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サッカーマガジン 1995年8月23日号

ビバ!サッカー

少年大会改革論いろいろ

 夏は少年サッカーの季節。よみうりランドの全日本少年大会をはじめ、各地で、いろいろな大会やキャンプが開かれている。元気いっぱいの子どもたちを、すくすくと育てるために、どうしたらよいか。読者の皆さんとともに、何度でも考えてみることにしよう。

☆3つの問題点!
 全日本少年サッカー大会の今後について書いたら、友人たちや読者の皆さまから、いろいろな意見が寄せられた。友人どもの意見は、例によって独断と偏見によるユニークなものだが、読者のご意見は、ご自身の指導者としての経験、あるいはプレーヤーとしての思い出にもとづく、まっとうなものである。
 ユニークな、あるいは、まっとうな意見をご紹介する前に、簡単に問題点を、おさらいしておこう。
 第一の問題は、子どもたちに、7人制、あるいは5人制の少人数のサッカーを楽しんでもらおう、ということだった。これに関連して、全日本少年サッカー大会を7人制に切り換えるウワサを紹介したが、日本サッカー協会では、そういうことは考えていないそうだ。 
 第二の問題は、夏休みに東京のよみうりランドで開かれている全日本少年サッカー大会を廃止する動きである。これは実際に、関係者の間で真剣に議論されているらしい。この大会を応援している新聞社の友人は「これはライバルの新聞社の陰謀ではないのか」と、見当違いの憤慨をしていた。
 第三の問題は、この全日本少年大会を、都道府県のトレセンの全国大会に変えてしまう案である。この考えは、日本サッカー協会の強化委員会から出ている。トレセンとは、協会が選抜した優秀選手の集まりのことで、現在は、関東、関西などの地域選抜の大会を「トレセン」大会として開いているが、これを都道府県単位にしようというわけである。

☆トレセン大会は論外?
 「トレセンの全国大会にするなんて問題外だよ!」
 と、これは友人の独断的意見である。
 第一に、小学生のころから優秀な子どもを選抜して強化するのが、そもそも間違っている。子どもたちは、近所の子どもたちと楽しくサッカーで遊びながら育っていくものである。優秀な苗を選りすぐって、特別に肥料をやって大輪の花を咲かせるのは、朝顔や菊の花ならばともかく、人間を育てるには適当でない。
 第二に、百歩譲って人間の英才教育を認めるにしても、これは指導者が優秀であることを前提にしなくてはならない。いい苗を選ぶことができても、経験豊かな優秀な庭師でなければ、大輪の花を咲かせることはできない。いまのトレセンの地域担当コーチに、そんな練達の庭師はいないじゃないか。それを都道府県にまで拡大すれば、ますます、ひどくなるに決まっている。
 第三に、全日本少年サッカー大会は、もともと普及のために始めたもので強化が目的ではない。この大会のおかげで、全国各地で子どもたちのサッカーが盛んになり、その中から優秀な選手が出てきたのは事実だが、これは、結果として、そういう副産物が生まれたのであって、かりに優秀選手が出てこなくても、サッカーが普及すれば、それで十分である。
 にもかかわらず、普及の大会を廃止して強化の大会にするのは、金の卵を生んでくれたニワトリを殺すようなものだ。
 以上は、友人の考えである。

☆子どもの夢をこわすな!
 少年サッカーのチームを指導している方たちからは、次のような手紙をいただいた。 
 「目の前の勝負だけを考えて、子どもたちの将来を考えないコーチがいることは事実です。このような指導者は、5人制であっても、7人制であっても、あるいは地域大会であっても、全国大会であっても、勝つだけのために鍛えることをやめないでしょう。全日本少年サッカー大会を廃止しても、改組しても、事態は少しも変わらないでしょう。指導者に対して地道な啓蒙を続けることが先でしょう」
 少年のころに、よみうりランドの大会にあこがれて、サッカーに夢中になっていた、というOBからは、こんな手紙がきた。 
 「私たちの町では、優秀な小学生を集めて、いわゆる選抜FCを作っていました。それを単独チームの名目で登録して出場していました。このやり方は、選抜FCに入れなかった多くの少年たちから、夢を奪う結果になりました。いまでは、私たちの町では選抜FCをやめて、ふつうの単独チームで参加するようになっています。全日本少年大会をトレセンの大会にするのは、選抜FCの弊害を、各地に拡大するようなものです」
 日本サッカー協会のお偉方の皆さんは、こういう現場からの声に、すなおに耳を傾けてもらいたい。 
 そして、子どもたちが夢をふくらませて、楽しくサッカーに参加する機会を、もっともっと広げてやる方向で、ものを考えて欲しい。


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