アーカイブス・ヘッダー

 

   

サッカーマガジン 1992年12月5日号

ビバ!サッカー

オフト監督とアジアカップ

 広島のアジアカップは、アジアのサッカーにとっては重要なタイトルだが、日本代表チームのハンス・オフト監督にとっては、来年春のワールドカップ予選をめざすチーム作りの、一つの折り返し点である。

☆W杯予選が本当の勝負 
 広島のアジアカップを前に、日本代表のハンス・オフト監督と話をする機会があった。 
 「広島では、西アジアの国と、どんなふうに戦えるかを見たい。ダイナスティ・カップでは、中国や朝鮮など東アジアを体験できたけど、西アジアは、まだ知らないからね」 
 オフト監督の話しぶりは、当面のアジアカップよりも、来年のワールドカップ予選の方を向いていた。ワールドカップ予選では、まず1次でアラブ首長国連邦と当たる。2次予選に進めば、サウジアラビアか、カタールと当たることになる。この3チームが広島に来るから、じっくり偵察しよう、というわけである。 
 そこで、ちょっと意地の悪い質問を試みた。 
 「あなたにとっては、ワールドカップ予選が大事だろうけど、アジアのサッカーにとっては、アジアカップは重要なタイトルだ。それを単なるテストのための大会として扱うわけには、いかないんじゃないの? それに広島でやる大会だから、地元日本のファンとしては、ぜひ日本代表に勝って欲しいと思うけどね」 
 「それは、いつもつきまとう矛盾だよ。どの試合も勝利をめざして戦うけど、一方で将来のために新しいことも試みなければならないんだ。ともあれ、地元のファンには、いい試合をお見せしたいと思っている」 
 オフト監督にとっては、やはり来年が勝負。広島で勝利への期待が、あまり重荷になっては困る、と思っているようだった。

☆ラモスの扱い方
 オフト監督の話は、筋が通っていて分かりやすい。「ラモスを広島で使うかどうか」についても、答えは明快だった。  
 「ラモスは使う。ただし100%の力でプレーできる間だけ」 
 かりにラモスが体調十分でない場合、80%の力で90分間プレーさせるような使い方はしない。100%の力で30分間プレーできるのなら、30分だけ使う。ラモスはもう35歳だしケガも多い。だから100%の力でプレーできる時間帯は、しだいに少なくなっていくだろうが、力のあるうちは日本代表に選ぶ、ということだった。 
 「これは、ラモスだけのことじゃない。どの選手でも100%の力でプレーできなくなったら引っ込んでもらう」 
 ラモスだけに頼って戦うようなサッカーはしない。「特定のキープレーヤーはいらないんだ」という話だった。 
 年齢やケガの問題だけでなく、ラモスには「監督と意見が対立している。代表を降りるんじゃないか」という噂もあった。そこのところも遠慮なく聞いてみた。 
 「じゃじゃ馬を手なずけようとしている、という人もいるようだが、自分では、そうは思っていない。意見が違えば話は聞く。しかし決めるのはおれなんだ」 
 はっきりし過ぎるくらい、はっきりしている。そこが、外人監督の良さかもしれない。

☆カズは中盤では?
 ラモスを30分しか使えない場合、あるいはまったく使えない場合、代わりは誰がやるのだろうか。「キープレーヤーはいらない」とはいえ、攻撃的な中盤のポジションに誰かを配置しなければならない。 
 8月のユーベントスとの試合では三浦カズが前線から中盤に下がった形で攻めの起点になるいいプレーを見せた。それが印象に残っていたから、「カズは中盤のプレーヤーとしても、伸びるんじゃないか?」と聞いてみた。 
 オフト監督の意見は、ここでもはっきりしていた。 
 「そうは思わないね。中盤のプレーヤーは、守りも一生懸命やらなければならないが、これはカズには荷が重い。カズは前線のストライカーとして使いたい」 
 ここのところカズ人気は絶大で、スポーツ新聞の扱いなどを見ていると、カズがひとりで日本のサッカーを背負っている感じだが、オフト監督は、冷静に役割を評価している。 
  しかし、この数か月の間に、自分のもとで、もっとも進歩した選手として名前をあげたのはカズだった。 
 「シンキングが非常に良くなった」と英語で表現したが、戦術的な判断力が伸びたということだろう。 
 キリンカップでの善戦、来日したユーベントスとの2引き分け、北京のダイナスティ・カップでの優勝と、オフト監督の日本代表は順調に伸びてきた。広島のアジアカップは、ワールドカップ予選への一つの過程であるとしても、オフトのチーム作りの大きな曲がり角ではある。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ