元日の天皇杯決勝は、フリューゲルスが延長戦のすえアントラーズを6−2で破って初優勝しだ。スコアをみれば熱戦のようだけれど、内容はいま一つ。もめごと、不手際があるなど反省点も多かった。天皇杯決勝は、サッカーの模範になるような美しい試合であってほしい。
☆Jリーグは強いか?
天皇杯はカップ戦である。サッカーでは勝ち抜きのトーナメントをカップ戦と呼んで、番狂わせが起きやすいことになっている。
今回の天皇杯では、前回優勝のマリノスとJリーグ後期優勝のヴェルディが準々決勝で枕を並べて討ち死にして「カップ戦の面白さだ」ということになった。
日産自動車のマリノスと読売クラブのヴェルディが、どちらも決勝に進出しなかったのは、実に11年ぶりのことである。その間に日産(マリノス)は6度も優勝している。それが決勝に出られなかったのだから、歴史的には番狂わせに違いない。
しかし裏返していえば、この10年ほどの間には波乱が少なかった、カップ戦の面白さが機能していなかった、ともいえるわけである。
番狂わせが少なかったのは、他のチームが弱かったからかもしれない。力の差が大き過ぎれば、番狂わせを起こせないからである。
今回のマリノスとヴェルディの敗退は、Jリーグのチームの間に力の差がなくなってきた証拠で、Jリーグがレベルアップに貢献したことを示している――と考えたら、友人が待ったをかけた。
「力の差がなくなったのは、他のチームが、いい外人選手を入れるようになったからで、日本人のレベルアップじゃないだろ」
今回は、外人選手のいるJリーグのチームが、そろって勝ち進み、その点での番狂わせはなかった。
外人がいなくてもJリーグのレベルは高い、と言えるのかどうか?
☆加茂監督の挑戦
フリューゲルスの優勝については加茂監督の力量に敬意を表したい。
決勝戦のあとの記者会見で、加茂監督は「30カ月目でタイトルを一つ取れて良かった」と言っていた。また「選手たちが、あるチームの戦術で試合をしようという考えを理解しているという点では、これ以上ないというところまできた」とも話していた。
つまりフリューゲルス(全日空)の監督になってから、ほぼ3年がかりで「ゾーンプレス」の戦法の狙いを選手たちが理解するようになった、というわけである。
加茂監督が試みている「ゾーンプレス」は、守備ラインを横一線で押し上げ、前線との間を狭くして、その狭い地域のなかで、ボールをもっている敵のプレーヤーに守りの人数を集中し圧力をかける戦法である。
これは1974年のワールドカップの時に、オランダのリヌス・ミケルス監督が用いた「トータル・フットボール」の戦法と同じ狙いで、とくに目新しいものではない。
ミケルス監督の場合は、ヨハン・クライフという天才プレーヤーの攻めの能力を100%生かすために、この戦法が使われていて、その分、他のプレーヤーは苦しい思いをしているところがあった。この戦法の利点は明らかなのだが、使いこなすのは、なかなか難しい。
加茂監督は、この難しい課題に新しいチームで挑戦した。ぼくは、その冒険が最初の成功を収めたことに祝意を表し、1993年度の最優秀監督に加茂周を推薦したいと思う。
☆残念なもめごと
元日の決勝戦は、いい試合にはならなかった。とくに残念だったのは試合内容よりももめごとである。
後半15分過ぎに、フリューゲルスの前園がドリブルで独走したのを、アントラーズの大場が追い掛け、ペナルティー・エリアぎりぎりのところで後から足を引っ掛けて止めた。
岡田正義主審はPKをとった。これに対してアントラーズの選手たちが、主審を取り囲んで、しつように抗議した。これは、まったく良くない。この時点では、主審は誰にも警告を出さなかったが、ぼくが代わって、この誌上で、取り囲んだアントラーズの全員に対してイエローカードを出し、毅然とした態度を示せなかった主審にもイエローカードを出しておく。しつように抗議を続けた、サントスには、そのあとイエローカードが出た。
大場は、点を取られそうな揚面を反則で止めたのだから退場になった。これは当然である。
ところが、アントラーズの選手たちに取り囲まれたために、主審がレッドカードを出すのが、かなり遅れた。そのうえ、大場がフィールドを出ないままPKをけらせようとする不手際もあった。観客には何が何だか、さっぱり分からなかった。
天皇杯は由緒正しい大会である。その決勝戦は、年の初めにふさわしい美しい試合にして、テレビを見ている全国の人びとに、サッカーのすばらしさを伝えるようにしてほしいと思う。
これは日本のトップレベルを担うプレーヤーたちの責務である。
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