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サッカーマガジン 1994年1月5日&12日号

ビバ!サッカー

トヨタカップのゴール

 今回のトヨタカップは、ちょっと高級だった。ゴール奪い合いの3−1だったから、初めてサッカーを見た人にも結構、楽しめたかもしれないが、一つ一つのゴールの妙味は、見慣れた人でないと分からなかったかもしれない。そこで狭い誌面で不十分ながら、ちょっと解説を!

☆史上最豪華な対決!
 「トヨタカップ史上、今回がもっとも豪華なメンバーじゃないかね」
 国立競技場の記者席で、ぼくがこう言ったら友人が異議を唱えた。 
 「いや、前にきたACミランにはフリットやライカールトがいたし、去年のバルセロナには、クーマンやストイチコフがいた。いままでだって豪華だったよ」 
 それはそうだが、両方が名門同士で、しかもスターが揃っている点では、今回が最高だと、ぼくは思う。 
 ACミランは3年前のワールドカップのイタリア代表を揃え、欧州最優秀選手に選ばれたことのあるフランス代表のパパンも加わっている。 
 一方のFCサンパウロは、ブラジル代表選手のオンパレードで、2度のワールドカップで手腕を発揮した名将テレ・サンターナ監督に率いられている。 
 ともにスターを揃えているだけではない。ともにチームとして世界最高レベルにまとまっていた。 
 そういう両チームが、世界一のタイトルをかけて対決するのだから、厳しい高級な試合になる。 
 12月12日、東京・国立競技場での試合は予想どおり、技術的に非常に高度で、戦術的に非常に厳しいものだった。特に前半は緊迫した見応えのある試合だった。 
 ACミランは、立ち上がりから激しく守り、すばやく攻め込む。前半のシュート数は8−1である。 
 しかし、サンパウロは守備ラインをしっかりと固めて崩れなかった。ACミランのシュートは、ほとんど外側からのロングシュートである。

☆サンパウロの先取点 
 サンパウロは前半19分、ただ1回のチャンスをゴールに結びつけた。この攻撃が非常にすばらしかった。 
 ACミランが左サイドに出したボールを、右のサイドバックのカフーがとった。
 カフーは、敵のプレーヤーの頭越しに、ぽんと、ボールを浮かせて抜いて攻め上がり、ハーフライン近くで内側の味方に渡して、そのまま右サイドを前線に進出した。 
 しかし、ボールは進出したカフーには戻ってこないで、逆に左サイドに出た。 
 カフーは前線で立ち止まって様子を見たが、ボールが左のサイドバックのアンドレに渡ったのを見ると、右のタッチラインの方に、ぐっと開いた。 
 この動きはテレビの画面には映っていないが、ぼくは、たまたまカフーの進出のあとを追って見ていたので、カフーの戦術的判断力を示す動きを目撃することができた。 
 驚いたことに、ボールをとったアンドレは、ドリブルで前に出ながら、はるか逆サイドにいるカフーの動きを見ており、その意図を読み取っていた。 
 アンドレは、大きなサイドチェンジのパスをカフーに送り、そのセンタリングからゴールが生まれた。 
 サンパウロの選手たちは、この試合最初の、そして前半では、ただ1度のチャンスに、全員が攻めあがった。「ここがチャンスだ」と感じとるセンスを、みんながもっている。そこがブラジルらしい、すばらしさである。

☆後半の4点も見事
 後半は点の取り合いになって、合わせて4点も入った。緊迫した守りの試合になるだろうと思っていたので、これは予想外だったが、テレビを見ているお客さんには、ゴールシーンの連続が面白かっただろう。 
 ACミランの最初の同点ゴールは、高い浮き球を守備ラインの裏に落としてオフサイドにならないように攻めたものだった。2度目の同点ゴールは、マッサーロが巧みな動きで敵のマークを外し、後に目があるような的確なバック・ヘディングでアシストしたのが見事だった。
 サンパウロの後半の2点は、個人技の高さが光っていた。
 残り4分の決勝点は、トニーニョ・セレーゾのパスの殊勲である。 
 守りの裏側へ走り出たミューレルと、飛び出してくるゴールキーパーの中間のぎりぎりのところにボールが出た。キーパーが止めたかに見えたが、ミューレルに跳ね返ったボールが無人のゴールに入った。  
 ACミランのカペロ監督は「あれは事故だ」といっていたが、事故が起きるような、ぎりぎりの勝負球を出すところにブラジルのサッカーの真骨頂がある。 


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