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サッカーマガジン 1993年7月8日号

ビバ!サッカー

Jリーグのブームはいつまで?

 「Jリーグ・ブームはいつまでもつかね?」――サッカーに関係のない友人から、こういう質問をよく受ける。半ばはやっかみ、半ばは率直な疑問である。ぼくの答えは「ブームは、せいぜい3年だろう。でもバブルがはじけても、サッカーは続くよ」。あまりにも順調な船出に、ちょっと浮かれているところがないか? 「Jリーグよ、おごるなかれ」と自戒を含めて、警告しておく必要がありそうだ。

☆みごとなPR作戦
 Jリーグが勢いよく走りだした。ファンも、マスコミも負けず劣らず一緒に走っている。突然「一億総サッカー」になって、恐いみたいだ。
 このJリーグ・ブームを作り出した本当の演出家を探しだして、今年の末のビバ!サッカー選定「日本サッカー大賞」で、ぜひ表彰したい。それは日本サッカー協会の島田会長ではなく、Jリーグの川淵チェアマンでもなく、竹中半兵衛か諸葛孔明みたいな人物、あるいは団体ではないだろうか? 
 Jリーグ・ブームは、現代の広告企業の新しい手法の典型的な、またみごとな成功である。 
 たとえば日本のPRマンが「メディア・ミックス」と称している手法がある。
 現代の宣伝は、新聞に広告を出したり、テレビにコマーシャルを出したりするだけでは不十分である。そのほか雑誌や出版やラジオや電車の中吊りなど、いろいろな媒体に宣伝費を分散して注ぎ込む。それが、お互いにこだまして大きな相乗効果と波及効果を生む、そういう手法を意識的に使っている。 
 また「マルチ・クライアント」と称している手法がある。 
 一つのイベントに、いろいろなスポンサーをつける。これもスポンサー同士の競争や相乗効果で、単なる足し算ではない宣伝効果をあげる。 
 Jリーグは、そのような、あの手この手のPR手法を駆使しているが「それにしても、みごとにブームを作り上げたもんだ」と、ぼくは、ほとほと感心している。

☆基礎部分を増やそう
 みごとに演出されたJリーグ・ブームだが、「作られたブームは3年だけ」という言葉がある。これもPR業界の人びとの常識? だそうだ。
 F1ブームも3年だった。大相撲の若貴ブームも3年だろうという。芸能界でタレントのはなやかな時代は3年間だそうだ。現代は、盛り上がるのも、忘れられるのもはやい。 
 しかし、お相撲さんでも芸能人でも、人気におぼれないで実力を蓄えた人は、ブームが去ったあともプロのスポーツマンとして、あるいは俳優として立派に活躍している。
 日本のサッカーもJリーグ人気に惑わされることなく、実力の部分をしっかりと伸ばして欲しい。
 テレビの視聴率でも、観客動員でも、Jリーグ人気にはバブルの部分がたくさんある。しかし一方で、サッカー人気の底に、しっかりした基礎の部分があることも間違いない。
  たとえば全国の少年たちのサッカー人口は、過去30年の間、確実に伸び続けてきている。これは確固とした基礎である。 
 28年にわたって、スター選手の紹介ばかりでなく、堅い技術や戦術の記事も掲載してくれている「サッカー・マガジン」も地道な基礎の部分である。 
 バブルがはじけたあとも、このような基礎の部分は必ず残るだろう。 
 とはいえ、残った基礎の部分の大きさが前と同じでは、ブームの意味がない。前よりもずっと大きな基礎が残るように、Jリーグ・ブームの間に、基礎の部分をさらに成長させるように努力したいものである。

☆関西の基礎はまだ?
 東京の新聞社勤めをやめて、兵庫県加古川市の兵庫女子短期大学に勤めることになったので、いまは平均週に1度くらい、関東と関西を往復している。新幹線往復業である。
 そこで気が付いたのだが、関東と関西では、Jリーグ・ブームには変わりはないが、基礎部分に、かなりの違いがある。
 勤めている大学は、若い女子学生で活気にあふれている。環境がすばらしいことは前にも書いたが、学生たちもバラエティに富んでいて、すばらしい。 
 その中には、サッカーの好きな学生もかなりいる。ヴェルディのファンが多く、カズ、北沢、ラモスが人気がある。関西だからガンバ大阪が2番人気で永島ファンもいる。
 というわけで、東京と変わらないJリーグ人気だが、電車の窓から見ていると、学校の校庭や空き地でサッカーをやっている風景は、あまり見かけない。首都圏周辺では野球よりサッカーの方が多いけれども、関西では野球の方が多い。つまり基礎の部分は、まだまだのようだ。 
 ファン獲得の努力も、プロ野球の方がJリーグをしのいでいる。わが大学には、地元神戸のブルーウェーブが働きかけてきて空席のある時に「女子大生無料招待」というサービスをやってくれている。 
 ガンバの方は、親会社の松下電器の縁で電器店にポスターが貼ってあるぐらいである。 
 入場券が手に入らないほどのブームのときこそ、新しいファンを獲得する地道な努力が必要なのではないかと考えた。


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