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サッカーマガジン 1993年6月13日号

ビバ!サッカー

W杯予選、アジアを侮るな

 ワールドカップ第1次予選アジアF組の第1ラウンドを日本は4戦全勝で突破した。日本のファンの目の前で見せてくれた勝ちっぷりは見事だった。しかし、ここまでは地元での勝利である。これからはアウェーでの厳しい戦いが続くだろう。勝利に酔ってアジアのサッカーを侮ってはならない。

☆長生きしてよかった
 「いやあ、お前も長生きしていてよかったなあ」 
 4月18日の東京・国立競技場で友人が、ぼくをからかった。日本代表が、アラブ首長国連邦(UAE)に2−0で勝った試合の後である。 
 「それほどの歳じゃないぞ」と反撃したかったのだが、本当のことを言われたような気もしたから、「まったくだよ」と逆らわずにおいた。
 たしかに長い年月だった。ぼくが新聞記者になったのが1956年。それから35年以上にわたって、日本のサッカーを「ああしろ」「こうしろ」といい続けてきた。サッカー・マガジンには創刊準備号以来、28年にわたって書き続けてきた。
 「それが実って」と書くと、若い友人が「またか」と、顔をしかめるだろうが、本当に、いま日本のサッカーがやっていることは、ぼくたちサッカー好きのジャーナリストが、繰り返し主張し続けてきたことである。うそだと思ったらバックナンバーや縮刷版を繰って読み返してみてもらいたい。 
 ともあれ「外人監督に任せてみよう」とか「個人の技術と戦術能力を重要視しよう」などと主張し続けてきたのが、オフト監督の起用で、ようやくその通りになり、その結果、日本は、今回のワールドカップ1次予選で地元での第1ラウンドを全勝で飾ることが出来た。 
 日本のサッカーの見事な勝ちっぷりを目のあたりにすることが出来て「長生きしてよかった」と思っただけでなく、「憎まれ口をきき続けたかいがあった」と思ったわけである。

☆地元の勝利が第1歩 
 「そんなに、はしゃいでいいのかね。まだ地元で勝っただけだぞ」 
 友人が、めずらしく冷静な意見を述べた。 
 その通り。このあとUAEで第2ラウンドがあり、それに勝っても2次予選がある。道はまだまだ遠い。 
 しかし「地元で勝てる」ことが証明されただけでも、すばらしいではないか。サッカーでは、ホーム・アンド・アウェーの試合が原則で、まず地元で勝つのが第一歩である。地元で勝って、地元のファンを感動させることから、大衆のスポーツとしてのサッカーがはじまる。まず地元で勝つこと――。千里の道も一歩からである。 
 オフト監督は「第1戦のタイとの試合が、いちばん難しいだろう」と言っていた。敵は守りを固めてくるに違いないが、地元チームとしては必ず勝ちにいかなければならない。しかし敵に逆襲からのゴールを許してはならない。そういう試合を、井原、柱谷を中心とする守備陣の頑張りでしのぎ、1対0で勝った。 
 格下のスリランカ、バングラデシュに対しては、今後、得失点差がものをいうケースを考えて大量点を狙う必要があった。これも狙い通りになった。
  最後のUAEとの試合は、第2ラウンドでは相手に地元の利があることを考えると、2点以上の差をつけておきたいところだった。これも、まったくその通りに、2対0の勝ちになった。 
 第1ラウンドは、地元での戦いとして、まさに計算通りだった。

☆アウェーでの戦いは?
 地元で勝って、まずは万歳だが、次にはもちろん、アウェーでも勝って、アジアのチャンピオンの実力を示してもらいたい。しかし、敵の地元へ行って楽に勝てるほどアジアのサッカーも甘くないはずである。 
 今回のタイは、日本と対戦したとき、11人のなかに20歳以下の選手が5人もいた。トップのキャティサは16歳、サマンは19歳、中盤の底からすばやい攻めを組み立てたタワチャイは17歳である。攻めは、オリンピック・チームから引き上げた若手で構成していた。 
 タイにとっては、地元チームを相手にしての第1戦だったから、まず守りを固めなければならなかった。そこで27歳のナティを中心に、守る方はベテランで構成していた。それでも5人の守備ラインのなかのシリサクは18歳である。そのシリサクは後半6分にラモスに抜かれそうになるとファウルで倒して警告を受けた。したたかである。 
 日本が前半29分のカズのゴールを守って辛勝したけれども、タイの攻守が、なかなかのものだったことは誰でも認めるだろう。若い選手が、たくましく伸びていけば将来は、相当なチームになるかもしれない。 
 今年のタイは、ワールドカップ予選よりも、シンガポールで開かれる東南アジア競技大会を目標にしている。それでいて、あれだけの試合をするのだから侮れない。 
 地元での日本の勝利は万歳だ。しかしアジアを侮ってはいけない。これが今回のワールドカップ予選を見た、ぼくの総まとめである。


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