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サッカーマガジン 1994年9月28日号

ビバ!サッカー

カズの大ケガを考える

 ヴェルディからイタリアのジェノアに移った三浦知良(カズ)が、セリエAの開幕試合で大ケガをした。カズにとっても、日本のファンにとっても、また日本代表チームにとっても、実に残念なことだった。この事故は、まったくの偶然で避けられないことだったのだろうか?

☆本場の公式戦のこわさ
 自ら熱望してイタリアのジェノアに移ったのに、いきなりの大ケガ。カズに対しては「気の毒だ」というほかはない。世界最高レベルのリーグで、どのくらい通用するかを見ることが出来なかったのは、こちらとしても残念だ。広島アジア競技大会を控えて、ファルカン監督の日本代表チームにとっても痛手だった。
 カズがイタリアでケガをする可能性が、予測されていなかったわけではない。ぼく自身も9月14日号のビバ!サッカーに、カズは「激しいタックルにあってケガをするかもしれない」と書いた。他人の不幸を予測するのは不謹慎だから、控えめに表現したが、「ケガの可能性はかなり高い」と考えていた。
 「ケガの可能性が高い」と予測した理由は、いくつもあるが、その一つは、まだまだ甘いJリーグから、世界でもっとも厳しいセリエAに、いきなり飛び込むのは無理があることである。
 「これまで、ヨーロッパのチームとの国際試合で、カズは活躍していたじゃないか」という声があるかもしれない。
 しかし、公式戦と親善試合はわけが違う。
 ACミランを日本に招待して親善試合をするときには、相手は力づくで抑えこもうとはしない。逆にスーパースターが見せ場を作れるように配慮してくれる面さえある。
 これは「手ごころ」というのとはちょっと違う。もともとエキシビションとタイトルマッチは、性質が違うのである。

☆開幕試合出場に裏が?
 セリエAの開幕の日、ぼくは神戸で、ヨーロッパから来ている友人と食事をしていた。 
 「カズはイタリアで試合に出られるのかね?」
 と友人が聞いた。
 ぼくは答えた。
 「開幕試合に先発メンバーで出場するのは間違いないと思うね」
 ジェノアは「ぜひに」といって、カズを日本から引き抜いたわけではない。カズをジェノアに売り込んだエージェントがいる。
 エージェントは、ジェノアにスポンサーをつけることを考える。カズがセリエAでプレーすれば、日本のファンの関心が高まる。そうすれば企業にとって、宣伝価値が大きくなる。だからスポンサーを付けやすくなる。
 ジェノアには、スポンサーから、お金が入る。仲介したエージェントにもコミッションが入る。カズはあこがれのセリエAでプレーできる。
 一挙三得である。
 ただし、宣伝効果を高めるためには、カズの出る試合が日本ヘテレビ中継される必要がある。そこでエージェントは、日本のテレビに放映権を売り込まなくてはならない。
 実際にカズの出場したACミランとジェノアの試合は、深夜だったけれども日本で放映された。
 スポンサーがからみ、テレビがからんでいるとあっては、カズを試合に出さないわけにはいかない。「カズが出ますよ」といって、スポンサーやテレビに売り込んだのがウソになってはサギである。

☆それが人生だよ! 
 「だからカズを開幕試合で使うと思うよ。エージェントに利用されたと思うかもしれないが、それはそれでビジネスだし、カズはチャンスを得たんだからいいじゃないか」
 ぼくは、なかば冗談で推測した。
 そうはいっても、これはスポーツの世界、勝負の世界の話である。
 「本場のプロサッカーは、そんなに甘くないよ。スポンサーが有力でも、力のないものは使えない」
 ヨーロッパから来ている友人は、カズの実力を知らないのか、ぼくの意見に疑わしげな表情だった。 
 カズの技術と根性は、十分に通用すると思う。そうでなければ、エージェントの売り込みも成功しなかっただろう。実力があるからこそ、エージェントにとっては利用価値があったし、カズにとってはチャンスが来たわけである。 
 不安がないわけではなかった。 
 開幕戦に必ず出なければならないとなると、カズ自身が無理をしなければならなくなるのではないか。それが心配だった。 
 体調が十分でないこともあるし、イタリアのサッカーのやり方に、まだ慣れていないこともある。それを押して出場するとなるとケガの危険性は大きい。 
 さらにいえば、カズは負けず嫌いで、しかも責任感が強い。そのために、頑張りすぎてますますケガの危険性が大きくなる可能性がある。 
 不幸にして、結果は、その通りになった。 
 「それが人生だよ」 
 というほかはないのだろうか。


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