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サッカーマガジン 1993年4月4日号

ビバ!サッカー

W杯予選、UAEを侮るな!

 ワールドカップ予選が近づいた。ハンス・オフト監督の率いる日本代表は、イタリアでのキャンプ、キリンカップでの腕試し、沖縄合宿での仕上げへと周到に準備を進めている。ファンの期待はふくらむ一方だ。 
 しかし敵を軽く見ることは出来ない。アジアカップはホームグラウンドでの優勝だったが、今度は敵地での試合もある。とくに新監督を迎えたアラブ首長国連邦(UAE)は警戒しなければならない。

第1戦は神戸、なぜ?
 日本のサッカー界に楽観ムードが満ちあふれているので、気の小さいぼくは空恐しくなっている。 
 「日本がワールドカップに出るなんて歴史的快挙だからな。おれは、その過程を全部見るぞ。5月にはアラブ首長国連邦に予選を見に行くために休暇もとったし、飛行機も抑えた。楽しみだなあ」 
 友人は浮き浮きしている。 
 ああ、しかし――。
 ぼくの見るところ、ワールドカップへの道は、そんなに簡単ではない。 
 アジア地域の1次予選を突破するのだって、楽観は許されない。 1次予選F組は、日本、アラブ首長国連邦(UAE)、タイ、スリランカ、バングラデシュの5カ国である。4月に日本で第1ラウンドのリーグ戦があり、5月にUAEで第2ラウンドのリーグ戦がある。 
 「第1ラウンドを日本でやれるのは有利じゃないか。地元でコツンと叩いておけば、第2ラウンドは楽勝だよ」 
 たしかに、まず地元でやれるのはいい。十分にコンディションを整えて、大観衆の声援を受けて、慣れ親しんだ芝生で戦えるからである。 
 1次予選を、いつ、どこで、どういう形でやるかについては、日本とUAEの間で、かなり厳しい駆け引きがあったに違いない。その結果、第1ラウンドが日本開催になったのは、まずは日本側のポイントだった。これはいい。 
 「でも、せっかく地元開催になったのに、第1戦は神戸で、第2戦から国立競技場という日程は、おかしいんじゃないの? どうせなら、慣れ親しんだ国立競技場の芝生で、ずっと居坐ってやらせたいね」 
 これは、友人にしては鋭い指摘だった。

地元の利はお互いに 
 第1ラウンドが地元開催になったのは有利だが、第2ラウンドが5月にUAEの地元で開かれるのは、UAEにとって好都合である。というのは、アラビア半島のあたりは雨季に入り、このころから気温も湿度もぐんぐん上がるからである。涼しい日本から出掛けたらコンディションを崩す心配がある。 
 「なるほど。地元の利は、お互いさまなんだな」 
 と、友人はちょっと心配そうな顔になった。「そりゃ、そうだよ。スポーツをするのに、一方だけが圧倒的に有利だなんてのはおかしい」 
 それに相手は「目には目を、歯には歯を」というお国柄である。日本が自分勝手なことをしたら、向こうも黙ってはいないに違いない。 
 「たとえばだよ。第1ラウンドのときに、日本は東京の国立競技場に居坐って、相手は各地の会場を転々とさせるような日程を組んでいたら、向こうでは、日本が砂漠の中を引きずり回されることになり兼ねない」 
 そんな極端なことは起きっこないにしても、あれやこれやと考えると地元開催の第1ラウンドでは、日本は全勝しなければ有利とはいえそうにない。とくにUAEには完勝しておく必要がある。 
 「この前の広島のアジアカップで日本は優勝したけれど、UAEとの試合は0−0の引き分けだった。だけど今度は、引き分けではダメだ」 
 UAEは悔れない――と、ぼくは考えている。 

新監督も逆襲速攻型!?
 「でも、まあ、UAEは得点力がないみたいだからな」 
 友人は、なんとか安心できる材料を見つけたいようだ。 
 たしかに広島で見たUAEは、守りに重点を置いたチームだった。4年前のイタリア・ワールドカップ予選のときも、守りのチームだったという話である。 
 しかし、だからといって軽く見てはいけない。 
 守りが固いことは、一つのポイントである。UAEからみれば敵地に乗り込んでくる第1ラウンドの試合では、まず守りを固めて戦うのが定石だからである。日本は、この守りを何とかして打ち破らなければならない。 
 得点力がないというのも、時と場合によりけりということがある。 
 広島のアジアカップのとき、朝鮮民主主義人民共和国に先取点を奪われると、選手交代策の的中で同点とし、黒人コンビの攻めで逆転したのが印象に残っている。必要になれば攻めに出ることもあるし、攻めを成功させる能力も秘めている。UAEでの第2ラウンドでは、そういうケースが出てくるかもしれない。 
 広島のあと、UAEの監督は、旧ソ連代表の監督だったロバノフスキーから、スペイン・ワールドカップのときのポーランド代表の監督だったピエチニチェクに代わっている。これは新しい材料である。 
 ポーランドのサッカーは、もともと逆襲速攻型だった。だから新監督になっても、UAEのサッカーのスタイルは変わらないかもしれない。 
 しかし、ピエチニチェクは、逆襲速攻型のサッカーの攻めの鋭さについて、もっとも良く知っている人物である。その点を日本は警戒しなくてはならない。


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