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サッカーマガジン 1994年2月2日号

ビバ!サッカー

高校サッカーの戦法

 高校選手権の決勝戦で清水商のあげた2点は、どちらも国見が守備ラインを押し上げてきた裏をついたものだった。こういう戦術的判断をすばやく、巧みに実行できることは、たいしたものだ。高校のプレーヤーの技術レベルも戦術能力も確実に上がってきていると思う。

☆国見の押し上げ
 高校選手権の決勝戦をみて、いきなり、びっくりさせられたのは、国見が守備ラインを猛烈な勢いで押し上げる戦法を何度も繰り返したことだ。前日の準決勝でも国見の試合を見たが、そのときは、それほど、やっていなかったように思う。しかし後で小嶺監督に聞いたら「いつものことで、別に新しい試みではない」ということだった。
 前半11分、清水商の先取点は、この国見の押し上げの裏側をついて生まれた。
 清水商のゴールキーパーの川口がパントキックを前線の中央に大きく上げた。そのボールがハーフラインを越え、国見の守備ラインの背後に飛ぶところへ清水商の中盤プレーヤーの佐藤が走り出てヘディングで落とし、右から走り出ていた1年生の藤元が受けて、ゴールキーパーも飛び出したがらあきのゴールにけり込んだ。 
 記者席で見ていて、これは、たまたま国見がオフサイド・トラップをかけそこない、そこへたまたま、長いパントキックが飛び、そこへたまたま中盤のプレーヤーが走り出たのかと思った。 
 つまり清水商の意図的な攻めではなく、国見の守りの、ちょっと不運なミスだろうと思ったわけである。

☆清水商の決勝点
 後半24分に国見がフリーキックから1−1の同点に追い付き、試合は決勝戦らしく盛り上がった。
 しかし、8分後に清水商が勝ち越し点をあげて、結局、これが決勝点になる。この2点目も国見の押し上げの裏をついたものだった(図)。
 清水商の攻めを国見がはね返して逆襲に出ようとした。そのボールがハーフラインを少し越えたところで競り合いからこぼれ、センターサークルの向こう側にいた清水商の新村にわたった。 
 このとき、国見の守備ラインは、いっせいにハーフライン」近くまで押し上げていた。
  新村がボールをとった瞬間、ハーフライン上にいた鈴木伸は、その裏側を狙ってスタートを切った。 
 新村は、一瞬のうちに、それに応じて、浮き球のパスを、国見の守備ラインとゴールキーパーの中間に落とした。 
 鈴木伸が追い付いてゴールヘまっしぐら。「ゴールキーパーをかわそうと思ったが、ディフェンダーが追いすがってきたのが分かったから思い切ってシュートした」という。見事な決勝ゴールだった。 
 新村がパスを出したとき、国見のディフェンダーが1人、ちょっと上がり遅れていた。そのためにオフサイドにかけられなかった。
 新村が出したパスは、高い浮き球だった。ぎりぎりのタイミングで飛び出した鈴木伸は、ボールが空中に浮かんでいる間に、敵の守備ラインの背後に進出することができた。だからオフサイドにならなかった。

☆一味違う戦術能力
 清水商の2点目をみて、前半の1点目も決して「たまたま」では、なかったことが分かった。清水商の選手たちは、国見の押し上げの裏を意図的に狙ったのである。 
 清水商の大滝雅良監督は、国見が押し上げをよく使うことを知っていたはずだから、この作戦をあらかじめ指示することはできただろう。しかし指示されていても、その通りに巧くやれるものではない。 
 こういうチャンスは、試合中に、突然めぐってくるものである。そのチャンスを、パスを出す方も受ける方も同時に、一瞬のうちに感じとり、打てば響くように行動を起こしてチームの戦法に結びつけなければならない。 
 それができるのは、個人の戦術能力が向上しているからである。 巧みなパスを出し、受けたボールを巧みにコントロールしてシュートを決めるのは、個人の技術である。若い選手たちのボール扱いの技術が上がってきたことは、10年くらい前から明らかになっていた。 
 しかし個人の戦術能力の点では、高校サッカーには問題があると、ぼくは思っていた。今回の試合ぶりを見ると、この点でも希望が見えてきたのではないだろうか。
 少なくとも清水商は、5年前に優勝したときとは、一味違っていたように思う。


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