来て、地元の組織は考えられていない。
 広島のビッグ・アーチの場合は、サンフレッチェがあるからいい。しかし、尾道や福山はどうだろうか。尾道に尾道クラブがあり、福山に福山クラブがあって、広島県リーグ、いうなればHリーグの試合が毎週、地元で行なわれ、地元の市民が、それを楽しみにしてスタンドを埋めるようになればいいのだが、と考えた。
 諸外国の例を見ると、人口20万くらいの都市ならば、プロ選手を含むサッカー・クラブが成り立っている。
 そう考えてみると。尾道や福山にも1チームずつあってもいい。それで県リーグを組織できれば、ヨーロッパ並みになるんだが、と思った。
 地方のリーグが財政的に成り立つのかという疑問が出るだろう。
 いまのJリーグのような、選手契約をしていれば、地方のリーグはたちまち破産するに違いない。
 しかしヨーロッパの町のクラブのプレーヤーは、ほとんど、ほかにも仕事をもっているパートタイムのプロである。日本でも年功序列、終身雇用の労働形態が崩れつつあるようだから、パートタイムのプロによるHリーグが成り立つ可能性はあると思うが、どうだろうか。


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