アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1993年10月27日号

ビバ!サッカー

AA選手権の成果

 アジア・アフリカの国を、発展途上の地域としてAA諸国と呼ぶことがある。10月4日に東京国立競技場で行われたアジア・アフリカ選手権は、サッカーでも発展途上のAA選手権だった。日本が延長戦のすえコートジボアールに勝ち、カタール決戦への壮行を飾った。

☆オフト監督の用兵
 チアホーンを使わないで見事な応援を展開した大観衆に驚嘆した!
 日本代表チームが順調に70%まで仕上がっているのに安心した!
 守りの要(かなめ)の柱谷哲二の復帰が心強かった!
 アジア・アフリカ選手権の感想をまとめると、こんなふうである。
 試合を振り返ってみよう。
 日本代表の布陣は、昨年の広島アジア選手権(アジアカップ)、4月のワールドカップ1次予選の時と同じだった。ただ左サイドバックには、ケガが治り切っていない都並に代わって三浦泰年(やすとし)が起用された。ヤストシは、この試合の直前に急に日本代表に加えられ、もともとは右サイドのプレーヤーだが左サイドにまわして使われた。これはハンス・オフト監督の思い切った用兵である。
 オフト監督は「1年間、いっしょにやってきたメンバーを変える必要はない」と前から言っていた。その方針をちゃんと実行している。
 しかし、都並の代わりに誰を起用するかは問題だった。都並はカタールでの第1戦、サウジアラビアとの試合には、1次予選のときの警告が重なっていて出場停止である。だから、復調するにしても代わりが必要だった。ここに、これまでメンバーに入っていなかったヤストシを、いきなり起用したのは決断である。
 信頼しているチームは変えない。しかし、変えなければならないところには思い切った手を打つ。
 「オフト監督は自信をもって仕事をしているな」と思った。

☆仕上がりは順調だ
 試合の前半を見て「日本代表は順調に70%まで仕上がっているな」と思った。
 なぜ、そう思ったか。
 コートジボアールは、守りのいいチームだった。
 中盤から、しっかりマークをつかみ、ボールをとった相手に対する詰めがはやい。
 そのため日本は、敵が詰めてくる前に、中盤でも球離れをよくする必要があった。
 したがって、日本がダイレクトで素早くパスをつなぐ場面が多かった。 
 そのダイレクトパスが、かなり的確に、いい位置に出た味方につながっていた。
 こういうプレーには、体の動きの素早さだけでなく、頭の回転の素早さが必要である。また味方とのコンビネーション、つまり呼吸の合わせ方の素早さが必要である。 
 こういう素早さは、個人としてもチームとしても調子が良くないと出てこない。 
 前半の日本代表には、その素早さが出ていたので「うむ。70%は復調しているな」と見たわけである。 
 「70%程度じゃ困るよ」と例の友人は言うに違いない。なにしろ40%くらいで十分だったスペイン・キャンプのときに、練習試合で3連敗したといって落ち込んだくらい、分かっていないのだから。  だが、100%になるのはカタールに行ってからでいいので、あまり早くからピークに到達しては困る。だから70%は「順調」なのである。

☆心強い柱谷の復帰
 仕上がりが順調すぎて逆に心配になったのは、復帰の柱谷だ。
 柱谷は「悪性のカゼ」ということで1カ月も入院し、スペイン・キャンプにも参加しなかった。日本代表に合流したのは2日前だという。
 いきなりフル出場は無理だから、前半だけで交代するのかと思っていたら、結局、延長を含めて120分間プレーした。前半は落ち着いて周りをよく動かしていたが、0−0が続くにつれて自分でも頑張りだしたので、無理をしすぎないようにと、はらはらした。ともあれ、日本代表が最後まで持ちこたえたのは、柱谷が戻ったおかげである。
 この試合は、カタール決戦に備えて士気を盛り上げるために勝っておきたい試合だったと同時に、アジア・アフリカの公式の選手権としてタイトルを真剣に狙わなければならない試合でもあった。
 選手たちも、それを意識していたようで、後半は、前線は点を取るために前へ前へと出ようとし、守備ラインは点を取られないように後へ後へと下がり気味になり、前線と守備ラインの間が広がりすぎていた。 
 その欠点を延長に入るときに修正して、延長後は、ヤストシが左から積極的に攻め上がるようにした。延長後半11分のカズの決勝点は、その狙いが実ったものである。この作戦の成功もあざやかだった。
 それまでは、カタールでの勝算は50−50くらいだと思っていたが、この試合を見て、米国行きの確率は60%以上になったんじゃないかと、夢がふくらんできた。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ