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サッカーマガジン 1995年6月14日号

ビバ!サッカー

キリンカップとラモスの今後

 キリンカップは、日本代表の船長の加茂周監督が、どういう方向に船を進めようとしているかを見る機会のはずだった。残念なことに、広島の第1戦で、加茂監督が中心に据えていたラモスが、けがで退場して最終戦に出られなくなり、本当のところは分からないままで終わった。

☆燃えつきるまで!
 キリンカップの第1戦の後半、ラモスが足を引きずり、肩を抱えられて退場するのを見て「ああ、ラモスは終わった!」と感じた人も多かったのではないか。ラモスは、ヴェルディと日本代表チームの中心プレーヤーではあるが、ここ数年、ずっとケガが多い。もう、これ以上、日本代表を続けるのは無理だと思った。
 あの場面をみて、ラモスからもらった年賀状に「燃えつきるまで」と書いてあったのを思い出した。年齢やケガを乗り越えて、気力の燃えつきるまでプレーを続けようという決意だろうと思う。しかし気持が燃えていても、体力の衰えは、人間である以上、逃れることはできない。体のあちこちが、少しずつ衰えてきているときに、気持だけ燃え立ってプレーすると、無理がひびいてケガが多くなる。「燃えつきるまで」というのは、多くの場合、決意ではあっても現実ではない。
 ラモスが、これ以上、日本代表チームの中心であるのは無理だし、望ましくない。ラモスの引退の時期は近い。引きぎわ美しく去ってほしいと思った。
 しかし、ヴェルディでは、ラモスは「燃えつきるまで」やってほしいし、また、やらせてやってほしい。 
 ラモスは、ヴェルディの母体である読売クラブで育ち、読売クラブを日本の頂点に押し上げた男である。ヴェルディでも、だんだん出番が少なくなって、最後には「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という形になるかもしれないが、ヴェルディではそれでもいいと思う。

☆加茂監督の意図は? 
 加茂周監督が、なぜラモスを新しい日本代表に復帰させたのか。 これは就任当初から不思議だった。 
 いろいろ説明はある。 
 @代表チームは、その時点、その時点で最善のメンバーを組むべきものである。現在の日本では、ラモスを中心に据えたメンバーがベストである。   
 A日本代表チームの国際試合には入場料を払って、お客さんが来る。将来のためだからといって若手を起用し、さまにならない試合をするのでは、お客さんに申し訳ないし、相手のチームには失礼である。
 B日本代表チームの目標は、2年後のワールドカップ予選だから、あわてる必要はない。その時のメンバーには、オリンピック・チームなどから若手が加わるので、いまのところは、手持ちのベストメンバーで、いろいろな試みをすればいい。
 Cラモスのプレーのスタイルは、将来の日本代表チームにとっても必要だ。だから、ラモスを代表チームに加えて、いまのうちに他のプレーヤーに見習わせる必要がある。
 D加茂監督のラモスに対する友情だ。あのドーハの悲劇のまま、ラモスを終わらせたくないと、ラモスに最後の花道を用意したのだ。
 などである。 
 どの考え方にも、もっともなところもあるし、おかしなところもあるだろう。 
 ぼく自身は、ラモス復帰には首を傾げていた。加茂監督は、過去を忘れて、まったく新しくチームを構想すべきだと考えていた。

☆ラモスの花道は?
 「実はラモスの引退試合を考えているらしいよ」 
 こんな情報も耳に入ってきた。 
 8月9日に日本代表とブラジル代表の国際親善試合がある。これをラモスの日本代表チーム最後の試合にしようという考えがあったらしい。 
 「引退試合」と銘打つには、いろいろ支障があるだろうが「ラモス最後の日の丸です」とうたえば、お客さんも集まるし、テレビの視聴率も期待できる。いかにもありそうな話である。 
 そういうことになれば、加茂監督のラモス起用は、結果的には「ラモスの花道を作った友情」ということになるかもしれない。 
 ラモスは、ブラジル生まれだが、向こうでプロのスターだったわけではない。若いときに日本へ来て、ブラジル人としての素質が日本で花を咲かせたプレーヤーである。 
 少年のころ、ペレやリベリーノはあこがれのスーパースターで、はるかに遠い存在だった。 
 ところが、日本で、ぐんぐん力を伸ばし、日本を代表する選手になった。そして親善試合などで、ペレやリベリーノと、いっしょにプレーする機会も得た。若いラモスが、そういう機会に子どものように胸を躍らせて、一生懸命になっていたのを記憶している。 
 そういうわけだから、ブラジル代表との試合が、ラモスの花道になるのだったら、それも、すばらしいと思う。 
 ただし、ラモスを日本代表に復帰させた加茂監督の決定が妥当だったかどうかは、また別の問題である。


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