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サッカーマガジン 1990年5月号

ビバ!サッカー ニューヨーク発

日本プロリーグが出来るのか?
1994年W杯めざし米国もプロ再建

プロだろうがアマだろうが  
強いのがいいチーム。プロを名乗るだけでは意味はない!
 東京の友人が電話をかけてきた。 
 「いよいよ日本にプロサッカーが出来そうだ。4月、5月が正念場らしい」 
 電話口でいささか興奮している。
 「何をいまごろ」てなもんである。 
 ぼくは、日本のサッカーは、とっくの昔にプロになったのだと思っていた。 
 選手は、相当以前からサッカーで給料をもらっていたし、日本サッカー協会でも、プロ選手の登録を認めている。 
 各チームは、入場料を自主管理という名目で、自分たちのものに出来るようにしていると聞いている。 
 チームがサッカーでお金を取り、選手がサッカーでお金をもらえば、もう立派なプロではないか。 
 「でも、プロリーグと言ってないもの……」 
 と友人は、よく分かっていない口振りだ。 
 「西ドイツのプロサッカーは、なんという名前か知っているか?」 
 「ブンデスリーガだろ」 
 「それは連邦リーグつまりドイツ連邦共和国の全国リーグという意味だ。イングランドはなんていうか知っているか?」 
 「もちろん知ってるよ。ザ・フットボール・リーグだ。世界で最初に出来た本家本元のリーグだからイングランドとは付けないんだ」 
 「その通り。ドイツもイングランドもプロだけど、プロリーグとは称していない」 
 「なるほどね」 
 「プロと名を付けたから、プロになるわけじゃない。名前より中身が問題だよ」 
 ぼくはニューヨーク−東京間の国際電話で友人から一本取った。
 いまの日本リーグは、入場料収入の処理や選手の身分については、プロの条件をすでに備えている。 
 まだ不十分な点はあるにしても、それはいまの形のままでも改善していけることである。 
  「日本リーグがプロと呼べないのは、チームのレベルが低いためと、運営している連中にプロ意識が欠けているためじゃないのか。名前だけプロに変えたって意味はない」 
 「ふーん。チームのレベルより、運営する人の意識の方が問題だな。プロを名乗れば、意識が変わるかもしれないから、名前を変えるのも意味があるんじゃないの?」 
 友人は、ようやく問題の本質に迫ってきた。 
 「確かに、プロ意識のない企業もあるし委員もいる。プロを名乗ることによって、プロ意識のない企業チームには手を引いてもらおうという考えかもしれない」 
 これは、ぼくの推測である。 
 「でも、プロを名乗りたくない企業だからといって、強いチームを除外してプロリーグを作っても、意味はない。弱いプロにお客さんは来やしない。プロを名乗ろうが名乗るまいが、強いチームが日本のトップのリーグにはいるべきだ」 
 白かろうが黒かろうが、鼠を取る猫がいい猫である。 

プロサッカーの条件
強いチーム、独立採算、フランチャイズの三つが必要だ!
 プロと名乗りさえすればいいわけではないけれど、日本の場合、プロを名乗るリーグを作ることには、ぼくは反対ではない。というのは、プロと称した方が、宣伝には好都合かもしれないからである。 
 とはいえ、それは一時的なことで内容が伴わなければ正体を見抜かれて、かえって逆効果である。 
 だから、プロを名乗るには条件がある。 
 まず第一に、プロを名乗るリーグは、常に強いチームだけで構成されなければならない。 
  親会社の方針でプロと名乗りたくないというチームでも、強ければ仲間に入れなければならない。また強いチームが新たに登場してくれば、仲間に入れる道を開いておかなければならない。プロリーグより強いアマリーグがあるようでは困るからである。 
 そういうことになると、いまの日本リーグと組織は同じことになる。だから、新たに作るプロリーグが、いまの日本リーグとどう違うのか、ぼくは想像に苦しんでいる。 
 第二に、プロを名乗るチームは、独立していなければならない。
 例の友人は「プロを名乗れば運営する人の意識も変わるだろう」といっているが、ぼくはそれほど楽観的ではない。名前でなくて組織を変えなければ意識は変わらないと思う。
  現在の日本リーグの多くのチームは、大きな会社の一部門として運営されている。それも営業の部門ではなくて、宣伝あるいは福利厚生の部門である。 
 だから、観客が少なくても、入場料収入が少なくても、担当の委員に別におとがめはない。これが営業部門だったら、過疎地の支店にとばされても致し方のないところである。
  チームの成績が悪ければ、監督などは交替させざるをえないが、それでも同じ会社の別の部署にちゃんとポジションがあって、クビになることはない。天下泰平である。 
 しかし、プロを名乗るからには、そうはいかないと思う。 
 プロであれば、チームは独立の別会社になるべきである。営業不振であれば、役員は当然交替させられるし、さらにひどければ倒産する。 
 この別会社が入場料収入だけで経営できるとは、ぼくも思わない。親会社がスポンサーとして、宣伝費を出してくれることに依存するのは仕方がない。しかし、ある程度、お客がはいり、人気がなければ親会社は宣伝費を出し渋るだろう。プロを名乗るからには、宜伝媒体として、売り物になるだけの人気を自力で盛りたてなければならない。 
 第三に、プロリーグの組織は、フランチャイズ制を確立しなければならない。東京にばかりチームが集中していては、プロとして運営していくのは難しい。だから、各地域ごとに分散して運営できるように、地域ごとのチームの権利を保護し、地方のチームがプロとして運営できるように方策を工夫する必要がある。 
 この三つの条件が整って、はじめてプロといえるのではないだろうか。  

テレビとプロスポーツ  
全米プロサッカー・リーグ再建のカギはテレビが握っている
 米国のサッカーの全国リーグが、ことしから復活することになった。 
 あのペレやベッケンバウアーを集めて華々しく行われていた北米サッカーリーグ(NASL)が解散したのが1985年。その後、東海岸のアメリカン・サッカーリーグ(ASL)と西海岸のウェスタン・サッカーリーグ(WSL)に分かれて、細細と行われていたが、ワールドカップの米国開催を4年後に控えて、両リーグの合併が2月に決まった。 
 新しいリーグの名前は、アメリカン・プロフェッショナル・サッカーリーグ(APSL)。この国では、やはりプロを名乗らないとアピール出来ないようだ。 
 新しいプロリーグは、全国組織にはなったが、4月から始まることしの試合は昨年と同じに、東と西に分かれて、11チームずつで別々にすることになっている。 
 米国の東海岸と西海岸には3時間の時差がある。飛行機で移動するのには、ニューヨークから大西洋を越えてヨーロッパへ行くのと同じくらいかかる。したがって東と西との交流試合をするのは、時間的にも経済的にも大変である。だからまずは組織だけ統合して、試合は別々にすることにしたわけである。 
 東と西のチャンピオンは9月22日に全米チャンピオン決定戦をする。これが、ことしの売りものである。 
 この全米優勝決定戦が、テレビの番組として成功するかどうかに、新しい米国プロリーグ成功のカギがあると思う。ことしのポイントは、この1試合だけである。 
 この試合が成功すれば、米国のテレビ会社が、サッカーに再び目を向けるようになるだろう。そうすれば来年以降、プロサッカー・リーグ全体にテレビがお金を出すようになるだろう。財政的なメドが立てば、野球の大リーグと同じように、西地区と東地区のチームの交流試合を組み込むことが出来る。そうなってはじめて、米国のプロサッカーが復活した、と言えるのではないだろうか。 
 いま米国のプロスポーツは、テレビのお金で成り立っている。野球も、アメリカン・フットボールも、バスケットボールも、テレビの放映権料が収入の大部分を占めている。サッカーも、テレビの番組として売れなければ、成功の見込みはない。 
 米国のテレビ会社が、人気スポーツの放映権を買うために払うお金は日本では考えられない莫大な額である。これは米国では、ケーブルテレビや衛星テレビの発達で、チャンネルの数がたくさんあり、放映する番組の方が不足しているからである。 
 そのために、人気のスポーツに、テレビ局が競争で集まって、放映権料をつり上げている。 
 いまの米国のテレビ界の状況は、そのうちに日本にも生まれる可能性がある。そのときに、日本のサッカーが、テレビにとって魅力あるものになっているかどうか。 
 これも、日本のプロサッカーのために、研究して置かなければならない課題だろう。


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