香港で開かれた2月のダイナスティ・カップで日本が優勝した。「PK戦だったけど結果を出せたのは良かった」「若手が活躍したのは収穫だ」「ロスタイムになると、点をとられるのはどういうわけだ」「相手は22歳未満の若手だのに、あれじゃあ」など評価はさまざまだが……。
☆結果は出せたか?
加茂周監督の率いる日本代表チームの、本当のスタートは、ダイナスティ・カップだと思っていた。
1月のリヤドのインターコンチネンタル選手権は、相手がヨーロッパと南米の強豪だから「優勝を狙う」とは、ちょっと言いにくい。
そうかといって、公式の国際大会だから、結果を度外視して、新チームのテストをするわけにもいかない。
ある程度は、みっともない試合にならないような編成にして、そのなかで今後のチーム作りの可能性を探っていくほかはないだろうと、加茂周監督の胸の内を想像していた。
2月のダイナスティ・カップは、事情が違う。
相手は東アジアの中国と韓国だ。これから、ワールドカップ予選などでライバルになる国である。ここで勝っておけば、今後の対戦で心理的に優位に立てるだろう。だから結果が、たいせつである。
一方、ワールドカップ予選ほど重大なタイトルではないから、若手を思い切ってテストしてみることもできる。いまの日本の若手なら、アジアのなかでは十分、勝負になる試合ができるだろう。したがって、戦いの内容も重要である。
結果はどうだったか。
優勝カップは持ち帰った。
しかし、韓国との決勝戦は2−2の引き分けで、PK戦だった。
PK戦は「勝負」のうちに入らないと、ぼくは思っている。
だから、ダイナスティ・カップの結果については「負けるよりは良かった」と思う程度である。
☆魔の7分間の内容は?
いちばんの問題点は、2月26日に香港スタジアムで行なわれた決勝戦で、日本代表が試合終了間近に勝ち越し点をあげながら、それを守り切れなかったことである。
勝ち越し点は後半41分だったが、主審がロスタイムを3分とったので残り時間は、およそ7分間あった。
韓国が同点ゴールをあげたのは、ロスタイムに入ってからで、後半47分過ぎである。そのあとのキックオフ直後に後半終了のホイッスルが鳴ったので、本当に間ぎわの間ぎわに、勝利を逃したのだった。
勝ち越し点からの7分間に、テレビ中継で見たところでは、韓国の攻め込みが5度あり、その5度目が同点ゴールになった。
その間に、日本の攻め込みは1度だけだった。
前後半を通じて、また延長戦でも、日本の方が、韓国より多くボールを支配しているように見えた。攻めのいい形も多かった。それだのに、あとわずかなところで、しかもリードしたあとに、敵に一方的な攻めを許すのは、なぜだろうか?
韓国は、リードされたあと、縦に長いパスを放りこんで攻めてきた。もともと、そういう単純な攻めをしていたのだが。残り時間が少なくなったから、中盤で組み立てる手間暇をかけられなくなり、いっそう、いちかばちかの攻めを多くしてきたのである。
これに対して、日本は一生懸命に守った。一生懸命すぎて、自分たちのリズ厶を忘れていた。
☆リーダーが必要だ!
ワールドカップ予選の「ドーハの悲劇」をはじめ、同じような場面を日本代表の試合で、何度も見てきたような気がするが、どうだろうか。
つまり、試合終了間ぎわに、リードしていながら、リズムを失って追い付かれるケースである。
「スタミナ不足だよ」
これが、友人の、もっとも単純な答えだ。
「ここは、もうファイティング・スピリットしかありませんね」
アナウンサーが、いうと「そう、そう」と解説者がうなずいていた。香港に行けなかったぼくとしては、テレビ中継には感謝しているが、この程度の解説は、ない方がいい。
体力も闘志も必要だけれど、この場合の決定的要因は別にある。
それは、敵のがむしゃらな攻撃にあわてない落ち着きと、状況によってプレーのやり方を変えられる高度な戦術能力である。
ダイナスティ・カップ決勝戦後半最後の魔の7分間に、日本のプレーヤーは、どうしていたか?
中盤でのヘディングを相手に拾われ、あわててパスして相手にとられ、スローインを相手に渡していた。せっかく余裕を持ってボールをキープしながら、ゴール前へ急いで、センタリングを放りこんでいた。
「中盤にリーダーが必要だ」
と、ぼくは思う。
落ち着いて、プレーのリズムを変える能力は、すべてのプレーヤーに必要である。しかし、中盤にリーダーがいれば、チーム全体のムードを変えることができただろう。
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