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サッカーマガジン 1995年6月21日号

ビバ!サッカー

日本代表と五輪代表

 時を同じくして日本代表チームが日本でキリンカップを戦い、オリンピック代表チームがタイでオリンピック予選を戦った。どちらも快勝で、久しぶりにファンは気持がすかっとしたに違いない。とくに若いオリンピック代表が暑い敵地で見事な試合をしたことを評価したい。

☆キリンカップの優勝
 キリンカップ最終戦の前に、国立競技場で前ヴェルディ監督の松木安太郎氏に、ばったり会った。 
 「きょうの日本代表は、期待できますよ。控え室をのぞいてきましたが気合いが入ってましたよ」 
 ヴェルディの監督をやっていたときは、ちょっと人相が恐くなっていたが、いまは人懐っこい笑顔が戻っている。 
 「ラモスが出られないけど大丈夫かな」 
 ラモスは1週間前の第1戦で、右足を痛めて退場した。当分、プレーは無理だという。 
 「大丈夫でしょう。ラモスがいなければいないなりに、かえってまとまりますよ」 
 現在もっとも信用できるテレビ解説者の言葉だから、ぼくは全面的に信用することにした。 
 試合が始まってみると、まったく松木氏の言うとおりだった。 
 日本代表は、はじめからエクアドルを押し続けた。動きもいいし、技術もいい。相手はラテンのチームで、個人のテクニックには自信がありそうだったが、日本のプレーヤーの方が、動きも判断もすばやい。3−0で快勝して、キリンカップを獲得した。 
 エクアドルは、コロンビアから招いたマツラナ監督がチーム作りを始めたばかりで、チームとしては未完成である。また、ベストメンバーではないらしい。その点は割引して、考えなければならないが、そうではあっても勝ちは勝ち。ラモス抜きでも皆が燃えていたのが良かった。

☆ヴェルディ・トリオ
 ラモス抜きの日本代表で、良かった点を、数えてみよう。 
 イタリアから戻って出場したカズが、元気にチームの中心になっていたのが、まず良かった。カズ自身は多少疲れていたようで、100%のプレーぶりではなかったが、仲間たちに温かく迎えられ、リーダーシップを発揮していた。日本を離れていたスターが、ぽっと戻ってきて、いきなり出場しても、ちゃんとチームワークが組めるのだから「日本のサッカーも、国際的になったな」と思う。
 次に目に付いたのは北沢だ。もともと元気いっぱいに動き回るのが身上だが、この試合ではカズをサポートして、いいパスを出していたところが良かった。カズが本調子なら、北沢のパスから突破してゴールを生む場面が見られたんじゃないかと思う。「ラモスがいないなら、いないなりにまとまる」という言葉が、北沢の活躍に表れていた。
 そして、守備ラインの柱谷。敵が突破してきそうになるのを、早め早めに飛び出して、果敢につぶしていた。この張り切りぶりも良かった。 
 目についた3人が、もともとヴェルディのプレーヤーだから「このトリオが軸になってやればヴェルディも立ち直るのに」と思ったりしたのだが、それはともかく…。
 これで日本代表の前途は万万歳かといえば、そうはいかないだろう。 
 ヨーロッパのプロやアジアのトップクラスとの真剣勝負になれば、敵は、そう楽々とはプレーさせてくれないからである。

☆若いチームに希望が!
 キリンカップと同じ時期に、オリンピックのアジア1次予選第1ラウンドが、タイ国で行なわれた。地元のタイとの試合をテレビで見て、キリンカップの日本代表以上に、若い五輪代表の試合ぶりに感心した。 
 感心した点が三つある。 
 第一に、敵地に乗り込んで暑さのなかで戦いながら、そのハンディキャップを、まったく感じさせない動きの良さを見せていたことである。スポーツ科学の成果を生かしたコンディショニングが、実を結んできたのではないかと思った。この点は、サッカーに限らず、日本のスポーツ全体が進歩してきたようである。 
 第二に、攻撃で前園と城がみごとなテクニックとすばやさを発揮して得点したことである。 
 テレビだから、前線にいる2人が大写しになって目立っていたが、実際には他のプレーヤーも大いに活躍していたに違いない。運動能力とセンスとテクニックが3拍子揃って、のびのびと発揮している。こういう若者が次々に出てくるようになったのは、少年サッカー普及の成果だと思う。 
 第三に、組織的な守りを最後までしっかりやったことに感心した。よく頑張った、体力があったということだけではない。チームとして、よく組織され、訓練されていた。プレーヤー一人一人の戦術理解力もたいしたものだし、なによりもコーチ陣の功績だろう。 
 この五輪代表が伸びてきて、日本代表に加わるようになれば、少なくともアジアでは、十分期待できるだろうと希望がふくらんできた。


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