アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1995年9月6日号

ビバ!サッカー

ユニバーの福岡にサッカーを

 東京にいる人は、日本全国サッカーで覆われているように思っているが実はそうでもない。ユニバーシアード大会の開かれている福岡で、サッカーは意外に人気がない。大きな国際大会を開くことのできる大都会なのだから、ぜひ国際的なサッカーの町にしてほしいものである。

☆ユニバーシアード
 いろいろな夏のイベントに続いてJリーグが再開され、サッカー列島は熱気にあふれているが、ぼくは九州の福岡に来て、冷房のきいた図書館に終日、閉じこもっている。
 といっても、柄にもなく勉強をはじめたわけではない。8月23日から9月4日まで開かれるユニバーシアード大会の手伝いを頼まれたからである。ユニバーシアードとは、大学スポーツの国際大会で、世界中から選手団と報道陣が来ている。いわば大学生のオリンピックである。
 福岡市の西側の新しく開発された海浜地域に、新しい立派な図書館が完成して、そこが臨時にユニバーシアード大会のプレスセンターになっている。ここで各国の新聞記者たちの便宜を図るのが、ぼくの仕事である。
 今回の福岡ユニバーシアードは、福岡市の主導で行なわれている。それがいいことかどうかは、一つの問題点ではある。
 大学スポーツの大会なんだから、全国の大学の関係者が一生懸命やるのが本当なんじゃないか、という気もする。大学のスポーツが、日本のように盛んな国は、あまりない。それだのに、大会の準備、運営は、お役所まかせとは情けない。
 ぼくは、もともとジャーナリストであり、いまは大学に勤めているのだから、お役所がちゃんと運営をしてくれるにしても、ボランティアとしてお手伝いをすべきだろうと思って、この夏は福岡の図書館、つまりユニバーシアードのプレスセンターで過ごすことにしたわけである。

☆広島アジア大会との違い
 同じような手伝いを前の年の9月−10月に広島のアジア競技大会でもやらせてもらったが、広島と福岡では感じがだいぶ違う。この原稿を書いているのは開幕直前で、まだ競技は始まっていない時点だが、ここまでのところは福岡の方が、うまくいっている感じである。
 その理由の一つは、組織の違いにある。広島は県庁が中心になってスタッフを寄せ集めていたが、福岡は主として市役所の人たちで固めている。
 どちらも、お役所だから、あらかじめ立派なマニュアルを作って、その通りにやろうとするのは同じだが、福岡の方は「寄せ集め」の度が少ないだけ、現実がマニュアルに合わなくなったときに融通がきく。
 しかし、もっと大きな理由は、地形の違いじゃないかと思った。
 広島は中国山脈と瀬戸内海にはさまれた狭い地域にある。競技場は山の方を切り開いて作っているので交通不便だった。いまでも、サンフレッチェの試合を見に行くのは、あまり便利でない。
 福岡の方は、ひろびろとした玄界灘に面し、博多湾に注ぐたくさんの川の流域の平野部である。したがって、市内に散在している競技場に行くのに、いろいろな道筋があり、駐車場もかなりある。
 新しく作られた博多の森のサッカー場は、ちょっと小高い山の上だが、空港にも地下鉄の駅にも近く、交通の便は悪くない。ここは、2万2000人収容で、大会のあとはJリーグをめざしている「福岡ブルックス」の本拠地になる。

☆サッカーは出遅れた
 しかし、ブルックスの前途は楽観を許さないようだ。タクシーに乗ったら運転手さんが「福岡では、サッカーは、まだまだ人気はないね。Jリーグのチームができるのは先の話だろうね」と話していた。
 Jリーグ発足のときに乗り遅れたので、静岡県藤枝市のブルックスを引き取って、いまJFLで頑張っているが、人ロ130万人の大都市で、自前のサッカー・チームを育てられないのは情けない。
 プレスセンターの近くに、開閉式の屋根を持つ福岡ドームがある。プロ野球のダイエー・ホークスの本拠地球場である。そういえば、プロ野球のホークスも、大阪の南海ホークスを引き取って持ってきたものである。福岡では自前のスポーツは育たないのだろうか。
  2002年のワールドカップ開催地にも、福岡は立候補しなかった。日本4位の商業都市でワールドカップに手を挙げなかったのも、解せない話である。
 「東京も入っていないぞ」というかもしれないが、東京は無茶苦茶な都市化が行なわれてしまって、とても来世紀に国際的な大イベントを開けるような状況じゃない。しかし、福岡はユニバーシアードの施設も運営も立派にやれる能力を持っている。この町で、ワールドカップをやらないのは、もったいない。
 そういうわけで、福岡のサッカーは出遅れている。
 ユニバーシアードが終わったら、その成果を活用して、この遅れを取り戻してほしいものである。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ