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サッカーマガジン 1995年2月8日号

ビバ!サッカー

ごちゃまぜサッカー

 チーム競技であって、しかも個人競技である。ひとりひとりのテクニックと意欲を育てながら、協力してチームプレーを組む能力を養う。そんな試合のやり方がある。名付けて「ごちゃまぜサッカー」。話を聞いて、実際に試みてみたら、なかなか面白い。 

☆むさしのFCの実験
 先だっての成人の日に、いや正確に言えば1995年1月15日に、東京都武蔵野市の市営競技場で「ごちゃまぜサッカー少年大会」が開かれた。
 なぜ月日と場所を書き記すかといえば、日本サッカー史上初の画期的試みなので、しっかり記録して歴史に留めるためである。主催者は、ぼくの仲間が組織している「むさしのフットボールクラブ」である。
 「ごちゃまぜサッカー」なんて聞いたことがない? そりゃそうだろう。このネーミングは、むさしのFCのコーチ陣の頭脳から生まれた実用新案だ。
 まず、やり方を説明しよう。
 武蔵野の大会では80人の少年たちを集めた。
 小さなフィールド5面を同時に使い、4人対4人の試合をする。 つまり、同時に40人がプレーするわけである。その間、残りの40人は休んでいる。ゴールキーパーなし、オフサイドなしのミニ・サッカーである。
 1試合15分。午前と午後に3試合ずつ、計6試合を全員が行なった。
 ユニークな点が二つある。
 一つは、試合ごとにメンバーを、ごちゃまぜに組み替えることである。毎試合、チームのメンバーが変わるから「昨日の敵は今日の友」というケースが、試合ごとに起きる。
 もう一つは、個人ポイント制である。勝ったチームのプレーヤーには、ひとり10点ずつ、引き分けたチームのプレーヤーには、ひとり5点ずつを与える。それを試合ごとに足していって、それぞれ自分のポイントにする仕組である。 

☆個人ポイント制
 「むさしのFC」の大会では、ゴール数によるポイントも加えた。
 試合ごとに、自分のチームのゴール数を、全員が自分のポイントに加える。またゴールをあげたプレーヤーは、そのゴール数を、さらに自分のポイントに加える。
 たとえば、赤チームと白チームが試合をして、赤が3対1で勝ったとしよう。赤の4人は全員がそれぞれ勝ち点10とゴール点3をもらえる。合計ひとり13ポイントである。 
 3ゴールのうち、山田くんが2ゴールをあげたとすると、山田くんは、さらに個人ゴール点2を加えて計15ポイントになる。他の1ゴールをあげた小川くんは、個人ゴール点1を加えて計14ポイントになる。 
 負けた白チームは勝ち点はない。しかし1ゴールあげているので4人全員が、それぞれ1ポイントをもらう。1ゴールをあげた野本くんは計2ポイントをもらう。 
 こういう個人ポイントを試合ごとに積み上げていって、最後に個人の順位を決めることができる。 
 サッカーはチームスポーツで、みんなが協力して勝利をめざす。 そこに良さがあるのだが、弱いチームにいると負けてばかりで面白くない。 
 しかし「ごちゃまぜサッカー」では、試合ごとにメンバーを組み替えるので、上手な少年と組んだときに勝つチャンスがあるし、自分のポイントも増える。上手な少年は、自分が頑張れば、チーム全員の役に立つし、自分のポイントも増える。 
 つまり、チームスポーツと個人スポーツの良さを両方もっている。 

☆個性と協調性を伸ばす!
 「ごちゃまぜサッカー」では全員がレギュラーである。へたな子はいつもベンチで応援するだけ、というようなことがない。毎試合出場できるし、少人数のゲームだからボールに触るチャンスが多い。だから、やりながら、どんどん上達する。
 試合ごとにメンバーが変わるので、型にはまったプレーを、あらかじめ練習しておくことはできない。その場、その場のアドリブでプレーするほかはない。したがって、ひとりひとりのアイディアが育ち、試合ごとに変わる仲間の、いろいろな個性に合わせながら、自分の個性を発揮することを覚える。
 「むさしのFC」の大会を見ていたら、どの試合でもリーダーシップを発揮するタイプの少年がいるし、どの試合でも得意な足技でチャンスを作る少年がいた。いろいろな個性が良く分かる。
 午後の試合になると、少年たちは慣れてきて、自分たちで、いろいろな、やり方を創り出していた。
 たとえば、ゴールをあげると、その少年は自分のゴールを守る役になり、他の少年がゴールをあげると、また代わって攻めに出る、というような工夫をしているところもあった。 
 ゲームの人数、ゴールの大きさ、フィールドの広さなどは、事情によって、いろいろに変えられる。「むさしのFC」では、大会運営方法にも面白い工夫をしていた。
 それぞれ、自分の頭で考えるのがいいと思う。


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