たくさんの子どもたちがサッカーを楽しめるように機会を作り、その中に、いい素質を持っている者がいれば、それを伸ばしてやる機会を作る。これはサッカーのレベルアップのための第一歩だろう。小学生のための大会の在り方がいまのままでいいのかをまず考えてみたい。
☆見よう見まねの幼稚園児
風光美しく、環境おだやかな兵庫県加古川市で、楽しく教壇に立っている。大学のグラウンドに隣接した職員アパートの一つを提供してもらって、東京から単身赴任である。
広い校庭を毎日、見渡して暮らしているが、1年前に来たときには、サッカーをやっている子どもたちは見かけなかった。土曜日に町内の少年団がソフトボールの練習をしているが、それ以外の日は、広いグラウンドがほとんど、がらんとあいている。もったいない話である。
ところが最近、大学付属の幼稚園の子どもたちが、ときどきボールをけって遊んでいるのを見るようにたった。
幼稚園で特別に教えているわけではない。数人の園児が思い思いにボールを追い掛けて遊んでいるだけである。しかし、見ていると、なかなか上手だ。ボールを転がし、追い掛け、切り返したりしている。幼稚園児が、ドリブルの切り返しをするとは知らなかった。
思うに、これはテレビの影響だろう。テレビでJリーグの試合を見て、プレーヤーがドリブルし、切り返してかわすのを見て、見よう見まねでやっているのに違いない。
サッカー・スクールや小学校の少年団で、ボールのけり方、止め方を教えられてはじめるよりも、こんなふうに遊びではじめた方が、楽しくサッカーを続けられるのではないかと思った。
必要なのはボールと広っぱと、見よう見まねのための、お手本だが、お手本はテレビでもいいようだ。
☆小学校に入ったら
この園児たちは、小学校に入ったら、どうするだろうか。
小学校にも広い校庭があって、低学年の児童でも自由に遊べるようだったら、そしてJリーグの試合がテレビ中継されているようなら、見よう見まねのサッカー遊びを続けるだろう。お兄ちゃんたちが一緒に遊んでやれれば、もっといい。
小学校の高学年になったら、ある程度、大人と同じような試合をしたくなるだろう。そういう子供たちはたぶん地元の「少年チーム」で練習や試合をするようになるだろう。
少年チームは、小学校単位が多いようだが、地域のサッカー・スクールや少年団のチームでもいい。小学校対抗の大会はないから、複数の小学校にまたがった子供たちのチームでも支障はない。
この年代で、考え直してみなければならない問題がいくつかある。
そのうちの一つは、小学生年代の全国大会が必要かどうかである。
夏休みには、東京の「よみうりランド」で、日本サッカー協会主催の全日本少年サッカー大会が毎年、開かれている。そのほかにも、いろいろな名目の少年大会が各地で開かれている。こういう子供たちの全国大会が、サッカーの普及に大きな役割を果たしてきたことは間違いない。
しかし、サッカーがここまで盛んになったいまでも、小学生年代の全国大会を「普及のために」開催する必要があるだろうか。
小学生の全国大会に、どんな意味があるのかを、考え直してみる時が来たのではないだろうか?
☆選手権の弊害
「少年の全国大会をやめたら、せっかく伸び続けている子どもたちのサッカー熱に水をさすことになるんじゃないか」と友人が心配した。
たしかに――。
バレーボールの少年少女大会がある。卓球の年齢別の大会がある。いろいろなスポーツの小学生の全国大会が盛んになっているときに、サッカーだけ全国大会がなくなったら、マスコミに取り上げられる機会が減って、指導している先生やコーチが張り合いをなくすかもしれない。
しかし一方で、チャンピオンシップとしてマスコミに取り上げられ、先生やコーチが勝つために夢中になって、成長途上の子どもに無理をさせるという問題も生まれている。そういう弊害の方が、いまや大きくなっているのではないだろうか?
楽しくサッカーで遊ぶことを覚えた子どもたちが楽しさを失い、将来プロになれるような素質のある子どもたちが、無理な練習のために身体の成長にも、心の成長にも負担がかかりすぎて、燃え尽きてしまうようでは大問題である。
子どもたちの試合に、ぼくは反対ではない。子どもは大人と同じようなことを、したがるものだからである。しかし、都道府県の代表を集めて選手権を争うような形は、小学生の年代では必要ないのではないか。他のやり方を工夫してみる必要があるのではないか。
難しい問題だけれども、日本サッカー協会が審議会でも作って、真剣に再検討して欲しいと思う。
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