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サッカーマガジン 1992年11月号

ビバ!サッカー 

オフト代表、スタートに成功!?
清水FCのプレーはいいが、運営には問題が

東京ドームの好試合!
読売クラブをホームに夏休みの名物イベントにして欲しい

 この夏は、日本で、いろいろな国際サッカーがあった。夏休みの子供たちに、レベルの高い、楽しい試合を見せたいと、かねがね思っていたのが実現してうれしかった。 
 まず8月3日に東京ドームで、コカコーラ・ワールドサッカーがあった。読売日本クラブとアイントラハト・フランクフルトの試合である。 
 今回、とくに良かったのは、外国同士の試合ではなく、日本のクラブがホストになって外国のクラブを迎えたことである。スポーツは、地元のチームの魅力で人気を集めなければ本物じゃない。今回は読売人気の5万余の大観衆で札止めになった。 
 試合は十分面白かった。読売の選手は長い南米、欧州遠征に続く、国内各地でのエキジビションで疲れていたし、フランクフルトには、もちろん長旅と時差の影響があった。それにもかかわらず、両方ともエキサイトして活発な攻めあいを見せてくれた。総屋根のドームの独特の雰囲気と満員の観衆の熱気が、選手に疲れを忘れさせたんだろう。 
 前半26分に、読売が先取点をあげた。前線のプレーヤーが奪い返したボールからラモスの好パス、北沢のドリブル・シュートとつながった。攻めから守り、守りから攻めへの素早い切り替えと、忠実なフォワードの守備が、いいプレーを生んだもので、ファンにとっては胸のすくような、サッカーをやっている若い人たちにはお手本になるようなプレーの連続だった。 
 「これはいかん」とフランクフルトは、すぐ反撃に出て激しい試合になった。結局、3−1でフランクフルトが見事な逆転勝ちを演じたが、中身のある試合だった。 
 この試合は、月曜日のナイターだった。前日の日曜日にアメリカン・フットボールのNFLのプレシーズン・マッチがあり。そのために野球用のマウンドを地下に降ろし、観客席の一部をフットボール用に移動した。電動で動かせるのだが、それでも、なかなか大変らしい。そこで、せっかく動かすんだからと、翌日はサッカーに利用することにしたのだという。 
 アメリカン・フットボールのNFLの試合は、向こうのチーム同士のエキジビションである。本場の高いレベルのプレーを見ることは出来るが、日本のファンにとっては、勝負の面白さはない。 
 翌日のサッカーは、地元対外国だった。しかも、日本の単独クラブが頑張って、本場のドイツのプロをむきにさせるような試合をした。だから、スタンドの熱気は、サッカーの方が上だったのではないか。 
 これからも毎夏、東京ドームで、読売日本クラブと外国のプロのクラブチームとの国際試合をやって欲しい。それも、8月の第1週に決まっていれば、あらかじめ見にいく予定も立てやすい。東京の人は家族旅行に出掛ける計画を別の週にし、地方の人は、東京へ遊びにくる日を、その週に合わせることが出来る。東京ドームのサッカーが夏休みの名物になるといいと思う。

オフト監督の選手操縦!
三浦カズが日本代表を変身させた国立競技場のフェスタ!

 8月中旬には「サッカー・フェスタ」と銘打って、オフト新監督の率いる日本代表が、イタリアのユーベントスと2試合をした。 
 8月14日に神戸のユニバーシアード記念競技場で行われた第1戦は2−2、17日の東京・国立競技場の第2戦は1−1。どちらも引き分け、どちらも満員である。 
 神戸では、関西の子供たちにも夏休みにいい試合をプレゼントすることが出来てよかったと思う。一方、東京では、夏休みに国立競技場の芝生を使えたのがいい。これまで国立競技場は、6月〜8月に芝生の張り替えをしていたので、夏休みにサッカーのいいイベントを持ってくることが難しかったからである。 
 日本代表チームに対しても、このフェスタは、絶好の腕試しの機会をプレゼントした。
  ぼくが注目したのは、ラモスの使い方だったが、オフト監督は巧みな選手操縦をしたように思う。 
 5月31日のキリンカップのアルゼンチンとの試合のあとで、ラモスが新聞記者の前で公然とオフト監督を批判したことがある。 
 そのとき、ぼくは「オフト監督の今後の課題は、ラモスをどのように手なづけていくかであり、もし関係を改善できないようだったら、ラモスを切るしかないな」と考えた。 
 さらに、東京ドームのコカコーラ・ワールドサッカーの読売日本クラブとアイントラハト・フランクフルトの試合のとき、ラモスは足を痛めて、フィールドで痛そうにひっくり返った。ぼくは「ひょっとするとラモスは日本代表の試合に出ないつもりかな」と心の中で邪推したものである。 
 サッカー・フェスタの試合でラモスは日本代表の先発メンバーからはずれていたが、後半に交代出場した。これが、なかなかいい、用兵だった。 
 まず、体調十分でないラモスを先発からはずして、ラモスがいない場合の日本代表のチーム作りをテストすることが出来た。 
 東京の試合では、三浦カズが左のウイングの位置から中盤に下がって攻めを作る中心になっていた。前半34分にカズが中盤からロングシュートでユーベントスのゴールを脅かした。37分には。中盤からカズが左に大きく振った好判断が起点になって、都並がゴール前へあげ、高木がヘディングシュートするいい形があった。カズが攻める中心選手として、視野の広いプレーが出来ることを示した場面だった。 
 カズが近い将来、日本代表の大黒柱に成長するとすれば、「カズの転機」として覚えておいていい試合だったのではないか。 
 ラモスは、後半10分過ぎに登場した。これでまた、攻めのリズムが変わって試合は面白くなった。 
 試合後の記者会見でラモスは「監督が使ってくれて感謝しています」と殊勝な口ぶりで話していた。 
 ラモスの交代出場策は、北京のダイナスティ・カップでも成功して、日本代表が優勝した。オフト日本代表は、まずはスタートに成功したようである。

清水対サントス
地域のチームが大きな国際試合を企画したのはいいが……

 8月の下旬には、Jリーグ加盟のために新チームを作った清水FCエスパルスが、ブラジルのサントスFCを迎えて2試合をした。
 地域のクラブチームが、外国の名門プロを招いて、本格的な国際試合を開催したのは、画期的なことだったと思う。 
 クラブ同士の試合は、地元クラブのイニシアティブで自主的に運営するのが、将来への発展への道である。これからも各地で、こういう企画を、クラブ自身の手でどんどんやってもらいたい。 
 試合の中身もなかなかよかった。とくに清水FCエスパルスのチームの試合ぶりには、これからを期待させるものがあった。 
 第1戦は8月26日、東京の国立競技場のナイターだった。観客動員には、かなり苦労したのではないかと思うが、スタンドの上の方まで、ほぼ満員だった。清水のミランジーニャとトニーニョが、母国のチームを迎えて張り切ってプレーした。後半はじめにサントスが先取点をあげたあと、清水FCが積極的に反撃に出たために、浅い守備ラインの裏側をつかれて、結局3−0と差が開いたが、チーム編成途上のエキジビションだから勝ち負けは問題ではない。沢登正朗と向島建が、のびのびとプレーしたのが目をひいた。 
 第2戦は静岡の草薙競技場。スタンドは、かなり埋まってはいたが、地元開催にしては、ちょっと、もの足りなかった。しかし試合は、清水FCが、第1戦の守りの失敗を改善して1−1の引き分け。中盤で大榎克巳が大活躍し、25メートルあまりのロングシュートを決めた。 
 さて、試合は静岡県出身の選手たちが地元に帰って、水を得た魚のように生き生きとプレーして良かったのだが、運営の面では、クラブ自身に問題があるのではないかと、ちょっと気掛かりなことがあった。 
 たとえば、ちゃんとしたプログラムが、用意されていなかった。1冊1000円の「清水エスパルス・イヤーブック」を売り、試合のプログラムは1枚の紙を二つ折りにした簡単なリーフレットを無料で配った。それも一つのやり方で悪くはないが、無料のリーフレットが、いい加減で、サントスFCの来日メンバーについての説明は、ほとんどない。選手の写真が2枚だけ載っているが、来日していない選手である。 
 草薙競技場では、記者席も用意されていなかった。記者席かと思ったところには、VIPのカードを付けた人たちが、たくさん座っていた。 
 清水FCは地元出身の選手を呼び返すために他のチームから選手を、かなりの無理をして引き抜いた。それが選手の給料の高騰を招き、運営を苦しくしているのではないか。 
 それが地元の組織にも、ひびをいれ、地元協会関係者の協力が十分でなく、不慣れなエージェントに仕事を任せているのではないか。 
 そうだとすれば、清水FCだけでなく、Jリーグ全体の今後の運営にも響いてくる。これは、早急に調べて対策を講じなければならない問題ではないかと、心配になってきた。


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