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サッカーマガジン 1994年4月13日号

ビバ!サッカー

城彰二に未来を見た!

 Jリーグ序盤戦の話題はジェフU市原の城彰二だった。まだ公式には高校生の3月中に連続ゴール。すばらしいのは、自分で考える判断力と、すばやく巧みなシュート力を、物怖じせずに発揮したことだ。こんな選手を生み出す日本のサッカーの底辺に未来を見る思いがした。

☆ボールを抱えて戻る!
 「ジョーはえらい。たいしたもんだ」と思う。ジェフU市原の新人ストライカー城彰二の話だ。 
 最初に感心したのは、Jリーグの第2節、横浜三ツ沢で行われたフリューゲルスとの試合で得点したときである。 
 フリューゲルスが4−0とリードしていて後半34分。城のゴールでジェフが1点を返して4−1とした。しかし残り時間はわずか11分。点差はまだ3点もあるから、ジェフにとっては「次の試合につながる慰め」くらいの価値しかない得点だった。 
 しかしである。 
 シュートを決めた城は、そのまま相手のゴールの中に走り込んで、ボールを拾って抱えると、大急ぎでセンターマークの方に走っていった。 
 「えらい」と思ったのは、ここである。
 かつて高校選手権で、リードされているチームが1点を返したあと、抱き合って大喜びしている場面を見て、ビバ!サッカーの誌面で手厳しく批評したことがある。 
 負けているときに1点返したくらいで大喜びするとはなにごとか。まだ残り時間があるのだから、ゴールの中のボールを自分で拾って、大急ぎで戻って、すばやくキックオフをして次のゴールを狙うべきではないか、という趣旨だった。 
 ずいぶん前のことだから、まだ若い城がぼくの記事を読んで、それを実行したのだとは思えない。 
 しかし、同じ考えを高校出たてのルーキーが実行してくれたのは、うれしかった。

☆ゴン中山の影響? 
 「ジョーがお前の記事を読んだわけないだろ。彼はまだ生まれてなかったよ」 
 と友人が悪い冗談を言った。 
 それほど昔のことじゃないし、ぼくも、それほどの年寄じゃないつもりだが、たしかに、ぼくの記事の影響を受けた可能性はきわめて薄い。 
 「ぼくの記事を直接読まなくても中学か高校の監督の先生が読んで指導したのかもしれないし、先輩が読んで教えたのかもしれない」と強弁したが説得力はない。 
 友人の説によると、これはジュビロのゴン中山の影響だそうだ。 ワールドカップ予選の試合、ゴンがシュートを決めたあとゴールの中のボールを拾って小脇に抱え、センターサークルめざして走った。それがテレビで大写しになって「中山は闘志むき出しでいい」と人気急上昇の一つの原因になったという。 
 ぼくは、そのテレビを見ていないので知らなかったのだが、Jリーグの第3節、ジュビロとヴェルディの試合で、中山がゴールしたあとボールを抱えて走って戻るのをテレビで見て「なるほど」と思った。 
 ゴールしたあと、そのボールを抱えて戻る意味は二つある。 
 一つは、残り時間が少ないときに急いでキックオフするのが狙いである。
 もう一つは、相手のゴールネットのなかに転がり込むくらいの気持で真っ正面からシュートしろということである。自分自身が転がり込んだら、自然にボールを拾って戻ることになるだろうというわけである。

☆3試合連続ゴール!
 第3節、ジェフの地元市原でのレッズとの試合で城のあげた得点にも感心した。開幕以来3試合連続ゴールで話題になった得点である。 
 1−2とリードされて後半の42分、敗色濃厚だったところで、城の同点ゴールが出た。これでチームのムードが、がらりと変わり、その2分後に越後の決勝ゴールが出たのだから、これは第2節のときとは違って非常に価値あるものになった。
 この得点で感心したことがいくつかある。 
 まず、チームの状況と自分がやるべき仕事を、城がみごとにわきまえていたことに感心した。 
 1点差で負けていて、チーム全体に焦りが出ている。残り時間は数分しかない。ここで焦って、自分でボールを迫っ掛け回せば、相手の思うツボである。味方から、いいパスがくることを信じて、ゴール前に進出できる位置で待っていなければならない。 
 城は、自分の頭で、そういう状況判断をして、その通りに行動した。試合後のインタビューで、本人が、そう話している。試合のムードに巻き込まれずに冷静な判断をしたのは、たいしたものである。 
 シュートそのものも、すばらしかった。敵のマークにはさまれながら胸で落として、すばやく足を伸ばして蹴り込んだ。 
 そのテクニックの巧さと速さも、たいしたものだ。 
 こういうプレーヤーを育てているのだから、むやみに高校サッカーの悪口をいうのは慎んだ方がいいかもしれない。


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