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サッカーマガジン 1995年2月1日号

ビバ!サッカー

市立船橋の勝因は?

 正月の高校サッカーは市立船橋の初優勝だった。体力的な資質に恵まれた選手をそろえ、スピードにものをいわせながらも、テクニックがしっかりしていた。準決勝の奈良育英戦では、コーナーキックから3点をあげて完勝、決勝戦は帝京に5−0。実力差以上に勢いに乗っていた。 

☆速さのなかの技術
 「いまの高校の選手は、いろいろなことができるねえ」
 雲一つない好天に恵まれた国立競技場の記者席で、かつて日立(いまのレイソル)の名監督だった高橋英辰さんが感心していた。
 「いや、まったく」
 大先輩の高橋さんはもちろん、ぼくの年齢でも、比較する対象は、20年前、30年前の高校サッカーだから、いまの高校生のボール・コントロールの正確なことや、テクニックの多彩なことには、見るたびに感心する。
 「近ごろの若い者」のテクニックは、間違いなく進歩している。
 だが、高校サッカーの決勝戦を見ながら、高橋さんが、もらした言葉には、それ以上の意味があったのではないかと思う。
 というのは、優勝した市立船橋は10年前、20年前の高校サッカーに、よくあったタイプの、堅い守りと逆襲速攻のスピードに特徴のあるチームでありながら、テクニックが、しっかりしていたからである。速さのなかでテクニックを生かせるところが10年前、20年前とは違っていた。そこのところに、感心した。
 相手の帝京は、読みのいい、組織的な守りのできるチームだった。1人1人のテクニックや出足の判断力も、すぐれていた。
 もし市立船橋が、スピードや力だけに頼ってボール扱いが粗雑だったら、勝敗は逆になったに違いない。ボールを足元で止められなかったり、鋭い寄せをかわせなかったら、逆襲速攻の芽を、ことごとく摘み取られていただろうからである。 

☆科学的トレーニング
 テクニックも、なかなかだったとはいえ、市立船橋の特徴が体力的な良さにあったことは確かである。
 まず、体力的にいい資質のプレーヤーが集まっていたのではないだろうか。
 決勝戦でハットトリックを演じて得点王になった森崎嘉之について、布啓一郎監督は「彼は、特別にいい筋肉をしてるんですよ」と話していた。ヘディングのジャンプ力やシュートの鋭さ、ダッシュの速さなどは「いい筋肉」のおかげである。
 これは「筋力トレーニングをして脚の筋繊維が太く鍛えられている」という意味ではないらしい。「生れつき筋肉の質がいい」ということのようだった。
 筋肉を構成している筋繊維には、おおまかにいうと、速く収縮するが疲れやすい速筋(白筋)と、収縮は遅いが長持ちする遅筋(赤筋)があって、その割合は、主として生れ付きによるといわれている。
 森崎の場合は、速筋の割合が比較的多いのではないかと想像した。ダッシュやジャンプでは、速筋がものをいうからである。
 しかし、素質があっても、いいトレーニングをしなければ、サッカーに向いた体力作りはできない。毎試合80分以上のトーナメント戦を戦いぬくには、瞬間的な速さだけでなく持久力も必要である。
 そのバランスをとり、特徴を生かして体力作りをするには、科学的に考え抜かれたトレーニングが必要である。市立船橋は、その点でも成功していたのでは、ないだろうか。 

☆勢いに乗せたCK
 テクニックがあり、体力的に恵まれた資質をもち、コンディショニングに成功していた。それが市立船橋のいい点だったと思うが、優勝できた理由は、それだけではない。勝ち抜きのトーナメントに勝つには、運に恵まれ、勢いに乗ることが必要である。
 帝京が有力校とつぎつぎに当たって苦戦を続けたのに比べると、市立船橋は、くじ運に恵まれた。準決勝では、清水商と当たる可能性があったが、三冠を期待された清水商は初戦で奈良育英に敗れた。
 準決勝の奈良育英との対戦も3−0の完勝。これで、ますます勢いに乗った。
 その勢いを加速させたのが、コーナーキックの成功だった。準決勝の3点は、みなコーナーキックから。決勝戦前半30分の先取点もコーナーキックからだった。
 準決勝のコーナーキックでは、遠い側のゴールポストの向こう側へあげていた。奈良育英のゴールキーパーが好守で評判の楢崎正剛だったので、直接捕球されないように、逆サイドを狙ったのである。
 決勝戦では逆に近い側のゴールポストの前をついて成功した。これは布監督の試合前の指示通りだったらしい。         
 「前の日にファーポストで成功したので、帝京は遠い方は警戒してくるだろう。かえってニアの方が空くんじゃないか」とミーティングで話しておいたという。
 布監督も就任12年目で「選手権の勝ち方」を覚えたようである。


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