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サッカーマガジン 1995年9月20日号

ビバ!サッカー

福岡ユニバーの日本代表

 福岡ユニバーシアード大会のサッカー日本代表は、なかなかのものだった。大学生の選抜チームが出場したのだが、若いプレーヤーたちの技術と戦術能力が、十分国際的に通用することを改めて確認できた。精神的にもタフで、闘争心を燃やしながらも、冷静だった。

☆準決勝ロシアとの激闘
 ユニバーシアードは、大学生の国際大会である。ただし、国によって学期の違いなどがあるので、前年の卒業生は出場できる。年齢は28歳未満、アマチュアに限られている。
 したがってプロにくらべれば、レベルは、やや劣るのだが、それでも福岡大会のベスト4の実力は、相当のものだった。
 その中でも一段格上と評判だったのはロシアである。スピードと激しい守りはプロ並みとの評判だった。
 日本は、そのロシアと準決勝で当たった。
 8月30日夜に博多の森球技場で行なわれた試合は、この大会でもっとも緊迫した、厳しいものだった。
 立ち上がりからロシアは激しく動いた。
 ボールを奪うと、中盤のプレーヤーが、こまねずみのように目まぐるしくポジションを変えながら、パスを受けるために動きまわった。そして鋭いスピードで前線へ飛び出し、スルーパスを受けて突破を狙った。
 日本がボールをとると、オオカミが獲物に飛び掛かるように激しく守った。スタンドからは、主審がファウルを取らないのはおかしいと思うほど、乱暴で汚い守りに見えた。
 日本の若い代表は。このロシアの鋭い動きにまどわされずに、しっかりと組織的に守った。また厳しいチャージにも冷静さを失わないで、ボールをコントロールして攻めを組み立てようとした。
 前半のシュート数は、ロシアが5本、日本は0だったが、内容的には互角だったと思う。

☆残り1分、劇的なゴール
 ハーフタイムに考えた。
 ロシアは、たしかに、いいチームである。スピードに乗ってボールを扱う技術も、攻めを組み立てる組織力もある。体格もいいし、体力もある。運動能力、とくに走るスピードと出足の鋭さは、いちばんである。
 しかし、日本のプレーヤーも技術と戦術能力では劣らない。
 体格はロシアのほうがいいし、走るスピードでもロシアが勝っているが、持久力や精神力は、地元の日本が有利だろう。
 いろいろな条件を総合して、実力は同じくらいだといっていい。
 後半の展開はどうだろうか。
 ポイントは、ロシアの運動量とスピードが続くかどうかである。
 長年のスポーツ記者としでの見聞からも、あるいはスポーツ科学の理論からいっても、激しく速い運動を90分間、同じように続けることはできないはずである。
 後半は、必ずロシアの動きが鈍るに違いない。日本が。それに付け込むチャンスが出てくるに違いない。
 予想どおりに後半は日本が次第にボールを支配して優勢になった。
 しかしロシアは、ゴール前の守りを頑張り、0対0のままPK戦に持ち込まれそうな形勢だった。
 日本の決勝ゴールは後半44分である。右のかなり手前のところから、山田卓也(桐蔭学園高出、駒沢大)が40メートルあまりの超ロングスローをニアのゴールポストの前まで投げ込み、びっくりしたディフェンダーとゴールキーパーがもたついたのを、望月重良(清水商高出、筑波大)が押し込んだ。

☆東アジア勢の決勝
 山田の超ロングスローは、日本ユニバー代表の秘密兵器だったのではないだろうか。
 ロシアの激しい守りを、流れのなかで、かわしながら攻めを組み立てるのは難しい。だから日本は、コーナーキックやフリーキックのようなセットプレーを活用してチャンスを作ることを考えて、練習していたに違いない。山田の身体能力の高さを生かしたロングスローも、その一つだったのだろう。
 この秘密兵器が、試合終了間際に出たのも良かった。もっと早い時間帯で日本が先取点をあげると、ロシアは、力づくの攻めをしてきたに違いない。体格と運動能力では、ロシアが上だから乱戦になると日本は不利である。
 ロシアは、自分たちの得意なスタイルにこだわって、スピードに乗せた複雑な動きで攻めを組み立ててきた。これが日本に有利に働いたのではないだろうか。なりふりかまわぬ大まかな攻めで来られたら、かえって苦しめられたかもしれない。
 それにしても、ロシアの厳しい守りと激しい攻めに、最後まで冷静に対処し、土壇場で秘密兵器にものをいわせた日本の若者たちの精神力は、たいしたものだと敬服した。
 もう一つの準決勝では、韓国がウクライナを3対1で破った。これも韓国が、テクニックでも組織力でも上だった。
 決勝戦は、ともに旧ソ連圏のチームを破った東アジア勢同士。少なくとも学生のレベルでは、アジアは世界のトップである。


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