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サッカーマガジン 1993年11月17日号

ビバ!サッカー

オフト監督の明と暗

 日本の決勝大会進出が、どたん場で幻になろうとは、いまでも信じられない気持である。カタールで開かれたワールドカップのアジア最終予選。難敵の韓国に1−0で快勝したのは、オフト監督が積み上げた個人の戦術能力の開発が実ったものだったが、初出場の夢が実現しなかったのは、終わってみれば、オフト監督の作戦と用兵の失敗だったのかもしれない。

☆対韓国戦の選手起用
 韓国との試合の前の3日間、オフ卜監督が、どういう選手起用をするかが、プレスセンターでの関心の的だった。
 一つのポイントは、21日の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との試合で、森保がイエローカードをもらい、1次予選のときのとあわせて警告2回で1試合出場停止になったことだった。
 森保は中盤の守りのかなめだ。ここに誰を代わりにもってくるかは、難しい選択である。 
 三浦泰年(ヤス)を起用して、吉田とともに中盤の底に並べるだろうという見方があった。守りを厚くして逆襲を狙い、ラモスは中盤の前の方で攻めを組立てるという作戦である。
 ぼくの考えは違っていた。オフト監督は、ラモスを中盤の底に下げ、守備ラインを押し上げて戦うだろうと予想した。これは、前年のアジアカップのとき、やはり森保が出場停止だった対サウジアラビア戦で試みたことのある布陣で、ある程度、信頼できることが証明済みである。
 ラモスを下げると、ラモスをマークするであろう韓国の守りのエースの辛弘基が、前へ引き出される。そうなれば、その裏にできるスペースを日本がつくことができる。それも狙いである。
 蓋をあけてみたら、中盤の底はラモスだった。オフト監督の狙い通りで、辛弘基がラモスをマークして前に出てきた。そのために韓国は中盤の守りのかなめを失い、また後方からの長いパスの起点を失った。

☆中山の先発起用
 対韓国戦の選手起用の、もう一つのポイントは、攻撃のトップに高木を使うか、中山を使うかだった。
 高木は、オフト日本代表のなかでずっとカズと並べて使われてきた。ヘディングを生かして得点もあげたし、最前線のターゲットマンとしてパスを受け、チャンスを作る役割を果たしてきた。
 しかし、第2戦でイーブンに負けた試合でイエローカードをもらったために、通算警告2回となり、第3戦の北朝鮮との試合には出られなくたった。そのため、対北朝鮮戦では、やむなく、高木の代わりに中山が先発出場した。
 中山は、これまでは後半に起死回生の切り札として使われたスーパーサブである。対イラン戦でも、後半残り15分に出場し2−0にされたあと終了間際にゴールラインぎりぎりから、ゴールポストとゴールキーパーの隙間を狙って1点を返している。こういうゴールへの執念と闘志が身上である。北朝鮮との試合では2点目をあげ3−0の勝利に貢献した。 
 韓国との試合では、高木も使えるし、中山も使える。
 ぼくは「これまでのオフトの考え方に戻るだろう」と予想した。つまり高木が先発で、後半に同点のままだったり、リードされたりしていたら中山を送り込むだろうと思ったわけである。
 応援にきている日本のファンの中には、中山先発を望む声が強いようだった。短期決戦では勢いがあり、ついている選手を使うのも常道だから、これも一つの考え方である。

☆賭けの明暗
 韓国戦の最前線は中山だった。これは予想が外れた。
 オフト監督が、これまで1年間やってきた方針を変えたのは、一つの賭けだったと思う。 
 韓国戦では、賭けは成功した。38年間にわたって日本のサッカーを取材してきたが、これほど見事に韓国に完勝した試合を見たのは、はじめてだ。技術も日本がよかったし、個人の戦術能力は明らかに日本が上回っていた。
 あとは最終戦のイラクである。
 この試合では、もとに戻って高木を使うだろうと、ぼくは予想した。
 韓国戦の日本は、追い込まれている立場だったから、あえて賭けに出る必要があった。しかし最終戦は。相手のイラクの方が、少なくとも2点以上あげて勝たなければならない立場に追い込まれていた。日本は手慣れた布陣で、まともに取り組み、攻めに出てくるイラクの裏をつけばいいと考えた。 
 しかし、ここでも、ぼくの予想は外れた。先発は、また中山だった。 
 大会中には外部に明かせない内部事情があることも多い。だから、いまここでオフト監督の選手起用が失敗だったと断言するつもりはない。 
 ただ、大会が終わったばかりのいま、イラン戦はオフト監督の作戦、韓国戦はオフト監督の賭け、イラク戦はオフト監督の用兵が明暗を分けたのではないかと、ぼくは推測している。 
 オフト監督の功罪については、もう少し冷静になってから考えて、改めて報告することにしよう。  


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