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サッカーマガジン 1994年6月29日号

ビバ!サッカー

米国ワールドカップへの期待

 さあ、ワールドカップだ!日本が出場できなかったのは残念だが、4年に1度のサッカーの見本市を見逃すわけにはいかない。ぼくにとっては7度目のワールドカップ。今回は欧州のチームにとっても、南米のチームにとっても中立の米国開催だというところに注目したい。

☆市民の関心は?
 米国ワールドカップで楽しみにしていることの一つは、1カ月の間に米国の市民、とくに会場になった都市の市民の関心度が、どう変わるかを見ることである。
 米国は、欧州やラテン・アメリカの国とは違って、サッカーだけが大衆的なスポーツという国ではない。アメリカン・フットボールとバスケットボールと野球が、プロのスポーツとして人気を三分している。
 しかし、サッカーが普及していないかというと、そんなことはない。
 過去25年くらいの間に、何度も米国を旅行したし、ニューヨークに駐在したこともある。行くたびに、サッカーが、どんどん普及していることに気が付いた。
 1967年にメキシコにいく途中でロサンゼルスに寄ったときは、本屋で子ども向きのサッカーの入門書を見付けて「おや、米国でも子どもたちがサッカーをやるのか」とびっくりしたぐらいだが、1980年代には、子どもたちだけでなく、女性がサッカーを楽しんでいるのを、いたるところで見かけた。プロ野球選手が、子どもにサッカーをやらせていて「フットボールや野球よりも、ケガは少ないし、健康にいいから、中流家庭で子どもにサッカーを奨励しているところが多いんだ」と話してくれたこともある。
 そういうふうで、米国でもサッカーは「するスポーツ」としては、非常に普及している。それがワールドカップの期間中、「見るスポーツ」として関心を集められるかどうかに注目したいと思っている。

☆米国は広いぞ!
 米国は広い。また日本人の目から見れば複雑な国である。たとえば、いま日本で問題になっている消費税の税率にしても、州によって違う。ある州では税率8%だが、隣の州には消費税がない、というようなところがある。州の境にいる町の人が、消費税のない隣の町で毎日の買物をする、というようなことがある。
 だから、一つの地域を見て、また1カ月くらいの見聞で「米国はこうだ」なんていうわけにはいかない。
 それは分かっているのだが、それでも米国のあちこちに行って、米国市民のワールドカップに対する反応を見たいものだと考えた。
 結論をいうと、この計画はあきらめた。米国が広すぎて、移動して歩くのが大変だからである。東海岸から西海岸まで、たとえばニューヨークからロサンゼルスまでジェット機で飛んでも6時間あまりかかる。その間に4時間の時差もある。時間とお金と体力の浪費の三重苦になる。
 目下のところ、ぼくの計画はこうである。まず開幕試合を見るためにシカゴに飛ぶ。そのあとニューヨークヘ出て、ここを根拠にワシントン、ボストンなど東海岸の試合を見る。なぜ東海岸かというと、かつてニューヨークに住んでいたことがあって、多少なりとも土地カンがあるからだ。最後の決勝戦はロサンゼルスだから、これは日本へ帰る途中で西海岸に寄ることになる。
 そういうわけで、各地の市民の反応は、あちこちに出掛ける友人たちの観察を報告してもらって研究することにしたい。

☆優勝への影響は?
 競技そのものにも、開催地が米国だということが影響をもつだろう。
 これまでのワールドカップでは、欧州で開かれた大会では欧州の国が、ラテン・アメリカで開かれた大会では、ラテン・アメリカの国が優勝している。1958年のスウェーデン大会でブラジルが優勝したのが唯一の例外である。
 今回の開催地の米国はそういう意味で、中立の国だ。
 ワールドカップの地元の利は、その土地の観衆の気質によるところが大きい。町の人たちがスペイン語やポルトガル語を話し、南米ふうの生活をしていれば、南米のチームはリラックスする。ドイツ語を話し、欧州ふうの行動をしていれば、ドイツのプレーヤーは安心する。
 米国では、ひとびとは、ふつうは英語を話し、米国が独自に育てた文化のなかで生活している。だから欧州にとっても、南米にとっても、格別の利、不利はないと思う。
 一方で米国は移民の国である。中南米からの移民がたくさんいて、多くはスペイン語を話している。またドイツからの移民とその子孫も、土地によっては、頑固に祖先の文化を残したコミュニティを作っている。そういう人たちが、スタジアムを埋めるようであれば話は別であるが、ぼくは、そうはならないと思う。米国ワールドカップは、中立のスタジアムで実力を争う、すばらしい大会になるだろう。
 優勝候補は?
 ぼくの予想は、欧州のドイツと南米のブラジルの争いである。


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