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サッカーマガジン 1993年7月15日号

ビバ!サッカー

オフサイドの判定

 激しいつばぜり合いのJリーグで、審判の微妙な判定が勝負を左右するケースが出てきている。とくにコンパクトな布陣で、オフサイド・トラップを多用するチームが増えてきているので、オフサイドの判定は審判員にとって苛酷なくらい難しくなってきた。釜本監督を怒らせたヴェルディ対ガンバの試合のカズの決勝ゴール。あの判定と処置はどうだっただろうか?

☆カズの決勝ゴール
 Jリーグ前期の折り返し点、6月16日に川崎・等々力競技場で行われたヴェルディ川崎とガンバ大阪の試合でカズのあげたサドンデスの決勝ゴールが「オフサイドじゃないか」と話題になった。ガンバの釜本監督が「テレビを見てくれ」と血相を変えて叫んでいるのが、そのテレビで大写しになっていた。 
 オフサイドかどうかは、ビデオで判定するわけではない。その場での審判員の決定が最終的なもので、ビデオに違うように映っていても判定が覆るわけではない。
 そんなことは釜本監督だって百も承知だが、現場を預かる身になっては、そうそう冷静ではいられないのだろう。
  ところで、この場面はビデオで繰り返し見てみても、オフサイドかどうかは、よくわからない。左から武田のあげたボールが正面右寄りに進出した菊原に渡る。そのとき、ガンバの守備ラインは横一線である。 
 菊原がボールを受けたとき、カズはガンバの横一線のラインの間に割って入る。カズの傍にいたガンバのディフェンダーの森川は、菊原のシュートを止めようと前に出る。菊原がパスを出した瞬間に、カズと森川の関係だけをみれば、カズはオフサイドである。 
 しかし、守備ラインの他のディフェンダーは、ほとんどカズと同じライン上にいる。テレビカメラの角度は真横ではないので厳密には分からないが、オフサイドでないように見える。

☆危険なトラップ
 要するにビデオで見ても非常に微妙である。いずれにせよ、いちばんよい位置で見ていたはずの線審の判定を信ずるほかはない。 
 いまJリーグでは、多くのチームがヨーロッパ風の「コンパクトなサッカー」をしている。お互いに守備ラインを横一線で前へあげ、前線は下がってきて、縦幅15〜20メートルくらいの狭い地域の中でせめぎあう。攻撃側が、その中から縦に抜け出そうとすると守備側はラインをあげてオフサイドにかけようとする。 
 このオフサイド・トラップは、攻める方にとって非常に攻めにくい一方で、守る方にとっても危険をともなう。常にぎりぎりのところでオフサイドにかけようとするので、もし線審が旗をあげてくれなければ非常なピンチになるからである。 
 カズの決勝ゴールの場面がそうだった。ビデオで見ても明確でないくらい微妙な状況だから、線審がオフサイドを認めてくれなくても、やむを得ない。ゴール前で非常な危険をともなう守り方をしたところに、ガンバの側の問題があった。 
 ややこしかったのは、菊原のけったボールが森川の頭に当たってから、カズに渡ったことである。しかしオフサイドかどうかは、菊原がボールをけった瞬間に決まるので、その後にディフェンダーに当たっても現在のルール解釈では、関係ない。

☆無用なコメント
 さて、このようなケースが起きると、われわれジャーナリストは審判員のところに話を聞きに行く。その場合「審判員は答えてはいけない」というのが、ぼくの年来の主張である。質問をする者が相手に「答えちゃいけない」というのは矛盾しているが、これは記者の仕事の建前と審判員の在り方の建前が矛盾するのだから仕方ない。 
 カズの決勝ゴールの場合、主審も線審も記者の質問に答えなかったらしい。これはよろしい。 
 代わって試合を監察しているコミッサリーが説明したようだが、これが、ちょっと問題だった。 
 「線審がオフサイドでないと判定したのだからオフサイドではない」と建前だけを言えば良かったのだが
 「テレビで見るとオフサイドのようだね」と話したらしい。直接聞いた話ではないが、事実とすれば余分なコメントで適切ではない。
 「主観的なことを述べないように」とJリーグがコミッサリーに注意したと新聞には出ていたが、この処置は正しいと思う。こういうものの考え方は、Jリーグによって、かなり改善されたと、ぼくは感心している。
 ただし、コンパクトなサッカーの流行で、オフサイドの判定は非常に難しくなっているのだから、審判部の方は、その対策を十分に検討してもらいたい。


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