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サッカーマガジン 1994年1月19日号

ビバ!サッカー

サッカー大賞はJリーグ 

 ジャジャーン! 月日のたつのは実に早い。またも、かの権威あるビバ!サッカーが歴史に残す「日本サッカー大賞」を選考するときがやってきた。Jリーグ・ブームが文句なしの大賞候補のようだが、素直にチェアマンを表彰するには、ちょっと引っ掛かるところもある。

☆オフト監督に敢闘賞!
 選考委員長としては、内心は、日本代表チームのハンス・オフト監督に大賞を授与したかったのだが、友人たちが反対した。「オフトは昨年の大賞じゃなかったか? アジアカップ優勝があったからな。それに、あの土壇場の同点ゴールはよくない。最後の10秒が持ちこたえられないようでは」 
 最後の10秒じゃない、ビデオで再生して計ってみたら50秒だった、などと言っても仕方がない。 
 ぼくとしては、いいものには2年連続でもいいと主張したいのだが、なにしろ「ドーハの悲劇」の印象が強すぎて、選考委員の友人たちは、ものごとの本当の価値を見定める目を失っている。大勢に抗しがたかったから、今回に限っては権威ある独断は引っ込めることにした。 
 ワールドカップ出場の夢を果たしていれば、オフト監督に2年連続の大賞を与えても、無定見な友人たちは賛成しただろう。 
 しかし、ドーハのアジア最終予選のときのオフト監督の采配については、勝っていたとしても、ぼくは権威ある大賞を授与するほどには評価しない。世界の修羅場をくぐり抜けるには、オフト監督も選手たち同様に経験不足だった。 
 オフト監督の功績は、選手たちの戦術能力を目ざましく改善したところに……と言いかけたら、友人たちに、あっさりと止めを刺された。 
 「分かった、分かった。その議論はサッカー・マガジンで前にも読んだよ。そんなに言うなら、オフトには敢闘賞をやろう」

☆技能賞は博報堂?
 まともに考えれば、今回のグランプリはJリーグで決まりである。 
 独断と偏見が売り物のビバ!サッカーとしては、まともすぎるのは面白くないのだが、一方でまた、長年続いているこの表彰は、日本のサッカーの歴史そのものでもある。 
 試みにバックナンバーをめくり、過去のビバ!サッカーの表彰を並べれば、日本のサッカーの流れが一目で明らかなことが分かるだろう。これは、現実を冷静に見て、かつ未来を先どりする小さな灰色の細胞があるからこそ出来ることである。 
 そういうわけで、多少、まともすぎて面白くはないけれども、日本列島をゆるがしたJリーグ・ブームを受賞記録に残さないわけにはいかないだろう、という結論になった。 
 ここで、もう一つ面白くないのはJリーグが、すでに、いろいろな表彰をもらっていることである。たとえば、1993年度の流行語大賞はJリーグだった。一つの頭に、冠をたくさん重ねるのは本意でない。 
 「Jリーグというネーミングがブームの原動力だったのだから、この言葉を作り出した人間を表彰しようじゃないか」 
 ぼくが提案したら友人が異議を唱えた。 
 「日本の鉄道がJR、日本たばこがJTでね。Jを使ったことにオリジナリティはないんだ。それより、Jリーグを裏で推進し、ブームを演出したのは、大手広告企業の博報堂だというから、博報堂に技能賞をやろうじゃないか」 
 ま、それもいいかもね。

☆ネーミングに殊勲賞
 とはいえ――。 
 すでに流行語大賞をもらったとはいえ、JRやJTの三番煎じだとはいえ、「Jリーグ」というネーミングの効果は、すごかった。やっぱり名付親を捜し出して表彰したい。 
 というわけで「Jリーグ」という名称を考えた人に殊勲賞を出すことにした。われこそは名付親――という個人は名乗り出ていただきたい。 
 ぼくが気に入っているのは、この呼び名で「プロ」という言葉を隠してしまったことである。 
 リーグの正式名称は「日本プロフェッショナル・サッカーリーグ」というらしい。この呼称は、本当はサッカーの精神に反している。世界のサッカーは、プロとアマを差別しないのが本来で、同じクラブ、同じチームのなかにプロ選手もいるし、アマチュアもいる。特別にプロを名乗るのは、実はサッカーらしくない。 
 イングランドのザ・FLも、ドイツのブンデスリーガも、特別にプロとは名乗っていない。かつてアメリカで大がかりに結成されたプロリーグも、名称は北米サッカーリーグ(NASL)で、プロとは名乗っていなかった。プロを名乗った方のリーグは1年でつぶれている。 
 だから「日本プロフェッショナル・サッカーリーグ」という名称は良くないと思っていたのだが、Jリーグという通称がヒットして、プロの方は影に隠れてしまった。
 その点で、このネーミングは殊勲賞にふさわしいと思うわけである。


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