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サッカーマガジン 1995年1月25日号

ビバ!サッカー

天皇杯の示した問題点

 今回の天皇杯は、考えさせられる問題をいくつも抱えていた。Jリーグ昇格1年目のベルマーレが優勝、全国リーグの2部にあたるJFLのセレッソが決勝に進出した。ヴェルディなどのJリーグ勢は天皇杯を軽視しているのか、それとも、もともと力に差がないのか?

☆カップ戦の面白さ!
 かなたに、ちぎれ雲が二つ三つ浮かんでいたが、国立競技場の上空は真っ青だった。元日の天皇杯決勝は今回も暖かい天候に恵まれた。 
 「日和りはいいが、いいカードには、ならなかったね」
 こんなことをいう友人がいたが、ぼくは、そうは思わない。
 神奈川県平塚のベルマーレと大阪のセレッソの東西対決である。強いチームが首都圏に集中しないで、地方から進出してきたのは結構だ。 
 全国リーグの1部であるJリーグと、2部にあたるJFLが当たったのもいい。カップ戦は、下位のランクのチームが上位のランクのチームに挑戦するチャンスである。1、2部対決は、カップ戦の面白さではないか。2部のセレッソが、ヴェルディ、レッズ、マリノスとJリーグ勢を連破したことに敬意を表したい。 
 ただし、決勝戦の試合内容は、ちょっと、もの足りなかった。 
 前半、セレッソは守りを厚く固め30分すぎから攻めに出た。ベルマーレが攻め疲れたころに反撃に出る狙いだったのだろう。 
 前半は0対0。
 「これで後半も20分ぐらいまで持ちこたえれば、セレッソにチャンスが出て面白くなるな」 
 と記者席で友人と話していたのだが、後半2分に、セレッソはあっけなく先取点を許してしまった。 
 もし、ぼくの希望どおりに後半の半ば過ぎまで、慎重に試合をしてくれたら、守備的な試合ではあっても緊迫感が盛り上がって、決勝戦らしいゲームになっただろう。

☆JとJFLの差?
 後半2分の1点目は、ハーフライン付近で、セレッソが横へ横へとドリブルとパスをつないでいるところを、ベルマーレの名良橋が狙ってインターセプトし、一気に速攻につないだものである。なんでもない横パスを狙われたのは、セレッソの気の緩みだった。
 慎重でなければならない時間帯に緩みが出たのは、厳しい試合の経験が足りなかったためだろう。そこのところに、JリーグとJFLの差が出たのかもしれない。
 その僅かな緩みをついたベルマーレの攻めは、鮮やかだった。
 インターセプトした名良橋は、セレッソのプレーヤーが、横ヘドリブルしてタッチラインの方へ向かったときに、相手の左サイドバックが進出してパスを受けることを予想して、マークしていた相手を離してサイドへ出た。そしてパスが渡った瞬間にボールを横取りした。
 そのまま名良橋がドリブルで攻め上がり、アウミールから野口へと逆襲速攻がつながる。名良橋の狙いの良さと、呼応したチームの「守から攻」への切り替えの速さが、ものをいったゴールだった。Jリーグで1シーズンもまれた経験が、機敏な守りと攻めに生きたのではないか。
 後半41分の2点目は、リードされているセレッソの総攻撃の裏側をベルマーレがついたもので、勝負の分かれ目は1点目にあった。
 見どころが、この1点だけで、しかも、セレッソのパスの緩みが起点だったので、決勝戦にしては物足りない内容だと思ったわけである。

☆この2年間の意味は?
 「このJリーグの2年間は何だったのかね」と友人が嘆いた。
 プロになって飛躍的にレベルがあがると期待していたのに、2部からあがって1年目のベルマーレがカップをとり、2部のセレッソがヴェルディをはじめとするJリーグの強豪を連破した。
 1回戦では、アントラーズとエスパルスとジュビロがJリーグ外のチームの前に枕を並べた。
 「プロが、ころころ負けるとは情けない」というわけである。
 ぼくの考えでは、これはJリーグへの買い被りである。
 第一に、プロと名が付けば、たちまち巧くなるなんてことがあるはずがない。Jリーグのレベルが上がったように見えるのは、主として外人選手と外人コーチのおかげである。 
 第二にJFLのチームも、すでに多くはプロであって、外人選手や外人コーチを加えている。それに、ベルマーレは元フジタ、セレッソは元ヤンマーで、本来Jリーグに最初から入っているべきチームだった。フロントの人たちは日本リーグの時代からの経験を持っている。
 ただ、Jリーグの過密日程に災いされて、ヴェルディなどのプレーヤーは、意識はしていなくても、天皇杯のときには、気持が燃え尽きてしまっていたことは十分考えられる。これが、もっとも大きな問題点だろうと思う。
 天皇杯を本当に内容のあるものにするために、年間スケジュール全体を見直してみる必要があるのではないだろうか。


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