PK戦は是か非か?
欧州カップの決着をめぐって各国で議論が沸騰していた!
5月末から6月中句にかけて2週間あまりヨーロッパへ行っていた。
ローマ、チューリヒ、ロンドン、パリと駈けめぐり、オリンピックについての取材をしたのだが、その間にサッカーを見ないわけがない。
まず、ローマへ行く前にイタリア半島南部のバリヘ入って欧州クラブチャンピオンズ・カップの決勝戦を見た。
この試合の内容については、別のページに書かせてもらった。結果はご承知のように、延長のすえ0対0の引き分け、PK戦で「レッドスター・ベオグラード」がカップを獲得した。
さて、そのあと――。
ヨーロッパのあちこちに行って「バリの試合を見て来た」と話すと、多くの人が「あの試合は良くなかった。PK戦の制度があるから、あんなことになる」と言う。
タイトルのかかった一本勝負の決勝戦だから、お互いに慎重になって「守りの試合」になった。とくにレッドスターは、試合の終りごろにはPK戦に持ち込むことを狙って「勝負」を避けた。これでは、ゴール前のスリリングな場面が少なくなって、テレビを見ていても面白くない。
こんなことになるのも、PK戦で勝負を決める制度があるためだ。PK戦がよくない――という議論である。
この議論は、イタリアでも、イギリスでも新聞に繰り返し取り上げられていた。ロンドンの新聞「ザ・タイムス」の投書欄でも論戦になっていた。
「再試合がいい」――というのが多くの人の意見である。シーズン最後の試合だから、あとの日程を考える必要はあまりない。だから1週間後に改めて、というわけである。ぼくもそう思うが、選手とテレビ局は予定をたてにくいから喜ばないかもしれない。
決着がつくまで無限に延長戦を、という案もある。これは選手の健康を考えると適当でない。
2度目の延長戦からは、先にゴールをあげた方を勝ちにする方法もあるが、なかなか点が入らなければ、これも選手の健康にとって好ましくない。
もともとPK戦は、抽選の代りに考えられたものである。勝ち抜きのトーナメントでは、次のラウンドに進むチームを必ず決めなければならないが、再試合をするには日程の余裕がない。そこで昔は抽選で「次回に進む」チームを決めていた。次のラウンドに進むチームを選ぶための便宜的な手段で「勝負を決める方法」ではない。PK戦も、もともとは、同じ趣旨だった。
決勝戦の場合は、次のラウンドがないのだから「双方優勝」あるいは「優勝預り」でいい。PK戦でカップの行方を決めるのは邪道だ、とぼくは思っている。
ところが欧州カップ決勝戦では、勝った方が東京のトヨタカップに出るから、どうしても勝者を決めなければならない。PK戦をしなくてすむうまい方法はないものだろうか。
H&A制のメリット!
活発だったイタリア杯決勝第1戦。世界最高のレベルだ!
バリで欧州カップの決勝戦を見たあとローマに飛んだ。おお、懐しのローマよ。1年前のコパ・ムンディアーレは、はたまた夢か、幻か!てなもんである。
1年前には、FIFA(国際サッカー連盟)のお偉方が占拠していて、ぼくたち、しがないジャーナリストは泊めてもらえなかった丘の上の豪華ホテルに滞在し、5月30日にイタリア・カップ決勝の第1戦を見に行った。
ローマでぼくの面倒を見てくれたのは、かの有名なジョゼ・フルタフィニ氏である。
有名な、といっても、日本の読者には、なじみが薄いかもしれない。
ペレと同じころ活躍したブラジルのスタープレーヤーで、その後、イタリアでプレーし、そのまま住みついて、いまはイタリアのテレビでサッカー解説者をしている。
もう50歳代の半ばだが、これが若い現役選手以上の人気者である。一緒に歩いていると、いろんな人がサインをもらいにくる。子供にも、女性にも、老人にも人気がある。いつも笑顔で、気さくで、積極的で、どんな人にも分け隔てをしないので、誰からも愛されているらしい。
イタリア・カップの決勝を見たときは、ホテルからタクシーで一緒に行ったのだが、運転席の隣りに座っていて、競技場周辺の検問所で警官に「やあ」と手を挙げると、そのまま通してくれた。スタジオ・オリンピコの警備は、1年前のワールドカップのときと同じくらい厳重だったのだが……。
ローマでの試合は、バリの試合とはうって変わって、活発な攻め合いだった。
地元の「ローマ」が前半12分に先取点。左コーナーキックがニアポストに電光のようにライナーで飛び、ヘディングの競り合いで自殺点となった。自殺点といっても、目にも止まらないほどのスピードで飛んでくるボールを激しく争った結果だから守りのミスとは言えない。
30分ごろビジターの「サンプドリア」がカタネッチのヘディングで同点。これも目にも止まらぬすばやいヘディングだった。
後半35分に「ローマ」が勝ち越し点。西ドイツから来ているフェラーのすばらしい突破からベルトルトがヘディングで決めた。40分にPKで追加点。これはデシデリの突破に対する反則によるもので、フェラーが決めた。
ゴールになったほかにも、スペクタルな場面がたくさんあって、実に面白い試合だった。すばやいドリブルがたっぷりあり、それがスピードと変化のあるパスに、バランスよく結びついていた。イタリアのプロの技術とスピードの高さに改めて、びっくりした。イタリア・リーグのレベルは、いま世界一だろう。
ところで、このイタリア・カップ決勝戦が活発な攻め合いになった理由の一つは、これがホーム・アンド・アウェーの2試合制だったことである。サッカーには、この方式が、いちばん、ぴったりのようだ。
ジーコの日本行きは?
ローマのテレビに出演したら手厳しい質問をぶつけられた!
ローマでぼくを案内してくれたアルタフィニ氏は、テレ・モンテカルロ(TMC)という民放テレビ局で、サッカーの番組を持っている。一つは、ゴールシーンばかり集めた「ギャラ・ゴール」で、高い視聴率を誇っている。もう一つは「カルチョ・ムンディアーレ」で、世界のサッカーの紹介である。
「今晩、ぼくの番組があるから見に来ないか」
と言うので、ローマの下町のスタジオまでついて行った。
スタジオのまん中に、アルタフィニ氏ともう1人の解説者がいる。それに男性と女性のキャスターが1人ずついて計4人で、ビデオを見ながら話をしていく形式である。
向かい合った形で小さなスタンドがあって、ファンが座って番組を見物できる。ぼくは、その、いちばん前の席に座らせてもらった。
番組が半分近く進んだところで、司会のキャスターが、スタンドのぼくに質問を向けてきた。視聴者参加の形式も取り入れているらしい。
ぼくはイタリア語はできないから、通訳を通しての話である。
「日本は、ブラジルのジーコを取ったそうだが、なぜ、すでに盛りを過ぎた名選手に目をつけるのか? 前にはマラドーナも欲しいということだったが……」
いきなり手厳しい質問だった。
ぼくは冗談でかわそうとした。
「若くて才能のある選手は、みなイタリアに来てしまうので、ベテランしか残っていないからでしょう」
しかしこの冗談は通じなかった。
「日本はお金がたくさんあるから有名選手に大金を払うのじゃないのか――」
「いや、ことサッカーに関しては、イタリアの方が、日本より、はるかに大金を出している」
「それにしても30歳を過ぎたスターを欲しがるのは、なぜ?」
ここで、ぼくは、うまい答えを思い付いた。
「実は、日本のプロフェッショナル・レベルのサッカーは、歴史が浅い。いわば、まだ若いので、経験を必要としているのです」
この説明で、出演者4人は大きくうなずいてくれたが、間違いではないにしても、ちょっと苦しい答弁だったような気もする。
日本が、金の力で世界をかき回そうとしている――そんな反発が欧州のサッカー界にも、出はじめているんじゃないか。それが、ぼくに対する質問にも反映してたんじゃないか。そんな気がした。
トットナム・ホットスパーが日本に行くについて、法外なギャラが動いたらしい――そんな話もイギリスで耳にした。
ガスコインが手術で行けなくなったので、海外遠征中のイングランド代表から1試合だけ、リネカーを引き抜くために、日本の役員が東京から飛んで来た。その裏には? というような記事は、イギリスの新聞にも出ていた。
誤解であるにしても、今後、悪い影響が出ないように気を付けなければならない――と、ぼくは思う。 |