日本サッカー協会の強化委員会が新しいスタッフと新しい構想で再スタートを切った。代表チームの強化とともに、底辺のレベルアップをどうするかも非常に重要だ。日本サッカー協会が、トレセンと呼んでいる選手育成の方式について、これからしばらく考えてみたい。
☆久ちゃん大張り切り
先日、日本サッカー協会の強化委員会が、ぼくたちジャーナリストを集めて懇談会をした。
最初に案内を受けたときは「大先輩のジャーナリストの方に、ご意見をうかがいたい」という話だったので「おお、おれも大先輩として扱ってもらえるようになったか」と胸を張って出掛けたのだが、行ってみると、なんのことはない。若い新聞記者も多勢来ていて、要するに報道陣に対するただの説明会である。
ほんとの大先輩は「話が違うよ」といって帰ってしまったが、ぼくはまあ、小先輩程度なので、とにかくお話をうかがうことにした。
協会側で出席したのは、エスパルスの加藤久選手である。もちろん選手として出席したのではなく「強化委員会技術担当副委員長」という、ものものしい肩書きである。
話を聞いているうちに、加藤久ちゃんが、強化委員会の組織と運営を建て直そうと意欲を燃やしていることが、よく分かった。
そして、その意図を報道関係者に理解してもらうために、この説明会を開いたのだということも、よく分かった。
報道関係者の理解と協力を求めようという態度はいい。新聞社だけでなく、ぼくたちフリーランスのジャーナリストにまで手を広げてくれたのも結構だ。
協会側は「説明会」のつもりだったかもしれないが、こちら側も、勝手な意見をどんどん述べたので、結果的には、なかなか有意義な「討論会」になったと思う。
☆地方の指導者に敬意を
話を聞いていて、ちょっと心配になったことが一つある。
それは、加藤久ちゃんをはじめ、中央のスタッフが熱意に燃えているあまり、地方の指導者の自主性や意欲を阻害してしまわないか、ということである。
相手が生意気だと思ったら、ぼくたちは怒って帰ってしまうことも出来るし、がんがん反論することも出来る。しかし各地のサッカー協会の指導者は、そうはいかない。
中央から来た人びとに、お世辞を言っておかないと、別のところで冷たくあしらわれるのではないか、自分たちの教え子を代表選手に選んでくれないのではないか、などと無用の心配をしてたりする。
サッカーだけの話ではないが、中央の役員が地方へ行って、バーやゴルフに案内させる例を、よく耳にする。要求しなくても、地元の人が気をきかせて案内するわけである。
しかし、地方の人たちは内心では必ずしも中央の指導者を尊敬してはいない。一部の人びとは、中央の役員と親しいことを自慢して地位を強化することに利用するが、そういう人びとでも実は面従腹背である。
地方の指導者は、施設がない、勉強する暇がない、経験を積む機会が少ない、というような困難を切り開きながら、泥まみれになってサッカーを盛んにする努力をし、若い選手を育ててきた。だから、それなりの自信も自負ももっている。
中央の役員は、そういう地方の指導者に十分な敬意をもって接しなくてはならないと思う。
☆9人のコーチたち
強化委員会の技術部門で、地方のレベルアップを担当するのは、ナショナル・トレーニングセンターのコーチ陣である。
チーフコーチはアルゼンチンから招いたカルロス・パチャメ氏で、パチャメ氏が話をすれば、地方の指導者は彼の実績を尊敬して耳を傾けるだろう。外国の指導者の考え方に接する機会が少ない人たちにとっては、これは、いい刺激になる。
パチャメ氏の他に、北海道、東北など全国9地域を担当するコーチたちが指名されている。
この9人のコーチのうち数人かは元日本代表選手である。しかし、ぼくの知るかぎり、この人たちは若い選手を育てた実績も、強いチームを作り上げた経験ももっていない。
もちろん、地方にいけば、この9人のコーチのようにテクニックのある指導者は少ないだろう。だから、デモンストレーションをすれば、いいお手本になるかもしれない。
また、Jリーグのチームなど日本のトップレベルで練習や試合をした経験を持っているかも、地方の指導者は、それを学ぼうとするだろう。
しかし、若い選手たちの扱い方や素質の見分け方などについて、経験豊かな地方の中学や高校の先生方が信頼を置いてくれるかどうかは、きわめて疑わしい。
この9人のコーチは、地方の指導者から学ぶくらいの気持をもって、謙虚に仕事をしてもらいたいと思う。くれぐれも「高校の指導者にろくなのはいない」というような放言はしないように、お願いしたい。 |