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サッカーマガジン 1995年8月16日号

ビバ!サッカー

マリノス優勝と後期の展望

 サントリーシリーズは、マリノスがヴェルディの急追を抑えて優勝した。でも、後期のニコスシリーズは、そうはいかないだろう。マリノス復活を用意したソラーリ体制は崩壊し、早野監督の手腕の評価はこれからだからである。実力大接近だが、ヴェルディの独走では?

☆外からの突風
 Jリーグ後期のニコスシリーズも、早野宏史監督に勝たせてやりたいな――と、ちょっぴり思っている。マリノスが優勝したときの嬉し涙が印象的だったからである。
 そのうえ、ある新聞に「マリノスの最優秀選手はソラーリだ」と書いてあったので、ますますソラーリ監督を悪玉にして、早野監督を善玉にしたい気持になった。
 「最優秀選手はソラーリだ」というのは、マリノスを優勝させたのは、途中で退団したソラーリ前監督だ、という悪い冗談である。
 ソラーリが途中でやめたのは自分勝手じゃないか。大混乱になるところを引き受けて、ちゃんと後始末をした早野監督の功績を認めてやるべきじゃないか、という気がする。
 とはいえ――。
 「ソラーリ・マジック」といわれた前任者の大胆なチーム改革が、マリノス優勝の路線を敷いたことは間違いない。
 開幕ダッシュの原動力になったコンディショニングの成功、苦しい試合の流れをしばしば変えた大胆な作戦指揮、そして思い切った新人起用である。
 ソラーリ監督は、マリノスの路線を変えただけでなく、マンネリになりかけていたJリーグの他のチームにも、ゆさぶりをかけた。
 サッカーに限らず、何ごとでも、ときどき「外の風」を入れて室内の空気を変えなければならない、というのが、ぼくの持論だが、ソラーリ監督はあっという間に吹き抜けた「外からの突風」だった。

☆プロフェッショナリズム
 そういうわけで、後任の早野監督の評価は、後期のニコスシリーズまで待たなければならないだろう。 
 しかし、突風が巻きおこした大混乱を始末して、最後には優勝へ持ってきた功績はいまでも評価できると思う。内部事情を知っているわけではないが、あるいはレッズから移ったフロントの森孝慈氏の手腕と見識も役立ったのかもしれない。 
 いちばんショッキングだった事件は、ゴールキーパーの松永成立の移籍である。 
 日本代表の松永に代えて、高校を出て2年目の川口能活を起用した。これは、ソラーリ監督の大胆な新人起用の一つだった。日本的な「チームの和」よりも才能の活用を重要視するプロフェッショナリズムである。 
 ゴールキーパーは、たった一つしかないポジションだから、信頼しているプレーヤーを起用したら、めったなことでは変えないものである。だから変えられた松永は「おれを信頼できないのか」と怒ってソラーリ監督と対立した。松永が自己主張をしたのもプロフェッショナルらしい。 
 これを解決するのに、変な妥協をしないで、監督の権限を認めて松永はJFLの鳥栖フューチャーズに移籍した。Jリーグができて良かったことの一つは、移籍が活発になったことである。移籍はプロフェッショナルらしい解決策である。 
 松永が、Jリーグの外のJFLチームに移ったのも良かった。新天地は、いたるところにある。これこそ、サッカーらしいプロフェッショナリズムである。

☆ヴェルディの独走だ
 さて、Jリーグ後期のニコスシリーズは、どうなるか。
 「前期以上の大混戦」と、たいていの人が見ているだろう。
 ジェフがなかなかの頑張りを見せ、ベルマーレやジュビロは安定した力のついたことを証明し、レッズやグランパスが、ようやくレベルを上げはじめた。
 上昇ムードのチームが、後期はますます力を出してくるから、各チームの力は、ほとんど横一線だろう。だから大混戦である。
 「ヴェルディの独走だ」と、これは、ぼくの独断と偏見による予想である。
 サントリーシリーズの後半、あの奇跡の12連勝は、ヴェルディが他のチームにはない「何か」を持っていることを証明した。
 その「何か」はスーパースターのカズではなかった。カズはイタリアに行っていて留守だった。 
 「何か」はバックボーンのラモスでもなかった。ラモスは12連勝の間、ほとんどケガで不在だった。 
 この「何か」は、若い、新しいプレーヤーが起用されても変わらなかった。ペレイラが出場停止になっても日本人プレーヤーが、ちゃんと穴を埋めた。
 この「何か」はチームのスタイルにあると、ぼくは考えている。
 実力大接近になっているのに、12連勝もできたのは、実力をフルに活用できるプレーのスタイルを持っているからである。 
 どんなスタイルかって? それは試合を見てください。


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