アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1994年2月16日号

ビバ!サッカー

ジーコの退場を考える

 Jリーグのチャンピオンシップ第2戦でジーコが退場させられ、4試合の出場停止処分になった。大スターであっても特別扱いしないで毅然と処置をしたのは結構だ。高田静夫主審も、規律委員会も間違っていない。ということを前提としたうえで、今度の事件を考えてみよう。

☆ジーコの夢の計画
 事件の翌日、東京でジーコと一緒にお茶を飲む機会があった。つまり1月17日の午後である。 
 退場事件は話題にしなかったのだか、ご本人は別にどうってことはない、けろっとした様子だった。ちょっと渋い顔をしていたのは、出てきたのが、お気にいりのカフェジーニョじゃなくて、まずいアメリカン・コーヒーだったからだろう。 
 ジーコは、自分が進めているサッカーセンターについて熱心に話をした。 
 この計画については、最近、ジーコが日本で出した本にも書いてあるが、リオデジャネイロの郊外に買った約10万平方メートルの土地を、いま整地していて、今年中にはグラウンドが何面も出来るのだそうである。ここにサッカーのクラブとトレーニングセンターを作って、子どもたちを集めて指導したい、ゆくゆくは日本や米国からも子どもたちのチームに来てもらって、国際的なサッカーキャンプをやりたい、という話だった。
 「いまは自分のお金を使ってやっているが、援助してもらえば、もっともっと施設を充実して、ブラジルの子どもにも、世界の子どもにも役立つようにしたい」 
 前の日に退場処分になるようなことをしたジーコが、翌日にはけろっとして、非常にすばらしい、かっこいい計画を情熱的に話すのを聞くと、日本人であるぼくたちは、これが同じ人間なんだろうか、とちょっと違和感を覚える。たぶんこれは、異文化理解の難しさの一つの例だと思う。

☆三つの行為
 1月16日に東京の国立競技場で行われたサントリー・Jリーグ・チャンピオンシップ第2戦で、ジーコは、三つのことをした。 
 まず、後半16分に、判定に不満を持って主審に何か文句を言い、イエローカードを出された。 
 次に後半36分、カズがペナルティー・キックをけろうとしたときに、つかつかとボールのそばに寄って、上から、つば(唾)を吐きかけた。この行為に対して、主審はまたイエローカードを出し、2枚目だから退場のレッドカードも出した。 
 三つ目に、ジーコは拍手をしながら退場した。なんのために拍手をしたのかは分からない。 
 4日後、Jリーグの規律委員会はジーコを4試合の出場停止にした。 
 主審の判定に抗議したのに対して警告を出したのは当然である。 競技規則第12条の(1)項に該当し、警告を出す場合が四つあげてある中の一つで、世界のどこの国でも行われているサッカーのルールである。 
 ペナルティー・キックをける直前に、ボールに「つば」を吐きかけたのは、ジーコによれば「ジョーク」であって、「ブラジルでは、時としてやること」なんだそうである。 
 ぼくの考えでは。ペナルティー・キックをける直前にペナルティー・エリアの中に突然入ってきてキッカーを惑わせるのは非紳士的行為で、「つば」を吐きかけなくでも警告していいと思う。主審がける合図をしたあと。ペナルティー・エリアに入ってきたのであれば、第14条の公式決定事項(3)の(C)により明らかに警告である。

☆異文化理解の問題?
 さて、ボールに「つば」を吐きかけた行為をどう見るかである。
 規律委員会は「競技規則第12条にもとづく公式決定事項(13)項」によって「乱暴な行為」としで出場停止処分をしたのだという。
 第12条に、退場にするケースが四つ書いてあって、そのなかの一つが 「(n)乱暴な行為」である。
 公式決定事項(13)では「役員、その他の人に向かって、つばを吐きかける行為や、これと同様の見苦しい行為は乱暴な行為とみなされる」となっている。
 ボールに「つば」を吐くのを、人間に対して吐くのと同様の行為と見るかどうかは文化の違いだろうと、ぼくは思う。日本人から見れば「見苦しい行為」だが、ジーコの言葉が本当だとすれば、ブラジルではボールを人間扱いにはしないのだろう。
 拍手しながら退場したのを、規律委員会は「主審に対する侮辱」として出場停止処分の対象にした。
 以前に、ヴェルディのラモスが警告されたときに拍手をしたのを見たことがある。 
 おそらく、ブラジル育ちの人間にとっては「ユーモア」のつもりなんだろうが、ぼくの友人は「けしからん、許せない」といまでもラモスを批判し続けている。これも文化の違いじゃないかと思う。
 サッカーは、世界のスポーツだから、どこの国でも同じルール解釈でやるべきだが、現実には難しい。
 「日本でやってるんだから、日本のやり方に従え」というのは乱暴だろうか? 


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ