Jリーグ入りをめざしているヴィッセル神戸が苦しんでいる。大スポンサーのはずだったダイエーが、阪神・淡路大震災の影響で赤字になったといって、サッカーから降りてしまったからである。これだから企業は頼りにならないといってしまえば、それまでだが……。
☆ヤクルトの快進撃
プロ野球では、ヤクルト・スワローズが快進撃のようである。このヤクルト球団は、かつて新聞社のスポーツ記者だったときに担当した思い出のチームだ。
この球団は、いちばん最初は国鉄の持ち物だった。若い読者のために解説すると、国鉄というのは「日本国有鉄道」で、いまのJRである。国鉄が地域別に分割、民営化されたのがJRだ。
スワローズという愛称は、その当時の鉄道で花形だった東海道線の特急列車「つばめ」を英語にして、とったものである。
国鉄は、たいへんな赤字を積み重ねていたので、球団を産経新聞社に売った。愛称も変更されて「サンケイ・アトムズ」になった。手塚治虫氏の名作漫画「鉄腕アトム」からもらった名前である。
しかし産経も、お金がかかり過ぎるというので乳飲料会社のヤクルトに経営権を譲って「ヤクルト・アトムズ」になった。
そのころ「アトムズ」の名称とマークをめぐって著作権を持つ手塚治虫氏の側とうまくいかなくなったことがある。それで愛称を変更しなければ、ならなくなった。
新しい愛称が何になるかが、当時のヤクルト球団担当記者の、ささやかな特種争いになった。
当時の球団代表が、神宮球場でにやにやしながら言った。
「ぼくには、いいアイディアがあるんだよ」
それが「スワローズ」の復活だった。
☆愛称とスポンサー
ヤクルト球団は、旧国鉄とは、もはや、なんの関係もない。特急「つばめ」は、もう新幹線の「ひかり」にとって代わられていた。にもかかわらず「スワローズ」の愛称が復活したのはなぜか。
それは、当時の球団代表が、もともと国鉄からついてきた人だったからである。
球団の経営者は変わり、オーナーも変わったが、野球の専門家である一部の役員は、そのまま、ついてきていたのである。
では、その役員の個人的思い出だけで「スワローズ」の名称が復活したのだろうか。
もちろん、そうではない。1人や2人の個人的な感傷で商品名を変えられるはずはない。
「スワローズ」の名前に思い出を持ち、愛着を持つファンが、全国にたくさんいたから、つばめは舞い戻ったのである。
ファンにとっては、経営者は誰だっていい。国鉄だろうが、JRだろうが、産経新聞社だろうが、飲料会社のヤクルトだろうが関係ない。
愛着があるのは、プレーヤーの集団であるチームである。ごひいきのプレーヤーは、年年歳歳、少しずつ入れ替わっていくが、ファンの思い出は連綿とつながっていく。
ころころと変わる経営者やスポンサーの会社名には、ファンは関心はない。むしろ、ニックネームの方にチームのアイデンティティーがある。
いまやスワローズに旧国鉄の「つばめ」を連想する人はいないだろうが、スワローズはいまもスワローズである。
☆原点からの再出発
前置きが長くなったけれど、ここで書きたかったのは実はヴィッセル神戸のことである。
ヴィッセル神戸は、Jリーグ入りをめざして、その下の組織であるJFLにいる。
ヴィッセルは、昨年までは岡山県倉敷市の川崎製鉄だった。それを神戸に移してJリーグ入りをめざすことにしたのだが、その時点で川崎製鉄は、事実上、手を引いている。
岡山のファンがヴィッセルに移ったかといえば、そんなことはない。スワローズとは、わけが違う。神戸が川崎製鉄サッカー部を引き取ったのは、単にJFLへの加盟権を引き継ぎたかったからである。
ヴィッセル神戸のメーン・スポンサーは「ダイエー」のはずだった。
ところが、1月の阪神・淡路大震災で大損害を蒙ったというので、ダイエーはサッカーからの撤退を宣言した。先日、株主総会があって、ヴィッセル神戸から資本も、役員も引き揚げ、社長交代となった。
そういうわけで、ヴィッセル神戸は、いま苦しんでいる。高い給料の選手はとれないし、外人補強も思うに任せない。
でも、それはそれで良かったのではないか、とぼくは思う。
「地域に根ざす」といいながら、実は他の地域のチームの名義を借り、大きな会社を頼りにしていた。
それがダメになったのなら、このさい原点に戻って、地域のクラブとして再出発してほしい。
ファンが愛するのは、チームであってスポンサーではない。スワローズであって、ヤクルトではない。
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