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サッカーマガジン 1994年8月24日号

ビバ!サッカー

ワールドカップUSA94と2002年

 ワールドカップの華麗で激烈な戦いの思い出は、たちまちのうちに夢まぼろしのようになって、日本ではJリーグの第2ステージが、始まる。ワールドカップと国内リーグの間には、密接な関係がある。米国の場合はどうだったか。日本の2002年の場合はどうだろうか?

☆ボランティアの功罪
 ワールドカップのような超ビッグ・イベントを開催するには、非常に多くのマンパワーがいる。ワールドカップUSA94の現場では、たぶん9都市で2万人くらいの人が、裏方さんとして働いたのではないだろうか。その大部分はボランティアだった。
 若い学生さんもいれば、かなりの年配のご婦人もいる。みな、ワールドカップUSAのマークの印刷された薄っぺらなTシャツを着ていた。印刷されているマークはカラーじゃなくて白黒だった。はなやかに世界的なお祭りをやっているときに、安物のTシャツ姿は、いささか侘しいが「経費節約」のためだろう。
 ボランティアの協力を求めることには、功もあれば罪もある。
 功のうちの一つは、そのイベントの内容に直接関心のない人にも、イベントの社会的価値を認識してもらえることである。ワールドカップに協力していたボランティアの大部分は、もともとは、サッカーに興味のない人たちだったようだ。サッカーの試合に興味がないから、試合の最中でも試合を見ないで仕事をしてもらえる。
 弊害もある。
 その一つは、シロートの集まりで能率が悪いことである。
 スタジアムのなかの案内係が、ボランティアで、競技場の構造をよく知らない。そのために記者席の切符を見せて、案内してもらおうとしたら、あちこちに、たらい回しに引き回されて怒っていた同僚がいた。これはボランティアの罪の方である。

☆クラブなき運営
 ヨーロッパの新聞が、ワールドカップUSAの運営を「クラブのない国の大会」と批評しているのを読んで、「なるほど」と思った。
 ヨーロッパの国で開かれるワールドカップの運営には、それぞれの会場都市にあるスポーツクラブが協力する。そういうクラブは、それぞれ有力なプロのサッカーチームを持っている。試合を運営するためのマンパワーも、試合を見に来るお客さんも、主力は、その都市の有力クラブのメンバーやファンである。
 米国の場合は、そうでなかった。
 会場各都市に有力なサッカークラブやプロサッカーチームがあったわけではない。大会を運営したのは、米国サッカー協会から委任を受けたワールドカップUSA組織委員会であり、協力したのは組織委員会が直接募集したボランティアだった。組織委員会の役員も、応募したボランティアの人たちも、必ずしもサッカーの関係者やファンではない。むしろ、もともとはサッカーとは無関係だった人びとが大部分である。
 こういう方法にも功罪がある。
 運営を引き受けた人たちは、大会成功のために全力を尽くす。その大会を成功させることだけが、その人たちの請け負った仕事で、後を考える必要はないからである。
 しかし、大会が成功した後に、その成果を引き継いで育てる組織はない。ヨーロッパの場合は、クラブがあるが、米国の組織委員会は、大会が終われば解散し、ボランティアの人たちは、それぞれ、もとの職場や家庭や学園に戻るからである。

☆日本ではどうする?
 米国では来年、1995年の4月に全国的なプロ・サッカー・リーグのMLSを発足させることになっている。つまり、ワールドカップUSAの成果の受け皿を、あとから作るわけである。受け皿が出来る前にワールドカップの成果が、あらかた、こぼれ落ちてしまうのではないかと心配である。
 その点は、いまのところ、日本の方が手順よく進んでいる。日本は2002年のワールドカップ開催をめざしているが、その10年前にJリーグが発足した。Jリーグは、地域に根ざし、プロをもつクラブ組織を理念としている。つまり、Jリーグが理想どおり育てば、ワールドカップを組織運営するための地元のパワーも、その成果の受け皿も、あらかじめ備わるはずである。
 しかし、一方で、米国のワールドカップの良さにも学んで欲しい。
 米国では、もともとはサッカーに関係のなかった人たちが、ビジネスマンとしてワールドカップの組織運営を行ない、市民として、ボランティアとして協力した。
 日本の場合も、サッカーに直接、関わりのなかった人たちが、能力を生かして2002年に協力できるような態勢を作ってもらいたい。
 一握りのサッカー関係者たち、一握りのかつての名選手たちだけが、仲間を集めて、自分たちの能力の範囲内だけで仕事をするようなことのないように願いたい。
 つまり、米国方式の良さと、欧州方式の良さの両方を取り入れてもらいたいと思う。


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