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サッカーマガジン 1994年6月15日号

ビバ!サッカー

ファルカン日本のスタート

 ファルカン監督の率いる日本代表チームが、5月のキリンカップでスタートした。チーム作りは、まだ手探り、試合をしながら選手を試しているというところで、10月のアジア大会に間に合うかどうか心配だが、新たに起用された若い選手たちには希望がもてそうだ。

☆マークに負けない若手!
 「シュート数が多いのにゴールを割れないのは情けないな」
 「守りは、まあまあだったけど、相手が本調子じゃないのだから、あまり評価できないよ」
 ファルカン日本代表の第1戦、5月22日に広島のビッグアーチで行われたオーストラリアとのキリンカップの試合を見て、友人たちが手厳しいことをいう。 
 そういう見方も間違ってはいないと思うが、ぼくの心の目の焦点は、別のところに合っていた。 
 「日本代表の新人たちは、なかなかワザがあるじゃないか」というのが、ぼくの第一の感想である。 
 オーストラリアは、厳しく、激しいマークをした。日本の前線の2人には、マンツーマンで厳しくついてスイーパーを置き、中盤でも乱暴なくらいに身体を寄せて守った。 
 これに対して、新しい日本代表が怯えることなく、しっかりボールを扱えたことに、ぼくは感心した。 
 前半、トップに起用された佐藤は身長1メートル88の大型だが、ボール扱いも悪くない。相手によっては前線に背の高い選手がぜひ必要な場合があるのだから、ファルカン監督が佐藤を試してみた狙いが分かるような気がした。 
 前半、中盤に起用された前園も、のびのびとやっていた。 
 厳しいマークのなかで、ボールをしっかり、巧みに扱えるプレーヤーでないと、これからの国際試合では通用しない。そういう若手が国際試合の経験を積んで、どんどん伸びていって欲しいと思う。

☆小倉も楽しみだ
 後半、佐藤に代わってオランダ帰りの小倉が登揚、スタンドを喜ばせた。体調は十分ではなかったと思うが、思い切りよくドリブルし、シュートも放って、これも「先が楽しみだ」と思わせるものがあった。
 守りでは、センターバックで井原とコンビを組んだ名塚がよかった。
 というふうに新しい顔触れを賞めていったら、友人にからかわれた。「お前の基準は、30年前の日本のサッカーだからな。そんな大昔にくらべれば、いまの子どもたちは、みんな巧みにボールを操るよ」
 それはそうかもしれない。
 この30年の間に少年サッカーが、どんどん盛んになって、ボール扱いの上手な子どもが、たくさん育ってきた。それは間違いない。
 しかし「ボール扱いはうまいが、プレッシャーに弱い」とか、「対敵動作がまずい」とかいわれていたのは、それほど大昔の話ではない。
 というわけで、今回のファルカン日本代表に登場した若手が、オーストラリアの激しいプレッシャーをはね返す力を持っていたことを、ぼくは評価したい。
 ファルカン監督は、要所、要所には、オフト日本代表のときからの中心選手を配置した。守備ラインは井原、中盤はディフェンシブに柱谷、攻めの組み立て役に沢登、前線にカズである。
 その中では柱谷が、もっとも安定していて、チームの中心だった。
 沢登は、ちょっと精彩を欠いていた。周りを見るのが遅いという感じだった。

☆カズはどうだったか?
 「前半のカズはよかったな」と、友人がいう。
 カズは、オーストラリアの5番ドゥラコビッチにしっかりマークされていた。
 もちろん、カズは厳しいマークを恐れたりはしない。日本に来ているブラジル選手でも、ちょっと厳しくチャージされると、すぐ芝生に引っ繰り返ってしまうのがいるが、カズは持ちこたえて相手の方を引っ繰り返してしまう力とワザを持っている。それがよかったところである。
 ただ、この日のカズは、かなりナーバスになっていた。無理してフェイントで抜こうとして、うまくいかない場面がかなりあった。マンツーマンでつかれることは予想していたと思うが、「そのときどうしよう」とあらかじめ考えていたのだろうか。
 後半は、暑さのための疲れもあって「切れる」寸前と見受けられた。試合後の記者会見にも、不機嫌な表情で出てきた。とはいえ、この点は、あまり心配はしていない。
 ファルカン監督は、キリンカップのためのチーム作りは、ほとんどしていなかったのではないかと思う。
 ここでは「いろいろな選手の能力を実践の場で見てみよう」というつもりだったと思う。
 チームプレーが出来てないと、カズのような足技を活かす中心選手には負担がかかる。これは試合を重ねるにつれて解決する問題である。
 ただ、それが10月の広島アジア大会に間に合うのかどうか。これは、ちょっと心配である。


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