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サッカーマガジン 1991年10月号

ビバ!サッカー 

日本代表チームヘの評価?
日韓戦負けでも、五輪代表の責任者にまで…

キリンカップヘの評価!
優勝はチームを明るくし、選手に自信を与えたに違いない

 日韓定期戦で日本が、また負けたので友人の落胆が、はなはだしい。 
 この友人は、口ではいろいろ悪口をいうものの、心の底では日本代表に大きな期待というか、幻想というか、過大な評価を持っている。だからキリンカップで優勝したときなどは、うれしさを隠しきれなくて、顔がゆるみっぱなしだったらしい。 
 「らしい」というのは、6月のキリンカップのとき、あいにく、ぼくはヨーロッパに旅行中で、日本代表の歴史的快挙? に遭遇することが出来ず、友人の喜びようも、直接見ることは出来なかったからである。 
 しかし、トットナム・ホットスパーやバスコ・ダ・ガマに勝ったのは、結果だけを見れば、たいしたもので、友人が喜んだのも無理はない。 
 無理はないが、それをたちまち日韓戦への期待に結びつけるのは、シロートくさいというものだ。 
 ぼくはキリンカップを見ていないので、日本代表の試合内容については論評できないが、勝てば官軍、結果良ければすべて良し、である。優勝は優勝なんだから、すなおに「おめでとう」と言いたい。 
 だが、だからといって、日本代表のレベルが、イングランドやブラジルのプロ並みになったと思うのは大間違いである。 
 相手はシーズンオフに、高額なギャラにつられて日本に来たので、勝つために来たのではない。当時たまたま、ロンドンにいたので、向こうで聞いた話だが、トットナムはクラブの財政状態が悪く破産寸前だったので、日本からの招きに飛び付いたのだそうである。
  選手たちは、ハワイに寄って、のんびりオフを楽しんだりして、日本に行ったという噂も聞いた。 
 そういう、いわばタガのゆるんでいる相手ではあっても、日本の選手たちにとって、試合の経験は役に立っただろうと思う。練習のフォーメーションでも、なかなかゴールを割れないことが多いものである。だから、本場のプロ選手を相手に大量点をとったのは、選手たちに自信を与えたに違いない。 
 日本代表チームをよく取材している友人のカメラマンの話では、あのあと、横山全日本のチーム内の雰囲気が、とても明るく、良くなったということだった。 
 そういう意味では、キリンカップは有意義だったと思うし、優勝も素直に喜んでいいと思う。 
 ところが友人は、日本代表の優勝を、技術レベル向上とチームの戦法の進歩の結果だとばかり思ったらしい。 
 いや本当は、この友人は試合を長年見続けて来ていて、サッカーを良く知っているから、そうでないことは頭では分かっているのだが、何しろ本心は愛国心の固まりなので、希望と現実を、ときどき取り違えるわけである。 
 横山兼三監督や選手たちは。優勝を喜びながらも、自分たちの実力は冷静に評価していただろう。 
 したがって、韓国との試合に自信は持っていても、勝利を楽観してはいなかったに違いない。

パルチザン戦への評価!
若い選手が頑張りながら楽しんでいるのに感心したが…?

 キリンカップと日韓定期戦の間にユーゴスラビアの「パルチザン・ベオグラード」が日本へ来て、日本代表チームと2試合をした。これは幸いに2試合とも見ることが出来た。 
 第1戦は7月18日。埼玉県大宮サッカー場である。入り口が大混雑であわやキックオフに遅れそうになるほどの大入り満員だった。
 入り口の列に並んでいた若い2人連れが話しているのが聞こえた。 
 「ほんとは高校サッカーの方が面白いよね」 
 話の様子から察するに、正月の高校選手権で、サッカーの面白さを覚えたらしい。大宮は毎年、高校サッカーの会場になり、地元チームの出場でスタンドにお客が入りきれなかったこともある。日本代表の試合を見に来たのも、高校選手権のスターのその後を見るためのようだった。大入り満員は、横山全日本の人気とは、必ずしも言えないようだ。 
 しかし高校サッカーのスターに対する人気が客足を呼んだにしても、この機会に日本代表が、いい試合を見せれば、サッカー人気は本物になるに違いない。 
 さて、キリンカップを見損なったぼくにとっては、久びさの日本代表チームの試合である。 
 4月のスパルタク・モスクワとの試合も見たのだが、あのときは読売クラブが別にスパルタクと試合をしたので、日本代表はベスト・メンバーではなく、日本リーグのシーズン中で、いまひとつ、日本代表としての気合いも入っていなかった。それにスパルタクの方が、実に気の抜けた試合ぶりで、つまらない試合だった。だから、これは勘定に入れないことにすると、ぼくにとっては2年半ぶりの日本代表チームということになる。昨年の夏までニューヨークに駐在していて、日本のサッカーを見る機会が、しばらくなかったからである。 
 大宮での試合の印象の第一は「日本の若い選手は、なかなかいいじゃないか」ということである。 
 ぼくが頭に描いていたよりは、はるかに上手にボールを扱い、のびのびとプレーしている。一人ひとりが、頑張るだけではなく、相手と張り合い、相手を出し抜くプレーをすることを楽しんでいる。
 これは、読売クラブの選手たちにはあった雰囲気だが、いまの全日本では、井原正巳、北沢豪といった選手たちのプレーぶりにも楽しんで頑張っている様子がうかがえた。「これはいい」と、ぼくは思った。 
 大宮の試合は、前半32分に先取点をとられたのを、すぐ36分にコーナーキックから柱谷哲二のヘディングでとり返し、1対1の引き分け。結構スタンドをわかせた試合だった。 
  第2戦は、7月20日、横浜三ツ沢だった。こちらも、ほとんど満員の人気だった。 
 この試合の印象も似たようなものである。後半10分にベオグラードが1点。これはゴールキーパーの頭ごしに浮き球でいれた巧妙なゴールだったが、この場面以外では日本代表は良く守っていた。

日韓定期戦への評価!
ラモスとカズを徹底的に抑えられたら何も出来ないのか?

 パルチザン・ベオグラードとの2試合で、不安を感じた点もあった。それはラモスが登場すると試合ぶりが、がらりと変わったことである。 
 パルチザンとの試合で、ラモスは第1戦は後半13分から、第2戦では後半10分から交代で登場した。 
 ラモスが登場すると、ボールはラモスに集まり、ラモスのアイデアで攻めが展開した。ラモスがチームの王様だった。ブラジル生まれで日本に帰化したラモスが、読売クラブ以外の日本選手たちに、これほど信頼されているとは思わなかった。 
 それはいいのだが、ラモス登場の前と後が、あまりにも違いすぎるのは不安な点だった。 
  ラモスが登場すると、中盤からの展開に緩急がつき、そこから相手の意表をつくプレーと展開が生まれてくる。ブラジルで修行した三浦カズの前線での足技も生きてくる。 
 そうなってみると、ラモス登場以前のプレーぶりに、昔ながらの日本のサッカーの欠点が見えてくるから奇妙である。 
 例をあげて言えば、敵が近くにいないときには、スピードをあげて前へ急ぎ過ぎ、敵が傍にくると、とたんに素早いプレーが出来なくなってもたもたする。ラモスがいない日本代表には、この日本的な特徴が残っていて、三浦カズも得意のドリブルが空回りだったような気がする。 
 そういう試合を2試合見れば、横山監督の日本代表チームの攻めは、少なくとも現段階では、ラモスと三浦カズのほかには決め手がないように見えてくる。 
 さて、日韓定期戦は7月27日、会場は長崎県の諫早市だった。 
 これは、残念ながら見に行くことは出来なかった。実は8月下旬に東京で開かれる陸上競技の世界選手権の組織委員会の手伝いを買って出て大忙しになったのと、長崎まで行く旅費と宿泊費が、かなりの出費になるので、断念したのである。 
 見てきた人の話を聞き、友人から借りたビデオを見ての感想は、こうである。 
 「韓国チームは、日本とパルチザン・ベオグラードとの試合を見て、ラモスと三浦カズを抑えればいい、と作戦をたてたのではないか。それでラモスは出足を抑えられ、カズは厳しいマークにつぶされたのではないか」 
 友人がまた憤慨した。 
 「それじゃ、まるでパルチザンを呼んだのは、敵に手の内を見せるためだったようなもんじゃないか」 
 日韓定期戦は、意義あるイベントではあるが、友人が目くじらたてるほど勝敗にこだわる試合でもない。だから手の内を読まれても憤慨することはないと思う。 
 しかし横山監督に対する評価に関しては、1対0の負けという結果はキリンカップの優勝よりも重い。 
 だから、日韓戦の後で日本サッカー協会が横山監督の権限を強化して、山口芳忠監督のもとで勝ち進んでいるオリンピック・チームの責任者にすると発表したのは、どうも事情が呑み込めない。


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