うすい土色にかすんだ白い地平線と同じ白茶の家並みに、じりじりと太陽が照りつける。ドーハは砂漠の町である。苛酷な条件の中での日本代表の戦いぶりを見届けようとカタールのワールドカップ最終予選に来た。試合は太陽がかげった夕方からで、予想されたほどの暑さではないが、日本代表の出足は思わしくない。カタール発のビバ!サッカー第1報は、残念ながらハッピーはない。
☆ボールは丸い!
砂漠の彼方から朝日が昇り、砂漠の彼方ヘ夕陽が落ちる。その真ん中にカリファ・スタジアムがある。日本代表チームがワールドカップヘ進出する歴史的瞬間を見たいと、この、カタールへやって来た。
2枚のアメリカ行きの切符をめざして集まったのは6チーム。地の利は、燃える太陽に慣れた中東の3チームにあるが、遠征の東アジアの3チームにも、チャンスは十分ある。実力の差は紙一重といっていい。
6チームがそれぞれ1試合ずつ終わった時点では「日本、サウジアラビア、韓国がわずかに優り、イランとイラクがつづき、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、やや劣る」というのが、ぼくの印象だった。
北朝鮮は、イラクに3対2で劇的な大逆転を演じている。それを低く見るのは、おかしいと思われるだろうが、これはチームの潜在能力を推測しての話である。
北朝鮮は力を振りしぼって戦ったが、これが精一杯とみえた。このチームの欠点は一人一人の戦術的判断が遅いことである。ボールが来てからパスを出す先を探している。あるいは、あらかじめ決め込んだ方向に不正確なパスを出す。この点では、数年前までのアジアのサッカーのレベルに留まっているようにみえた。
イランとイラクは、初戦の黒星にがっくりとならなければ、気候には慣れているし、今後、立ち直って本来の力を出す可能性はある。
いずれにしても、ボールは丸い。サッカーの勝負は、どちらに転ぶかは、あらかじめは分からない
☆日本代表への不安
日本は初戦でサウジアラビアと0対0だった。結果としては、引き分けは悪くない。むしろ、おあつらえ向きである。
力の接近したチームが集まった大会では、第1戦は慎重に戦うのがふつうである。雰囲気に慣れていないし、相手の手の内も分からない。また、注目されている中で、こちらのすべてを出し尽くすことはない。
サウジアラビアは、明らかに引き分け狙いを念頭においていた。もともと守備が強くて、なかなか攻めに出ないチームだが、この試合でも4人の守備ラインの前に2人の守備的な中盤プレーヤーを置き、ゾーンの守りのつなぎ目を巧みにカバーしていた。強力なシュート力をもつオワイランも引き気味だった。
その厚い守りを、日本はよく攻めて、いい形もあったのだがゴールキーパーのアルディアイエが、すばらしい守りで防いだ。この試合の最優秀選手には、日本のラモスが選ばれたが、本当はアルディアイエが選ばれるべきだった。
日本にとっても、引き分けは悪くない。敵の地元で戦っているようなものだから、なおさらである。
ただ、ちょっと不安を感じたのは、日本はサウジと違って、引き分けを念頭に置きながら引き分けたのではなく、勝ちにいったが引き分けにされたような感じだったことである。
試合後の記者会見でオフト監督は「初戦だから注意深く戦った」と、サウジのブラジル人の監督、カンディードと同じことをいっていたが、顔色はさえなかった。
☆イラン戦のショックは?
日本は、第2戦でイランに1−2で敗れた。ボールはどっちに転んでも、おかしくない。また実力接近の大会で、2位までアメリカへの出場権を得られるのだから、1敗ぐらいは覚悟しなければならない。ただ、負けっぷりのなかに不安を感じさせる材料があった。
それは、オフト監督の指揮にはじめて、かげりが見えたことである。
イランは、初戦で韓国に3−0と完敗している。慎重に戦おうとして消極的になり、そこへ体調十分の韓国がスピードを生かした攻めをかけて大差になった。速い浮き球の直線的な攻めに、守備陣がコーナーキックに逃れる場面が多く、ゴールキーパーはパンチミスを繰り返した。
第2戦では、やり方を変えて積極的にくるだろうことは、十分想像できた。しかし、韓国戦でみせたイランの守りの欠陥は、日本にとっても参考になるはずである。
ところが前半の日本は、低いパスを早くつないで、相手の守りのなかへ下から突っ込む攻めに固執した。敵の方が背が高いことを考えれば、それはそれで一つの手だが、前の試合のときのイランの守りの欠陥を考えれば、サイドからえぐって速いボールをゴール前へ送る攻めも織り混ぜて、敵を脅かすべきだったのではないか。しかし、そういう攻めが出たのは、リードされたあとの後半からである。
この敗戦のショックが、選手の気持だけでなく、オフト監督の頭脳に尾を引かないようにと、これは祈るような気持である。
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