アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1994年9月21日号

ビバ!サッカー

Jリーグと中学生のクラブ

 甲子園の高校野球が、純真なアマチュア・スポーツの精華のように思われているが本当だろうか。神戸で開かれたクラブの小、中学生のサッカー大会をみて、クラブの方が健全じゃないかという気がした。そこにはJリーグのクラブの少年たちも参加していたのだが……。

☆神戸のジュニア大会
 夏休みの最後の日、神戸のユニバーシアード競技場でヴェルディ対レッズとエスパルス対ベルマーレの2試合を見た。
 「えっ、そんなダブルヘッダーがあったっけ」なんて驚かないでもらいたい。これはJリーグの試合ではなくて「ジュニアサッカーKOBE94」最終日の決勝戦だった。  
 この大会は学年別に5部門に分かれていて、合計66チームが参加していた。中学生の部にはJリーグのクラブ・チームも招かれている。その中1以下の部と中2以下の部の決勝戦を見つけたわけである。
 この大会は今年で24年目になる。つまりJリーグがスタートするずっと以前から行なわれている。
 学年別に分かれているが、小学校や中学校の大会ではなく、最初から地域のクラブの大会としてスタートしている。 
 初期のころには地域の選抜チームも多かったが、主催者である神戸フットボールクラブの狙いは、最初から学校単位でない地域のクラブを育てることにあった。エスパルスの源である静岡県の清水は、最初「清水選抜」の名前で参加していて、第6回大会から「清水FC」になっている。ヴェルディの母体である読売サッカークラブも、初期のころから参加している。 
 「地域のクラブ」が、Jリーグに始まったかのようにいう「にわかサッカー評論家」がいるが、そんなことはない。地域の人びとが長年の努力で種子をまいた成果を、いまJリーグが収穫しているわけである。

☆学校スポーツの幻想
 話は変わって、この夏の甲子園の高校野球は面白かった。一人の好投手の奮闘で勝ち進んだ佐賀商が、決勝戦で猛打を爆発させて打ち勝ったのには、びっくりした。
 「県内の中学の出身者だけのチームで弱いと思われていたのが、試合ごとに力を伸ばして優勝候補を破ったのは愉快だ」
 と友人が感激していた。
 これは、弱い立場の者を応援したくなる一種の「判官びいき」で、ぼくも実は同じ気持である。
 正月のサッカーの高校選手権もそうなのだが、強いチームは全国区である。東京の有名高校に九州出身の選手がいたりする。監督の先生が全国をまたにかけてスカウトするためだが、中学生の方も、甲子園に出たくて越境入学してくるらしい。
 そういうチームに対して、学区内の選手だけで、ひたむきに戦ったチームは、さわやかである。
 と、気持としては思うのだが、もう少し突っ込んで考えると、レベルの高いチームを作って優勝するのが目的なら、全国区のチームを作ったっていいじゃないか、という理屈もある。プロ野球やJリーグのチームは、地域に本拠地を置きながら、選手は全国から集めている。
 「高校スポーツは教育の一環だ。プロとは違う」と反論されそうだが、教育の一環なら、別に全国選手権をやる必要もないし、新聞社やテレビの応援を受ける必要もない。
 甲子園や正月の高校サッカーに学校スポーツの理想を求めるのは幻想じゃないか、と思う。

☆地方のクラブ・チーム
 話を神戸のジュニアサッカー大会に戻そう。
 中学1年生以下の部は、ヴェルディの下部組織である「読売日本サッカークラブ」が優勝した。
 田口孝広君が監督で、ブラジル人のジョゼがコーチである。ポルトガル語のできる渡辺克之君もコーチになっている。この渡辺コーチは、古くからの友人の一人だ。
 そこで試合のあとで、ちょっと話を聞いてみた。「優勝はしましたが、出来が悪くて……。もう少し、いい試合を見てもらいたかったんですが……」
 この年代では、優勝は目的ではない。いい試合の経験を積み重ねることが大切である。 
 「ところで、遠くから来ている選手もいるの?」 
 「いや、いまは首都圏の子どもたちばかりです。わざわざ地方から出てくる子はいなくなりましたね」
 Jリーグができる前の話だが、ひところは、九州あたりから読売クラブに入りたいと上京してくる中学生がいたものだ。
 Jリーグが出来て、ヴェルディが人気チームになったから、そういう中学生が、ますます増えたかと思ったら逆らしい。
 「各地にクラブが出来たから、わざわざ東京に来なくても地元でやれるようになったんですよ」
 学校スポーツの方がプロ的な全国区で、トップにプロを持つことの出来るクラブの方が、地元の少年たちによる地方区になっている。これこそ愉快ではないか。  


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ