ワールドカップ、ヤマザキナビスコカップ、Jリーグ、そして広島アジア大会と、サッカーのスケジュールはめまぐるしい。ニコスシリーズの展望を書くには遅すぎるし、優勝を占うには早すぎるけれど週刊でも間に合わない、めまぐるしさの隙を縫って展望兼予想を…。
☆予想どおりの大混戦
Jリーグ2年目の第2ステージ、ニコスシリーズは、思ったとおりの大混戦になってきた。
開幕前に「サッカー・マガジン」の読者には、ぼくの予想をお伝えする機会がなかったが、新聞社から予想を聞かれたとき、迷いに迷った挙げ句に「やっぱりヴェルディだな」と答えてしまった。
編集者としては「ヴェルディ」をあげる人は他にいるから、ぼくには、もっと、ひとひねりした予想をしてもらいたかったに違いない。
しかし「混戦になれば最後に抜け出す力をもっているのはヴェルディだ」という結論になった。
なぜ「ニコスは大混戦」という気がしたかといえば、多くのチームが世界のトップクラスの外国人選手を揃えてきたからである。
レッズのブッフバルトや、アントラーズのレオナルドのような、現役のワールドカップ・プレーヤーが、米国大会が終わると、たちまち日本のチームに加わった。外国人選手の出場枠は1度に3人だけとはいえ、これほどの「現役ばりばり」が、やってくれば、とりあえずは、その外国人選手の力がチームの力を代表することになってしまう。
そのうえ、旧日本リーグの時代には外国人選手を使っていなかったクラブも、Jリーグ2年目になって、外国人選手の扱い方、生かし方を心得てきている。旧三菱のレッズが、その例である。外国人選手を使いこなす能力は、そう違わなくなったから、大混戦だとみたわけである。
☆新しいヴェルディ
「大混戦を抜け出すのはヴェルディだ」とみたのには、それほど自信があるわけではない。しかし根拠がないわけでもない。
夏休みに東京郊外の多摩丘陵にある「よみうりランド」にヴェルディのクラブハウスを訪ねたら、古い友人たちが「ネルシーニョのやり方は面白いよ」と、しきりに言っていた。ネルシーニョは、松木監督を補佐するためにブラジルから呼んだ新しいコーチである。 「両方のサイドバックを、どんどん攻め上がらせるんだよ。練習の時に、右の石川にも、左の戸倉にも、上がれ、上がれと叫び続けているんだ。これは新しいやり方だろ」
「ふーむ」
と、ぼくは半信半疑だった。
タッチラインからタッチラインまで、ふつう68メートルである。このフィールドの横幅を守るのに、守備ラインには4人必要で、また4人いれば十分だ、とぼくは考えている。
もし4人の守備ラインで、両サイドバックが同時に攻め上がって、誰も下がってこなければ、守備ラインは2人になってしまう。柱谷が中盤から下がってきても3人である。常時2〜3人の守備ラインでは、敵の逆襲速攻を防ぎきれない。
だからネルシーニョの新戦法を、額面どおりには受け取れなかったのだが、それにしても、新しいことを試みようとする姿勢はいい。
新しいものを試みたチームが成功するとは限らないが、新しいものを持たないチームは、混戦を抜け出せないだろうと思うからである。
☆危険を恐れるな!
ニコスシリーズ開幕前のヤマザキナビスコカップの準決勝で、ヴェルディは、ガンバ大阪に7対1で大勝した。このときの前半16分の2点目は、右の石川と左の戸倉が同時に攻め上がった形から生まれた。
この場面はハーフウェーラインを少し入ったところのスローインからはじまる。石川がスローインをし、それを受けた柱谷が大きく左に振る。このサイドチェンジを受けたのは左サイドを攻め上がっていた戸倉だった。前線から戻ってきたビスマルクが戸倉からのパスを受け、入れ替わりに戸倉が前線へ走り出た。
このあと中盤の左サイドでラモス、柱谷、ベンチーニョが巧みにパスを回してガンバの守りを引き出し、すきをみて、ベンチーニョがタイミングよく右サイドにパスを出す。そこには攻め上がったまま残っていた石川がいて、フリーで攻め込みセンタリング。パスを出して走り込んだベンチーニョがヘディングで決めた。この試合のガンバは、守りに元気がなかった。だから新しい試みが成功したので、その裏側には危険もいっぱいだった。もしガンバが激しく守って、ラモスを中心にしたヴェルディの中盤のパス回しにミスが出れば、逆襲を食って、ペレイラと広長の2人しか残っていない守備ラインは破られたかもしれない。
しかし危険を恐れてばかりいては進歩はない。ヴェルディ以外にも、危険を恐れず、新しい試みに挑戦しているチームはあるだろう。ニコスシリーズの優勝は、その中から出ると思う。 |