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サッカーマガジン 1993年10月20日号

ビバ!サッカー

さあ!カタール決戦!

 いよいよ日本代表チームの正念場だ。10月15日からのカタール決戦!2枚の米国行きの切符をめざして、アジアの6強がワールドカップ最終予選を争う。スペイン・キャンプの成果はあったのか? 戦いのポイントは何か? オフト監督に勝算はあるのか?

■スペインでの狙いは?
 「日本代表は、がたがたなんじゃないのか? 3連敗はひどいよ。相手はスペイン2部リーグの弱いチームだったそうじゃないか?」
 友人は、あいもかわらず、目先の現象に一喜一憂している。
 オフト監督率いる日本代表チームが、カタールでのワールドカップ・アジア最終予選を前にスペインでキャンプをした。そのときの練習試合の結果をみて、たちまち悲観的になってしまったわけだ。練習試合の勝敗なんて、本番の成績とは何の関係もないのだが、分かっていない。
 スペイン・キャンプの狙いは、三つあったと思う。
 一つはJリーグの激しい試合の疲れをいやすことである。つまり休養である。このために、わざわざ、ファンやマスコミの雑音を避けてスペインのリゾート地まで出かけたはずである。休養中の練習試合で勝てなくたって、どうってことはない。
 二番目の狙いは、前年に北京のダイナスティ・カップで勝ち、続いで広島のアジアカップに勝ったときのチームのまとまりを取り戻すことである。スペインで新しいことを付け加えようというのではない。元へ戻すのが目的である。もともとアジアのチャンピオンなのだから、練習試合の成績なんて関係ない。
 三つ目の狙いは、何人かの新しいメンバーをテストしてみることである。テストなんだから、うまくいかなくても当たり前である。だから結果なんか気にすることはない。
 友人の心配は見当違いである。

■リラックスと油断
 「だけどなあ。スペイン・キャンプのテレビを見たら、選手たちの顔に締まりがなかったよ。スポーツ新聞には、海岸でビキニの美人と一緒に水着姿で遊んでいる写真が載ってたし……。リラックスはいいけど本番までにピシッとなるだろうか」
 なるほど、それは確かに大切なポイントである。スペインでリラックスして、国内リーグの緊張を解きほぐす必要はあったけれど、いつまでもイージーな気分では困る。       
 「ゆるめたタガを締め直すのは大変だけど、一度ゆるめないと、しっかり締め直すことは出来ないんだ」
 と、ぼくは説明した。スペインから帰国した後、出発までの日本でのキャンプで、本番への集中力を盛り上げなければならない。この2週間の間に締め直しが出来るかどうか。これはオフト監督と清雲コーチの腕の見せどころである。
 「第1戦がサウジアラビア、第2戦はイラン、第3戦が朝鮮民主主義人民共和国だ。これは日本に有利な順番だね」
 友人は分かったような説を述べたが、どうせ誰かの受け売りである。最初の3戦の相手は、みな前年のダイナスティ・カップかアジアカップで対戦して勝っている相手だから、やりやすいというわけだ。
 たしかに見知らぬ強敵といきなり当たるよりは、気分的に楽である。
 しかし敵も、こちらの手の内を知って対策を立ててくるに違いない。お互いさまだ。
 リラックスはいいが、油断は大敵である。

■カギは柱谷の復帰
 第1戦のサウジアラビアが、まず関門だと、ぼくは思う。
 アジアカップで勝っているから、と甘く見てはいけない。広島で行われたアジアカップは、日本の地元だった。今度のカタールは、地図を見れば分かるが、サウジアラビアの地元のようなものだ。気候と時差の影響は、日本に不利である。
 ここで問題は、守りの要の柱谷哲二が完調で復帰できるかどうかだ。
 柱谷は病気で入院して、スペイン・キャンプに参加できなかった。
 そこでオフト監督は、柱谷のいない守備ラインを、いろいろ試してみたらしい。しかし、現代のサッカーでは、リーダーのいない守備ラインで試合をするのは難しい。
 スペインに行って見たわけではないが、ぼくの超遠視能力で察するところ、練習試合3連敗の失点の原因は、一人一人の守備能力の弱さからではなく、守備ライン全体が判断を誤って、オフサイドぎりぎりの攻めや速攻の逆襲を防ぎきれなかったのではないか。つまり柱谷のリーダーシップがあれば、防ぐことの出来た失点だったのではないか。
 日本代表のスペイン遠征中、柱谷はヴェルディといっしょに、よみうりランドで練習していた。ヴェルディの関係者の話によると「調子は上向きになっていた。間に合うんじゃないか」ということだった。
 10月15日、カタールの首都ドーハの競技場のフィールドに、柱谷哲二が立っていることを祈りたい。日本が米国行きの切符を手にできるかどうか。これが最大のカギである。


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