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サッカーマガジン 1994年7月13日号

ビバ!サッカー World Cup USA94

ロマーリオはMVPだ!

 ワールドカップUSA94が始まった。欧州と中南米以外の地域では初めてのサッカーの祭典である。移民の国らしい多彩なエスニックの雰囲気が、欧州のチームと、ラテンのチームを公平に迎えているが、序盤戦は、全米を襲った思いがけない暑さが、欧州のチームを苦しめた。その中でブラジルは気候にも恵まれて、力強いスタートだ。 

エスニックの祭典
メヒコ!メヒコ!の合唱がワシントンにこだました!
 ワシントンのロバート・F・ケネディ・スタジアムの記者席にいて「まるでアステカだ」と思った。6月19日、グループリーグE組のメキシコ対ノルウェーの試合である。 
 24年前、初めてワールドカップを取材したのが、1970年メキシコ大会だった。 
 巨大なアステカ・スタジアムを埋めた大観衆、華やかな色彩と音楽のパレード……。「アラビオ! アラバオ! ビンボンバン。メヒコ! メヒコ! ラ、ラ、ラ」 
 メキシコ独特の大合唱が、いま、アメリカ合衆国の首都にも、こだましている。
 5万2395人の入場者の半分近くがメキシコの応援だった。本国から繰り込んだグループもいるが、大部分は出稼ぎに来ているメキシコ人である。あるいは移民の人たちである。貧しい人々が多く、一般席100ドル前後の入場料は高いが、4年に1度のサッカーのお祭りに加われるのなら、出費は、いとわない。それがラテン気質というものだ。 
 試合は1−0でノルウェーの勝ち。後半はメキシコがボールを支配していたのだが、残り10分に逆襲で1点を奪われ、その後のスリリングな猛攻撃も及ばなかった。 
 6月17日にシカゴで開幕試合を見てからニューヨーク、ワシントンと米国東部を回りながら、どの会場でも同じような雰囲気を味わった。 
 シカゴのソルジャーフィールドは、まるでフランクフルトだった。ドイツの応援の旗と歌声がスタンドをゆるがせていた。 
 ニュージャージーのジャイアンツ・スタジアムは、アイルランドの緑が、イタリアの青を圧倒していた。この競技場はハドソン川を隔ててマンハッタンの対岸にあるが、州は違ってもニューヨークの郊外のようなものである。 
 大都市を背景に持ち、7万5千人を収容する、このフットボール・スタジアムに、アイルランド対イタリアの試合を持って来たのは、大会組織委員会の重要なPR戦略の一つだったらしい。 
 米国東部には、この両国の移民の子孫が非常に多い。それを当てこんで、大会の最初に、この有名なスタジアムを満員札止めにして、マスコミにワールドカップの人気をアピールしようという作戦である。
  結果は狙い通りだった。 
 スタンドが満員にふくれ上がっただけでなく、フィールドでは、アイルランドが優勝候補のイタリアを1−0で破って話題を増幅させた。夜になっても、マンハッタンのアヴェニューには、緑の旗を打ち振って車を乗り回している人たちがいた。 
 移民の国のワールドカップは、こうして人びとが「おじいさん、おばあさんの国」との一体感を確かめる大会として始まった。スタジアムの内外は、エスニックの祭典だった。 
 この祭典が、これからアメリカ全体に、どんな影響を与えるだろうか。1カ月間、それを確かめて回りたい。 

序盤戦の波乱  
新勢力の力は上がっているが世界のトップには距離が
 最初の番狂わせは、開幕翌日の6月18日に、イタリアがアイルランドに敗れたことだった。 
 アイルランドは前半12分に1点をあげ、それを守り切った。優勝候補の攻めを封じた守りの良さが光っていた。 
 守備ラインの左サイドを守ったテリー・フィーランが、「われわれは世界でもっともすばやい4人バックだよ」と自慢していた。小柄で俊敏なフィーランと、大柄なセンターバックのフィル・バップの黒人コンビが大活躍だった。 
 「バッジオは、何も出来なかっただろ」 
 これもフィーランの言葉である。 
 確かにロベルト・バッジオの出来は悪かった。欧州を代表するスターとは、とても思えなかった。最前線にいて、ワンタッチでボールを味方に渡すだけである。 
 さすがに球出しは巧い。あらかじめ、まわりを見ていて、すばやく渡す。パスは確かで、スピードを柔軟にコントロールしている。 しかも、パスを出す相手の選び方が適切で、かつ意外性がある。
 しかし、バッジオ自身の動きが少ないし、まわりのプレーヤーの動きも少ない。だから攻めが続かなかった。 
 アイルランドの方は、守りがすばやいだけでなく、鋭い反撃も見せた。長身のワントップのトミー・コインに合わせるだけだが、動きが素早く、多く、大きい。 
 後半26分には、中盤のシェリダンのシュートが、きわどくバーにはね返る場面もあった。 
 ジャッキー・チャールトン監督の率いるアイルランドが、前回のイタリア大会のときよりも、さらに力をつけて来たことは間違いない。
 アイルランドだけでなく、かつては、それほど評価されていなかった国のサッカーが、ぐんぐん力をあげている。アジアから出た韓国とサウジアラビアもそうである。 
 韓国が残り5分に2点をあげてスペインと引き分けた試合は、迫力があった。 
 この試合はテレビで見たのだが、コリア魂の粘りと闘志だけでなく、攻めの速さと力強さも、なかなかだった。同点ゴールをあげた23歳のソ・ジョンウォン(徐正源)の足技とアイデアの速さもよかった。韓国のサッカーの良さを出し切っていたように思う。 
 サウジアラビアは、オランダに2−1で逆転負けしたが、アジア予選のときより、チームプレーが鋭くなっていた。10月の広島アジア大会の優勝候補筆頭だろう。 
 とはいえ、全チームがひと通り1試合を終えた時点で捩り返ると、番狂わせといえる勝利は、アイルランドだけである。新勢力のレベルは上がって来ているが、世界のトップとの間には、まだ距離がある。 
 新勢力は、第1戦を目標に調整して序盤戦での勝利を狙ってくる。優勝候補のチームは、大会の後半が勝負である。 
 だから序盤戦に番狂わせが起きるのだが、結局はイタリアも息を吹き返し、進出するのではないだろうか。 

新しいブラジル!?
激しいマークに負けない個人技! ロマーリオはすごい 
 今回の24チームの中で、もっともすばらしいのはブラジルである。このことは、グループリーグの最初のひと回りが終わったところで明らかになったと思う。ボールは丸い。明日はどちらに転ぶかは分からない。そのことは十分に承知しているが、それでも「優勝はブラジルだ」と断言したい気持になってきた。 
 6月20日にサンフランシスコで行なわれたブラジルの第1戦、ロシアとの試合をワシントンのホテルで見た。米国は広い。これまでのワールドカップのように、いいカードを拾って各都市を回るのはむずかしい。そのため、今回は米国東部に腰を据えることにした。だから、グループリーグ随一の好カードを、ホテルの、テレビで見ることになったわけである。 
 キックオフ間もなくから、ブラウン管は、ロマーリオの大写しの連続になった。「ロマーリオは、すごい。この大会の最優秀選手だ」と、これも断言したい気持になった。 
 ロシアは、テルナフスキーが、ぴったりと、文字通り密着マークしていたが、ロマーリオはものともしなかった。 
 ポストになってパスを受けるとき、ロマーリオは、自分の方から背中をテルナフスキーの方に密着させていった。 
 ボールが来ると、すばやく味方にパスしてすり抜けることもあるし、自分で反転して前へ出ることも試みる。ロマーリオは、ブラジル待望の強力で技巧的なストライカーに成長している。 
 中盤のライーの組み立ても悪くない。昔の「ブラジルの10番」にくらべて、ひらめきの柔軟性が少ないという人もいるが、きびしいマークで、コンパクトに守ってくる現代のサッカーでは、新しいタイプの「10番」が必要なのだと思う。 
 守りの連係プレーの巧さには、ブラジルの伝統の良さが生きている。前を抑え、後方から追い込み、横へ出したボールを、隣のディフェンダーがからめ取る。そういう守りの網の目が、よりきびしくなっていた。 
 ブラジルの主力の多くは、欧州のプロでプレーしている。それが代表チーム編成の悩みの種だったが、いまでは、欧州のきびしいマークにもまれたプレーヤーが、その中で個人技やアイデアを生かせるように鍛えられたのではないだろうか。それによって新しいブラジルのサッカーが出来ようとしているのではないか。 
 欧州の優勝候補は、立ち上がりでもたついている。開幕試合のドイツも個人プレーのボリビアに手こずっていた。 
 理由は二つある。 
 一つは、国内の激しいリーグが終わって代表チームをまとめ始めたばかりだからである。
  もう一つは、思いがけない猛烈な暑さだ。35度以上、華氏で90度〜98度の表示が出ると、数字だけで目がくらむ。 
 その中で、ブラジルが試合をしたサンフランシスコは、25度くらいだったらしい。 
 ブラジルは気候にも恵まれて、幸先のいいスタートを切った。


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