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サッカーマガジン 1992年12月号

ビバ!サッカー 

本物の技などでカップ戦成功
新勝ち点制、新試合方式は歓迎されるか?

ナビスコ・カップの成功!
観客動貝、プロ意識、外国人選手がふんい気を盛り上げた!

 Jリーグの発足を飾ったヤマザキナビスコ・カップは、予想以上のいいスタートだった。その最大の成功は観客動員が好調だったことだろう。 
 このJリーグ人気は、マスコミを巧みに利用したPRによって、新しい観客層を掘り起こしたことによるもののようである。お客さんの大半が、20歳前の若い層で占められているし、ナイターの試合でも結構、女性の割合いが多い。ファン層が変わったのは明らかである。 
 それにつられて古いファンも戻ってきている。むかしなじみの顔が、記者席のそばまできて手を振ってくれたりする。これは、うれしい。 
 問題は、この人気が長続きするかどうかだ。人気に釣られて来たお客や、切符をもらったから来たお客が「なんだ、サッカーって案外、つまらないな」と、思って帰ったら来年からが、たいへんである。 
 幸いなことに、ぼくの見た限りでは、面白い試合が多かった。 
 試合が面白くなった理由は三つあると思う。 
 第一は、選手たちがプロ意識にめざめたことである。これまでの日本リーグだって上位チームの選手は事実上プロだったのだが、正式に「プロ」と名が付いただけで、かなり気合いが違ってきたようである。年俸1億円以上といわれる選手が出てきたのも影響したのかもしれない。 
 第二は、外国人選手の力だろう。三菱や古河など、これまで外国人をとらなかった大企業をバックにしたチームも、プロに衣替えして外国人選手を入れるようになった。それもハンパじゃないワールドカップ級の選手が日本に来るようになった。これは円高のおかげでもあるが、いまのところは、サッカーを面白くするのに、大いに役立っている。 
 その中の極め付きが、鹿島アントラーズのジーコだった。ベスト4入りを決めた予選リーグの最終戦でのハットトリックには、本当にしびれてしまった。とくに2点目。後方からのパスを受けながら、ゴールキーパーが出てくるのを視野に入れていて、その頭越しにシュートを決めたのは本場のブラジルでも、滅多に見られない神業だった。こんなプレーが見られるなら、競技場に足を運ぶ気にもなろうというものである。 
 第三に、お客さんがスタンドを埋めて応援していることが、雰囲気を盛り上げて、いっそう試合を面白くしている。東京の国立競技場の試合前の旗の波やラッパの騒音などは、欧州や南米に劣らない。 
 ただし、試合の前後とハーフタイムにラジオの実況中継の真似ごとみたいなのを拡声器で流すのは、うるさいだけで、面白くも、おかしくもない。あれは、やめてもらいたい。スタンドの熱気は、大衆の間から盛り上がってくるもので、拡声器で強制するものではない。 
 というわけで、ヤマザキナビスコ・カップは、いろいろ問題がなかったわけではないが、大局的に見ると成功だったといっていい。
 これが、ますます、いい方向へ発展するよう期待している。

新しい試みの功罪?  
予選リーグの結果は、従来の勝ち点制度でも同じだった!

 Jリーグは、ヤマザキナビスコ・カップで新しいことを、いくつか試みた。予選リーグの勝ち点を、いじってみたのも、その一つである。 
 リーグ戦では、引き分けがあっても差し支えはないのだが、この大会の予選リーグでは、90分戦って同点の場合はサドンデスの延長戦をすることにした。延長戦に入ったら、先に点を入れた方が勝ち。試合はそこで打切る。30分の延長戦をして、なお同点のときにはPK戦をする。いずれにしても引き分けはない。 
 勝ち点の与え方は複雑で、勝ちチームには4ポイント、さらに得点2点について1ポイントを加える。ただし、これは90分間にあげた得点だけが対象で、延長後の得点は勘定しない。勝敗表を作って星勘定をしていると、頭がこんがらがってくる。 
 さて、この方法で10チームによる1回戦総当たり、計45試合をして、ベスト4は、読売ヴェルディ、清水エスパルス、名古屋グランパスエイト、鹿島アントラーズが占めた。この結果には、新しい勝ち点方式が影響したのだろうか?
 伝統的なリーグ戦の勝ち点制は、勝ちに2ポイント、引き分けに1ポイントを与え、延長はなしというやり方である。この方式で計算してたら別の結果が出るのだろうか?
 そこで、こんがらがりそうになる頭を激励しながら試算してみた。90分間で同点の試合は、延長戦はなかったことにして引き分けとし、勝ち点1を両方に与える。そして、最後に同勝ち点の場合は、総得点と総失点の差で順位を決めてみたわけである。 
 結果は、ベスト4の顔触れは同じだった。1位は、どちらの計算法でも読売ヴェルディである。9試合のうち6試合が勝ち、3試合が引き分けで、この3試合は延長で負けている。それでもトップだったのだから引き分けに1ポイントを与える旧方式の計算で首位は当然である。 
 2位以下4位までは、顔触れは同じだが順位が変わる。新方式では、清水、名古屋、鹿島の順だが、旧方式だと名古屋、鹿島、清水になる。 
 新方式で清水が名古屋より上位になったのは、2点ごとに与えられるボーナス勝ち点のおかげで名古屋と並び、総得点差で上まわったからである。これは、たくさん得点をあげた方を優遇して試合を面白くするという新方式の趣旨には合っている。しかし、名古屋が6勝3敗(旧方式で5勝1引き分け3敗)だったのに対して、清水は5勝4敗(旧方式で4勝1分け4敗)である。試合は勝ち負けを争うものだから、引き分け数が同じだったのに、勝ち数が多い方が下位になるのは、すっきりしない。 
 昨シーズンの日本リーグの方式で、勝ちに3ポイントを与えると、勝ち数の多いガンバ大阪が浮上して鹿島は5位に落ちる。こちらの方が勝利の比重はさらに大きくなる。 
 新方式は複雑で分かりにくいし、勝利の比重が軽くなるので、ぼくは賛成できない。ラジオ番組でジーコも指摘していたそうだが、今後、弊害が生まれる可能性もあると思う。

米国プロの試合方式  
同じカードの対戦を繰り返してヤマ場を何度も作るのは?

 ヤマザキナビスコ・カップの試合方式を考えた人は、米国のプロスポーツを真似たのでは、ないだろうか。 
 たとえば、10チームで予選リーグをして、改めて上位4チームによる勝ち抜き戦をする方式は、もともとは米国のプロスポーツで考えられたものと考えが似ている。 
 この方式は、ヤマ場を2度以上作ることが出来るので、観客動員やテレビの視聴率稼ぎには都合がいい。ヤマザキナビスコ・カップの例でいえば、予選リーグの首位争いで1度ヤマ場を作ることが出来、さらにベスト4による決勝トーナメントで優勝争いによる2度目のヤマ場を作ることが出来る。 
 米国のプロ野球の大リーグでは、これが、もう少し複雑である。
 まず、ア・リーグとナ・リーグをそれぞれ東地区と西地区におけて順位を決める。だから4つの地区優勝争いのヤマ場が出来る。 
 次に東地区と西地区の優勝チーム同士のプレーオフをする。これが2度目のヤマ場になる。これで決まったリーグ優勝チームがワールドシリーズを争う。これが3度目のヤマ場になる。 
 東地区と西地区にグループは分けてあるが、ペナントレースでは東のチームと西のチームの対戦もある。だから、同じチームによる争いを二重にやることになるのだが、ヤマ場を何度も作った方が興業的に得策だというので、こんな方式が考え出されたわけである。
 アメリカンフットボールのNFLでも、同じような方式を採用していで、最後に全米をわかせるスーパーボウルという大きなヤマ場がくる。 
 日本のプロ野球では、かつてパ・リーグが前後期制を採用したことがある。シーズン前半に一度優勝を決め、後半にもう一度優勝を決める。さらに、この二つの優勝チームで改めてプレーオフをしてリーグ優勝を決める。しかし、これは日本のファンには向かなかったようで成功はしなかった。 
 このような方式は、プロの興業のためには好都合かもしれないが、スポーツ本来の姿ではないという考え方がある。長期のリーグ戦を公平なやり方で争って順位を決めたのに、さらに優勝争いを、やり直すことになるからである。 
 欧州のスポーツ界では、伝統的にはスポーツ本来の姿を大事にする考え方だった。欧州のサッカーの国内リーグは、ホームアンドアウェー制で試合のうちの半分は必ず地元でやる。プロ野球では、一つのカードを何試合もやるが、欧州のサッカーの場合は一つの相手との試合は地元では一度しかない。それを熱狂的に応援してせっかく勝ったのに、優勝争いはまたやり直し、というのではファンは納得できない。これは社会と文化の違い、国民性の違いだろう。 
 ぼくは、どちらかといえば欧州派である。サッカーは出来るだけ簡明な、すっきりした形でやってもらいたいと思う。とはいえ米国方式が、本当に日本のファンに歓迎されるのなら、強いて反対はしない。


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