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サッカーマガジン 1991年9月号

ビバ!サッカー 

招致パーティーは大成功!
底辺から大衆の熱意を盛り上げる必要がある

海部首相の祝辞!
盛大な招致委員会発足パーティーの狙いはよく分かった!

 2002年をめざして、ワールドカップを日本に誘致するための招致委員会発足パーティーが7月4日に東京のホテル・オークラで盛大に開かれた。お世辞でなくて、ほんとに盛大だったね。
 まず、海部総理大臣が、かけつけて祝辞を述べたのが、よかった。
 「ここに参ります前に、きょうは開催が決まったお祝いのパーティーではなくて、開催できるように、これから努力するためのパーティーだから間違えないように、と注意を受けて参りました」
 とユーモア混じりでスピーチをしたが、実は、これがもっとも重要なポイントだった。
 ワールドカップはサッカーの世界選手権だが、他のスポーツの世界選手権とは重みが違う。これを日本で開催するのは、オリンピックを開催するのと同じくらい、いやそれ以上の影響力が世界に対してある。
 したがって、過去のワールドカップは、開催地の政府が十分に力を入れて支援している。
 しかし、日本では、そうはいかない。「サッカーは他のスポーツとは違う」と主張しても、世間から特別扱いにしてもらえそうにはない。
 現実に1年ほど前、日本サッカー協会の関係者が文部省の体育局に行って相談したとき「招致が成功するよう出来るだけの応援はしますが、いま公式に政府の支援を取り付けようとしたら開催が決まっても財政援助は求めないと条件を付けさせられますよ」と言われたそうだ。
 お役所の立場を考えれば、無理もない。サッカーの世界選手権に援助するのなら、陸上競技や卓球やフェンシングの世界選手権開催にも、平等に援助しなければならないと考えるだろうからである。「サッカーは特別だ」とは言えないに違いない。
 しかし、サッカーをよく知っている者からみれば、ワールドカップを開催するには、いろいろな意味で政府の全面的な支援が絶対に必要である。そこをなんとかしていくのが、これからの招致と開催の準備のなかで重要になる。
 その手始めとして、盛大なパーティーを開いて、内閣総理大臣に来てもらうことを考えたのだろうと、ぼくは想像した。
 もちろん「内閣総理大臣・海部俊樹」がパーティーで祝辞を述べたからといって、政府としての支援を約束したことにはならない。しかし、政府やお役所に「サッカーのワールドカップって何だろう」と考えてもらう機会としては十分である。
 海部首相は、あいさつのなかで、サッカーのワールドカップが、国際的に大きな影響力を持つ大会であることに、ちゃんと触れていた。思うに、総理府か文部省の偉い人が、あらかじめ総理にレクチュアしたに違いない。その偉い人には、実務を担当している将来有望な若い官僚が、サッカー協会から取材して、ご進講申し上げたに違いない。
 というわけで、盛大なパーティーを開いたのには、十分な理由があったと、ぼくは推測している。

長野冬季五輪との比較
施設の活用や大会後の地元への貢献はサッカーが大きい!

  盛大な2002年招致委員会発足披露パーティーでの祝辞で、海部首相は、1998年の長野冬季五輪開催が決まったばかりだったから「長野のように、招致に成功してもらいたい」と述べたわけである。これも、なかなかよかったと思う。
 日本では、オリンピックは非常に「特別なもの」と思われている。だから政府も、開催が決定した以上は長野への援助を優先的に考慮するだろう。だから、首相の話のなかで、ワールドカップとオリンピックが肩を並べて出てきたのは、PRとして大いに結構だった。
 ぼくに言わせれば、ワールドカップの日本開催が実現すれば、長野冬季五輪以上に値打ちがある。国際的な影響力だけでなく、日本国内のスポーツ界への貢献も大きい。
 誤解されないように、あらかじめお断りすると、ぼくは長野五輪の意義を十分に理解しており、開催決定を喜んでいる。ただ、ここではサッカーのワールドカップの長所を強調するために、引き合いに出させていただこうと思う。
 冬のオリンピックは、会場の設営が大変である。スキーは山の中にコースを作るので、そこへ行くための道路を整備するのも容易ではない。
 また、比較的小さな町の周辺で行われるので、海外からの観光客を集めようと思っても、ホテルが少ない。大会のために大きなホテルを建てても、後の活用が疑問である。
 オリンピック選手が滑るコースは難しくて、一般のゲレンデ・スキーヤーが利用できるようなものでは、もちろんない。それに、オリンピック選手の滑りを大衆が真似することは、どだい無理である。
 それに比べると――と、ぼくは、サッカーへの我田引水を試みたくなる。
 ワールドカップは、全国の都市に分散して行われる。だから大勢の人が一時期だけ1カ所に集中する心配は、それほどない。道路やホテルの整備は必要だが、それは大会後になっても地元の人たちに十分役立つものばかりである。
 スタジアムは、もちろん重要である。日本には、いいスタジアムがないから、どの会場も新しく建設する必要がある。これは問題点だが、実は、日本の都市には、その都市にふさわしいスタジアムがないからこそ新しく建設する意義がある。
 ワールドカップに出場するのは、世界のトップクラスのプロである。そのプロの試合は少年たちがやっている試合と同じルールである。サッカーは、大衆のレベルも、プロのレベルも、みな同じである。
 もちろん、ワールドカップのために作ったスタジアムは、大会後、地元のチームがそのまま使える。新しいスタジアムが、大会の後、地域のスポーツの拠点として、ますます利用されることは疑いない。
 というわけで、ワールドカップ日本開催を政府が支援する理由は、十分あると、ぼくは信じている。

大衆とともに進もう!
政、財、官界の協力を得る勢力とともに足元も固めよう!

  「2002年ワールドカップ招致委員会」は6月10日に設立総会を開いて発足した。名誉総裁に高円宮憲仁殿下、会長に前経済同友会代表幹事の石原俊氏(日産自動車会長)、副会長に青木半治・体協会長、古橋広之進・日本オリンピック委員会会長、藤田静夫・日本サッカー協会会長など財界、スポーツ界の首脳を並べて大型重厚の委員会である。
 ワールドカップは、サッカーの仲間だけでやれるような小さなスケールの大会ではない。だから、政界、財界、官界、スポーツ界のあらゆる分野を巻き込んでおくことが必要である。そういう意味では、苦心の人選だっただろう。
 政界、官界が薄いようだが、現在の時点でサッカーだけに、お役所の特別の配慮を求めるのは困難だから止むを得ない。そこで海部総理にパーティーに登場して頂いたわけである。
 そこが分かっているから、お偉方を集め、豪華なパーティーを開いて招致委員会を発足させたことを、ぼくは「よくやった」と評価したい。
 実は、この演出をしたのは、巨大広告企業の「電通」だった。
 昨年(1990年)10月24日に日本サッカー協会の藤田会長と村田専務理事が、電通に小暮社長を訪ねて「協力」を依頼した。それに応じて電通から有能な人材が1人、サッカー協会に出向し、招致委員会発足の準備を担当したのだそうである。
 依頼を受けた電通が、政、財、官界を巻き込むことをターゲットにしたのは正しいし、少なくとも発足パーティーを見た限りでは、スタートとしては成功だったと思う。
 そこで次は、日本のサッカー挙げての盛り上がりである。日本中のサッカー選手やOBやファンが、ワールドカップを自分たちのイベントとして盛り上げていかなければ、担がれた人たちは「なーんだ」という気持ちになってしまう。
 ぼくの見るところ、そういう点では、ワールドカップ招致運動は、まだ足元が固まっていない。ぼくの知っているOBや地方のサッカー界の人たちのなかには「協会の一部の人が一生懸命らしいね」という程度の関心しか持っていない人もいる。
 これは、なんといっても、サッカー事業である。日本サッカー協会が主体性を持って、サッカーの底辺から大衆の熱意を盛り上げ、その支持のうえで招致運動を展開していかなければならない。これは広告企業に任せるべき仕事ではない。
 「ところで」と、友人が聞いた。「ずいぶん派手なパーティーだね。いくらぐらいかかっているの?」
 ベッケンバウアーなど外国のお客さんも招いていたから、相当の出費だったことは確かだ。
 招致委員会の初年度の予算は、6億1000万円だそうである。開催地が決まる1996年まで、賞味6年あるから、総額では相当の巨額になるだろう。長野五輪の招致予算は、総額で16億円だった。
 そのお金を、どうやって集めるのか? 盛大なパーティーに感心していたぼくも心配になってきた。


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