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サッカーマガジン 1995年5月24日号

ビバ!サッカー

ユースの健闘を評価する

 カタールで開かれたワールドユース・サッカーで、Jリーグの若手を中心に構成された日本がベスト8に入り、準々決勝ではブラジルから先取点を奪う健闘をみせた。これは、日本のサッカーが、世界のレベルに進出するための最初の足掛かりになるのではないだろうか。

☆加藤久さんからの電話
 「早稲田大学の加藤先生から、お電話です」
 兵庫県加古川市のキャンパスにある研究室にいたら、こんな連絡があった。
 「はて、早稲田の先生の知り合いに加藤先生なんていたっけ」
 と思ったら、なんと、今をときめく日本サッカー協会の強化委員長、日本サッカー史上、最高のディフェンダーだった加藤久さんである。
 考えてみれば、ぼくは加藤久さんが生まれたころからサッカー・ジャーナリストをしているので、サッカー界での経歴は古いが、大学の先生としては、向こうの方が、ずっと先輩である。
 カタールで行なわれたユースの世界選手権から帰ってきたところだというので、電話の用件は別の話だったのだが、さっそく取材を試みた。
 「昔の日本と比べるからかも知れませんが、日本の若い選手はうまくなったと思いますねえ」
 強化委員長の感想は意外に甘かった。
 たぶん、加藤委員長が「むかし」というのは、せいぜい10年か、15年前のことだろう。もちろん、この間に日本のサッカーは、かなりレベルアップしている。
 ぼくが「むかし」と思うのは、さらに古く40年前である。そのころ、日本のチームは、代表でもユースでも、アジアの大会に出て1試合も勝てない状況だった。
 それに比べると、ユースが世界の舞台に出て、ベスト8に進出するなんて夢のようである。

☆いまとむかしの違い
 「アジアのチームにくらべて、断然すぐれているというほどではありませんが、10回試合して5回は勝てるというところですかね。ワールドカップで上位に出てくる国のユースには、まだまだ差がありますが、それでも一発勝負なら、なんとか戦える可能性はあると思いますね」
 突然の電話での話だから正確にメモを取ったわけではないが、だいたい、こんなことだったと思う。
 ぼくは現地に行ったわけではないが、同じような感想を持っていた。
 日本のユースは、ベスト8に進出したとはいえ、試合の成績は、それほどびっくりするほどのものではなかった。予選リーグでも、チリに引き分け、アフリカのブルンジに1勝しただけである。ただ、試合の内容は、どれも良かったようである。
 準々決勝でブラジルに敗れた試合は、テレビのニュースで断片的な映像を見たが、世界最高のサッカーの国のチームに、元気良く対等に戦っている様子がうかがわれた。
 ぼくが、いちばん感心しているのは、若いプレーヤーが、どんな時でも、どんな場所でも力を発揮できることである。
 今回のワールドユースは、開催地や開催時期が、ころころ変わって、チームは、必ずしも万全の準備をして出場できたわけではない。
 それでも、ちゃんと戦うことができたのは、ひとりひとりが、身についた技術と戦術能力を持っているからである。
 そこが日本のユースの「いま」と「むかし」の大きな違いだと思う。

☆守りの対応はまだまだ
 「その通りだと思いますね」
 電話の向こう側でも、ぼくの意見に賛意を表してくれた。
 「ただね。世界のトップクラスに比べると、個人の力に差がありますね。1対1の強さでも、自分がボールを持って、自分から仕掛けて攻めるときは、敵をタジタジとさせることができるんですが、守りの場面で、向こうから仕掛けられたときの対応は、ブラジルの若者たちとは、だいぶ差があります」
 1対1の守りの場面では、敵がボールを動かすのに、こちらがついていかなくてはならない。 
 そのためには、敵の動作に、すばやく反応する動きと判断のすばやさが必要である。 
 また、抜かれそうな場合、追いすがって厳しくチェックし、適切なところで勝負に出る強さと勇気が必要である。 
 プレーヤーだったころに、加藤久さんは、1対1にすばやく、カバーリングに強く、判断が的確で勇気のあるディフェンダーだった。だからそういう点で現在の若いプレーヤーに不満を感じたのだろう。 
 肉体的なすばやさにしろ、判断力の的確さにしろ、精神的な強さにしろ、かなり先天的な資質がものをいう。
 肉体的なすばやさの点で、日本人に素質のいい素材が少ないことは、他のスポーツの例をみても推測はできる。
 とはいえ、ぼくは悲観はしていない。日本でも、いいディフェンダーが育つはずである。加藤久の前例が希望をもたせてくれるではないか。


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