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サッカーマガジン 1994年10月12日号

ビバ!サッカー

野外活動の実習で学んだこと

 サッカーのために、サッカー以外の人たちから学ぶことも多い。女子学生のための野外活動の実習について行って、キャンプ指導の専門家と付き合う機会があり、いささか勉強をさせてもらった。そのうえ、そのキャンプ場にサッカーの仲間がいて「人生、いたるところサッカーありだ」と大いにハッピーだった。

☆指導者の資質と意欲
 9月の半ばに大学1年生の女性約120人を引き連れて兵庫県社(やしろ)の嬉野台生涯教育センターに宿泊して野外活動の実習をした。とはいっても、シロートのぼくが、直接教えたわけではないから、ご安心願いたい。
 まず、大阪キャンプ協会の経験豊かな専門家にお願いした。その先生が新進気鋭のリーダーを10数人連れてきて、アイディアにとんだ計画をたてて指導した。ぼくは監督を名目に感心して眺めていただけである。
 感心したことが、いろいろあったなかで、いちばん感銘を受けたのは若いリーダーの資質と意欲である。
 この人たちは、野外活動の指導者として専門的な訓練を受け、経験を積んでいる。ボランティアの人でも能力はプロである。
 しかし、単にマニュアル通りに上手に教えただけではない。
 女子学生たちが、将来は小学校や幼稚園の先生になって、あるいは母親になって、子どもたちを指導しなければならないことを考えて、周到な計画をたてていた。ぼくたちが依頼した趣旨を、しっかりつかんでいることに感心した。
 また、10数人のグループを分担して預かると、1人1人の指導者が、そのグループを観察したうえで、それぞれ、指導のプログラムと教え方を即座に工夫していた。
 教える対象の能力と立場を把握したうえで、自分の頭で考えて工夫して指導する。サッカー、とくに少年サッカーの指導者に、この心がけを学んでほしいと思った。

☆将来のために、楽しく
 少年サッカーの指導の問題点は、この「ビバ!サッカー」でも、これまでに何度も取り上げた。その一つは、子どもたちの将来を考えるよりも、目先の試合に勝つために、指導者が熱心に鍛え過ぎることである。
 子どもたちは、カズのようなプロ選手を夢見て練習している。
 プロになる子どもは、いまの試合に勝つよりも将来大きく伸びるように育てなければならない。一方、ふつうの社会人になる場合にも、生涯スポーツとしてサッカーを楽しめるように、指導する必要がある。
 どちらにしても、子どものときにボールを自由自在に扱えるようにテクニックを身につけ、自分のアイディアでプレーすることを覚え、サッカーを楽しくプレーすることが大事である。少年大会で優勝することは大事ではない。
 ところが残念ながら、子どもたちの将来を考えない指導者が少なくないのが現実である。型にはまった練習でしごかれて、自分のアイディアを失い、骨が固まらないうちに鍛えられて膝に障害を抱える子どもたちがいる。厳しすぎる練習に燃えつきてしまって、高校ではサッカーをやめてしまう若者も多い。
 野外活動のリーダーたちが、幼稚園の先生になったり、母親になったりする学生たちの将来を考えて、そのための参考になるようなプログラムを工夫したことに感心した。
 そのプログラムは、とても楽しくて、学生たちは「燃えつき症候群」になるどころか、楽しい思い出いっぱいでキャンパスに戻っていった。

☆少年サッカーのためにも
 この野外活動の実習をした嬉野台生涯教育センターは、丘陵地帯のなかにスポーツやキャンプの施設が点在し宿泊設備も整っている。
 サッカーのグラウンドもあるというので見に行ったら、社会人のクラブの人たちが練習していた。
 ちょっとお腹の出た人もいて和気あいあいである。シュート練習でボールをける瞬間に「ロマーリオ!」と叫んだりしている。嬉野台のロマーリオのシュートは、はるかバー越えのホームランになった。
 ともあれ、兵庫の奥の丘陵地帯にもサッカーがあり、ロマーリオがいる。ぼくは大いに満足した。
 それだけではない。
 野外活動で、ご飯を炊く実習をしていたら、このセンターの運営をしている指導主事の先生が、ぼくを名指しで探しに来た。 
 「参加者の名簿を見ていたら、お名前があったので、なつかしくて、ごあいさつに来ました」という。 
 「なつかしくて」といっても初対面である。「子どものころに、サッカー・マガジンやワールドカップの本に書かれたものを、むさぼるように読んで育ったので……」。 
 やがて学校で選手になり、卒業して指導者になり、協会の役員にもなった。 
 たまたま、このセンターの運営にたずさわるようになったので、ここを「少年サッカーのセンターにもしたいな」と考えているという。 
 こういうところで、野外キャンプの実習も入れたりしながら、子どもたちと楽しくサッカーが出来たら最高だろうな、と考えた。


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