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サッカーマガジン 1994年6月1日号

ビバ!サッカー

中学校のスポーツを考える

 日本のサッカーを、全国各地の子供たちの間からレベルアップしていくことを考え続けてきた。少年サッカーと高校サッカーは、この20年あまりの間に、ぐんぐん盛り上がってきたが、中学校は、いま一つである。育ちざかりの、この年代を、どうすればいいのだろうか?

☆スポーツ障害
 風光美しく、人情こまやかな兵庫県加古川市での学園生活が2年目に入った。「何を教えてんだ?」とよく聞かれる。お答えすると、たとえば「健康とスポーツ」について講義をしたりしている。
 1年目にちょっと驚いたのは、中学生の時にスポーツをしすぎたための痛みを引きずっている学生が、かなりいることである。
 ある学生は「足首の痛みが、ずっと治らない」と訴えてきた。同僚の先生にスポーツ障害の専門家がいるので相談にのってもらったら、「靭帯(じんたい)が伸びてしまっている。これは、もとには戻らないから、このまま、がまんして生活していくのがいい」という話だった。
 本人の話だと、中学校のときの剣道部の先生が熱心で、1日3時間くらい、毎日休みなしで練習していたという。右足を踏み込んで打ち込む練習をし過ぎたんじゃないかと、ぼくは想像した。
 そこで2年目の今年は、ぼくの講義を聞いている800人以上の1年生に、アンケートでスポーツ歴を聞いてみた。
 女子の短大だからサッカーの経験者はいなかったが、中学生の時にバレーボール、バスケットボール、剣道の部活をした学生がかなりいる。そのほとんどが1日に2〜3時間、週に7日練習したという。土曜と日曜は6時間だったという者もいる。スポーツ障害による痛みを、まだ引きずっている者も、やはりいる。
 練習のやり過ぎじゃないかと思った。

☆中学校の部活
 ぼくの勤めているところは、幼稚園の先生や栄養士を養成する学科が主力の地道な短大で、スポーツで有名になって学生を集めようという学校経営はやっていない。
 したがって、オリンピック出場を夢見たような選手はいない。みな、ふつうの女の子だった学生である。そういう中学生が、部活で1日に3時間も、年中休みなしに練習していた、というのだから驚いた。
 しかも、中学校で熱心にスポーツをやりながら、高校ではやめてしまった者が、かなりいる。東京の有名校に進学するのとは違って、大学受験の準備が、それほど部活の妨げになったとは思えないから、中学の時の練習で「燃え尽き」てしまったのではないか、と心配である。
 ともあれ、スポーツ障害にしろ、高校での挫折にしろ、中学校の時のスポーツ活動の影響が大きいのではないかという疑いは、かなり濃いようである。
 サッカーの場合は、どうなんだろうか。
 少年サッカーや高校サッカーにくらべると、中学サッカーには、マスコミのスポットライトが、それほど当たっていない。
 それでも、中学校の指導者の中には、全国大会をめざして熱心すぎる指導をする人がいるという話を聞くことがある。
 また逆に、生徒はJリーグに憧れてサッカーをやりたいのだが、いい指導者がいない、という話も聞く。
 中学校のサッカーに、もっと目を向ける必要がありそうである。

☆クラブと学校の両立は?
 中学生といえば、12歳から14歳くらいである。
 小学生の時からサッカーをやっていた子どもたちは、このころには、もうかなりボールを扱えるようになっている。ますますサッカーがおもしろくなり「うまくなりたいな」と意欲が出てくるころである。
 と同時に、将来、Jリーグをめざすプレーヤーに育つような素質があるかどうかも、ある程度は見分けられるようになっているはずである。
 この前の号で、日本代表のファルカン監督が11歳でクラブに入った話をしたが、ファルカンもこの年代で、将来のプロとしての素質を認められたわけである。素質のありそうな少年を集めて、ある程度、高いレベルのサッカーを見習わせることが、この年代では必要になる。しかし、これは中学校のサッカー部では難しい。だから「クラブのサッカーを」という動きが各地に増えてきているのは、日本のサッカーのレベルをあげるためには、結構なことである。
 「中学校のサッカーはいらない」とは思わない。
 学校の部活は、引き続きサッカーを楽しみたい生徒たちのために、あるいは中学校に入ってから新たにサッカーを始める生徒たちのために、将来も必要である。クラブと中学校の両立を考えなければならない。
 ただし、1日に3時間、365日鍛えようというような考えは、エリートのためのクラブであっても、大衆のための学校スポーツであっても、この年代では有害だと思う。


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