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サッカーマガジン 1994年5月4日号

ビバ!サッカー

地方のレベルアップのために

 日本サッカー協会の「トレセン」が本当に役に立っていたのかどうか、かねがね疑問を持っていた。加藤久強化副委員長のもとでスタートした新しい体制でも、トレセンのシステムは続けられるらしいので、前号に続いて地方のレベルアップのための体制について考えてみたい。

☆トレセンってなーに?
 「トレセンってなんだ?」と友人が言う。
 「いい日本語じゃないぞ」。
 まったく同感で、カタカナ英語を縮めて新しい言葉を作るのは好きじゃない。ただ、日本のサッカーでは「トレセン」で通用しているので、前号の記事でも、この言葉を使ったしだいである。 
 これはトレーニング・センターの略のようだが、センターといっても「場所」を意味しているのではないらしい。都道府県や各地域で年代別にサッカー選手を育成する組織、あるいはシステムを指しているようだ。日本のサッカー独特の用語だろうと思う。 
 トレーニング・センターが場所のことであれば、ぜひ各地に整備してほしいものである。
  グラウンドがあり、体育館があり、そこに専任のすぐれたコーチがいる、というような場所があれば、各地方でスポーツの普及とレベルアップに苦労してきた人たちは、どんなにか助かることだろう。 
 しかし、日本サッカー協会のいう「トレセン」は、そうではない。 
 各都道府県に、たとえば14歳以下、16歳以下、18歳以下の選抜チームを作らせる。それを集めて北海道や東北などの地域で大会をやり、それによってさらに、各地域の選抜チームを作る。地域選抜を集めて全国大会を開き、それをみて年代別の日本代表チームを編成する。 
 こういうふうにして年代別の日本代表を選抜、編成するためのシステムを「トレセン」と呼んでいるようである。

☆トレセンは誰を育てたか?
 「トレセン」の狙いは、選抜チームの編成だけではないだろう。このシステムを通して、素質のある子どもたちを各地で発掘し、その子どもたちを正しく指導し、日本を代表するトップレベルのプレーヤーに効率よく育てることを目的としているのだろうと思う。 
 けれども――。 
 これまで「トレセン」は、どんなプレーヤーを育ててきただろうか? いまの日本代表選手は「トレセン育ち」だろうか? 
 この20年くらいをさかのぼって、日本代表クラスのプレーヤーを育てた母体として思い出すのは、読売クラブと清水FCである。 
 読売クラブは、いまのヴェルディの松木安太郎監督や都並敏史、戸塚哲也などを生み出している。 
 清水FCは、清水の小学生の少年団で、いまのエスパルスの長谷川健太や堀池巧などを育てている。 
 三浦カズは、静岡育ちだが、ご存じのようにブラジルで大きく伸びたプレーヤーだ。 
 こういうスターたちは、ほとんど協会のトレセンの影響は受けていないのではないだろうか。 
 日本サッカー協会のトレセン指導の影響をあまり受けなかったクラブや、地方の町の独自の努力の方が成功したのではないだろうか? ぼくの考えでは、中央集権的にプレーヤーを育てようとするのは、かえって弊害があると思う。
 極端なたとえをいえば「中央がこけたら、地方がみなこけた」では困るからである。

☆地方が独自にコーチを
 ぼくは、中央集権よりも、地方分権を勧めたい。 
 たとえば、中央からコーチを臨時に派遣するよりも、地方が自ら継続的にレベルアップの努力をするように仕向けるのが、回りくどいようでも、早道ではないかと思う。 
 ぼくのアイデアは、こうである。 
 専属の指導者を雇うために1500万円の資金を用意した県のサッカー協会に、日本サッカー協会が1500万円を補助する。そうすれば、その県は3000万円の年俸のコーチを雇うことが出来るわけである。
 この場合、二つの条件がある。 
 第一は、自己資金を用意できない県には補助は出さないことである。補助金ばらまきでは、地方が自ら努力しようとする芽を摘むことになりかねないからである。 
 第二は、どういうコーチを雇うかは、その地方の自主性に任せて、中央が押しつけたり、介入したりしないことである。   
 外国人のコーチを雇う地方も出てくるだろうし、自分の県の出身者を呼び戻すところもあるだろう。それぞれ自分たちで強化方針を考え、自分たちの力で人選するようにさせることである。 
 中央の強化委員会は、地方の人たちの能力に不安を持っているかもしれない。しかし47都道府県が、みな失敗するとは思えない。成功するところもあるし、失敗するところもあるだろう。そこは競争である。県内のレベルをあげ、いいプレーヤーを生み出した県が勝利者になる。


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